第132話 優太_カウンターランチタイム
「何食べる?」
莉奈さんがメニューを広げ、見やすいようにこちらにスライドしてきた。それを莉奈さんが見やすいように左に押し返す。少しの間黙ってお互い綱引きの逆バージョンのようにメニューを押し返しを繰り返していたが、手を引くと勢い余って莉奈さんが肘をカウンターに打ち付けた。
いたっ、と言い、ひどい、と理不尽にガンを飛ばされる。お店の中なので大声で笑うわけにもいかず、忍び笑いをこらえてると、莉奈さんも隣で声を立てずに笑っている。
俺はメニューから夏野菜の天ぷら御膳を頼み、西京焼き御膳を頼んだ。
「マークシティの中はよく通っていたけど、ここのお店は知らなかったよ」
「通りからだとちょっと見えにくいよね」
「ね。和食が好きなの?」
「和食も好き。」
しばらく好きな食べ物の話をし、やたらと渋谷の飲食店に詳しい莉奈さんに、なんでそんなに詳しいのか、と聞くと、渋谷にある大学に通っていたという。そこからお互い、大学時代の話に花が咲いた。
食事が運ばれ、お盆の上にきれいに並べられた料理を眺める。なんとも健康的なランチだ。揚げたての天ぷらはサクサクと触感がよく、大根おろし入りの汁に浸すとさっぱりしていておいしい。
「あの、9月30日ってあいてます?」
「え、なに、急に敬語?」
西京焼きの身をほぐしていた莉奈さんにが噴出した。
「その日って予約できます?できれば長時間で」
「あー、貸切で予約したいってこと?」
貸切っていうのか。呼び方は知らなかったがおそらくそうだろうと思い頷く。
「貸し切りはできるけど、結構良い値段するよ?」
「それはわかってる。何時から何時まで大丈夫なのかな?もしできたら」
「ちょっと待って」
莉奈さんは手のひらを広げて俺の話を遮ると、持っていた箸を置いた。
「もしかして借金してまで私に会いにきてる、なんてことはないよね?」
声を潜めて疑惑の目を向けてくる。
「え、どうして?」
なんでそんな発想になるんだ?
「今まで現金払いだったのに、ここ最近クレジット決済でしょ?もしかして、無理しているんじゃないかと思って。」
「違うよ。クレジット決済にした方がポイント溜まるなぁと思ったから」
「ほんとうに?」
じっとりと眉間にしわを寄せた状態で見つめてくる。誤魔化せず俺はすぐに白旗をふった。
「ごめん、噓ついた。本当はお金のやりとりを直接したくないんだ」
「どうして?」
「お金を渡したときってどうしても俺と莉奈さんってお客とキャストなんだよな、って現実を見ちゃうというか」
なんか言ってて恥ずかしい。俺と莉奈さんはしょせん客とキャストの関係性でしかないのに。




