第129話 優太_優先すべきもの
「さっきのシマナガエの封筒、あれ欲しいな。中身はいらないから」
スッキリした心と気だるさが残る体を横たえながら、莉奈さんの声に目を開けた。
「…中身ごともらってよ」
「中身はいらない」
即座に断られる。でも一度出したお金を引っ込めるのもなんだかな…。
「じゃあさ、そのお金使ってお昼ご飯たべにいかない?」
「いいよ」
「この後、予約入ってないの?」
「今日は優太だけ」
今日は優太だけ、その言葉を心の中で繰り返す。どうしたって口元が緩んでしまうことを止められない。
「今日、出勤予定になってなかったよね?もしかして無理させた?」
「いや、土日はリクエスト予約が入った場合のみお店に出ることにしたから。だから、ホームページに載ってる予定表には出勤が表示されない仕組みになってるのよ」
「そうなんだ。俺の他にリクエスト予約する人っているの?」
いるんだろうな、と心の準備をした。
「秘密」
ニヤッと笑う彼女にガクッと気持ちが落ちる。
やっぱりいるんだな。あれだけ口コミ書かれているもんな。
「北海道旅行どうだった?」
「楽しかったよ」
「写真とかない?見たい」
ガクッとした気持ちを抱き起して、携帯を取ると莉奈さんを後ろから抱き込むように寝そべりながらカメラロールを開く。
とりあえずゆずが写っていない写真を選ぼうと思い、顔の近くに携帯を持ってくると莉奈さんが首をのけぞるようにして覗いてきたので片手で見えないよう目をふさいだ。
「これ、支笏湖でカヤックしてきた」
撮影した動画をながす。
「すごい!沖縄の海みたい!」
いいなぁ、としきりに羨ましがっている。美味しかったご飯、ひまわり畑、青い池、旭川動物園、昨日行ってきたばかりなのにもう遠い思い出のように感じる。
「ね、どれが一番良かった?」
こちらに寝返りを打ち弾んだ声で聞いてくる。
「支笏湖とひまわり畑だったかな」
「へぇ、どうして?」
「支笏湖は水が本当にきれいだったし、あんなに広いひまわり畑は初めてだったし」
俺の腕の中でうん、うん、と頷く彼女の髪の毛を掻き上げるようになでた。
「ひまわり見た時に、莉奈さんのネイルと同じだなって思い出して、今何してるのかなって。お店のホームページ見てた」
すぐに莉奈さんの表情が曇った。
「ダメだよ。彼女といる時によそ見したら」
その言葉にハッとした。
「…俺、彼女と旅行に行くっていったっけ?」
「言ってないけど、北海道旅行でこのコースは彼女でしょ」
少し諫めるような目でみられて、「ごめん」と言いながらその目線から逃れるように彼女の頭に手をやり胸元に引き寄せた。
「別に怒ってないよ」
おかしそうに彼女が笑う。本当に怒ってないよ、と言いながら頭を起こして俺の顔を覗き込んだ。
「でもね、優先すべきものがあるはずだろうから、よそ見はしたらダメだよって思っただけ」
「…わかった」
「ん、いい子」
俺の頭を胸に抱くようにして、頭をポンポンしてくる。子ども扱いされながらも悪い気はせず、莉奈さんの柔らかい胸に顔を押し当てた。彼女に本心を見破られたような気がして恥ずかしかった。




