第134話 優太_誕生日の約束
「莉奈さんの誕生日っていつ?」
「8月」
「え!過ぎてるじゃん!ごめん、何かお祝いさせて」
「いやいや、いいよ。」
苦笑いしながら手を振る莉奈さんの手を取ると、そのまま握りながら伝えた。
「なにかお礼させて。俺、あの時ほんとうにしんどかったから…、莉奈さんに会えてすごく感謝してるんだ。だから迷惑じゃなければお礼したい」
「…そう。じゃあ、期待しとく」
ありがと、でも、無理しないでね。そういい、莉奈さんは残ってる食事を食べ始めた。
お会計をする際にシマナガエ柄の封筒からお金を抜き出し、封筒を莉奈さん渡した。嬉しそうに鞄にしまっている。
「こんなんで良かったらいくらでもあげるよ」
「そういうのじゃないのよ。優太からもらった封筒、全部取っといてあるよ」
そういう風に言われると嬉しくて期待したくなる。だが、先ほども彼女がいるのだから、と釘を刺されたばかりだ。思い上がらないように、あえてスンとした気持ちなるように言い聞かせた。
お店を出て一緒に銀座線まで歩く。
「この後、事務所に戻るの?」
「うん」
「事務所ってどこにあるの?」
「秘密」
今日、秘密ばっかじゃん。その気持ちが顔にでたのだろう。繋いでいた手を揺らしながら、莉奈さんがおかしそうに言った。
「すねないで」
「拗ねてないよ」
しかし図星である。今日1日で感情の上振れと下振れが激しい。
「あ、これ、明日見に行くやつだ」
電子広告版に表示されている、美術展を指差して莉奈さんが言った。
「へぇ」
上手く感情を持ち直すことができず、そっけない返事をする。
「上野にある美術館なんだけど、友達と行ってくるんだ」
美術系には全くといってもいいほど触れてきてない世界だが、楽しそうに話してる彼女をみるとちょっと興味が湧いてくる。
銀座線の改札をくぐり、止まっている列車に乗り込む。車内はガラガラで端の席に座った。
「ね」
肘でつっつかれ小声で、機嫌なおして、とささやいてくる。俺は苦笑してごめん、と答えた。
「機嫌悪いわけじゃないよ」
「私が、秘密、ってばっかり言って教えてくれないから?」
なんでこんなに察しが良いんだ。
「いや、色々詮索して悪かったな、って」
「全然いいよ」
組んでいた腕を解いて彼女の手を握る。すぐに指を絡めてくるので握り返した。
「家、北千住駅なら表参道駅で乗り換え?」
「そうだね」
「この後、どこかいくの?」
「予定ないし、一旦家に帰ったらジムに行こうかなって思ってる」
「ちゃんと鍛えてて偉いわ」
渋谷駅から隣駅である表参道駅へあっという間に着いた。名残惜しい気持ちを抑えつつ席を立つと、また来週、と声をかけて電車を降りる。
ドアが閉まった後も莉奈さんは振り返って窓越しに手を振ってくれている。電車が発車して莉奈さんが見えなくなるまで俺も手を振り返した。




