第126話 優太_夏の街で君と
都合よく会えるわけもなく、多少のがっかりを抱えてパン屋を出た。今では通り慣れたマークシティの4階を道玄坂方面へ進む。もう少しで出口に着きそうなところで、携帯の振動がお尻に伝わり、画面をみると非通知だ。俺はすぐに電話に出た。
「もしもし」
「いま、後ろにいるよ」
笑い声を含んだ声が聞こえる。携帯の電話を耳に当てたまま振り返ると、少し離れた所で莉奈さんが手を振っている。青と白のストライプのシャツに白いロングスカート、黄色いハンドバックを下げていて夏らしい装いだ。
莉奈さんは電話をきると笑いながら駆け寄ってきた。
「パン屋からでてきたでしょ?」
「え、見てたの?」
「ちょうど優太がパン屋から出てきたところを見かけて後をつけてた。気づくかなーと思って」
「いや、声かけてよ」
携帯を尻ポケットにしまうと、すかさず莉奈さんが手を繋いできた。手を握り返しながら、優しい気持ちで心が温かくなる。
「もしかして、けっこう早い時間からパン屋にいた?」
「朝ごはんを食べにね」
「ごめん、今日は二度寝しちゃった。」
「全然いいよ、約束してるわけじゃないし」
ありがとう、と繋いでいる手を揺らしてくる。ゆずには感じなかったときめきのようなものが確かに俺の中にあるのを感じる。
マークシティを抜けてホテル街にたどり着くと、いつものホテルに向かおうと道を曲がる莉奈さんの手を止めた。どうしたの?と見上げてくる莉奈さんに、気恥ずかしさをごまかしたくって敢えて目を合わせずに言った。
「今日は莉奈さんが行きたいところにしない?いつも同じところだし」
「そう?いつもと同じ所でもいいよ?」
「いや、たまには違うところにしよう。莉奈さんが行きたいところに連れて行って」
そうだなぁ、と少し唇を突き出して考え込む表情が可愛らしくて思わず微笑んだ。
なに?と目で問いかけてくる彼女に、なんでもないよ、と答える。
「ケーキ好き?」
「え、好きだけど」
「じゃあ、ケーキ食べれるところにしよ」
こっち、といつものホテルの目の前を通り過ぎ、少し歩くとリゾートホテルのような建物が現れた。ここはどうかな?、と聞いてくる。
「値段見てから決めてね。でもケーキ食べれるよ」
全力でケーキ食べたいな、という顔をしている。こんな風に甘えてくれるのがこそばゆくて嬉しい。値段なんて気にせずここにしようと内心決めて、入口をくぐった。




