第124話 知夏_私の理想の生活とは
15人近くのエージェントと面談をして、転職活動のサポートをお願いしたいと思える人を2人見つけることができた。どちらも大手ではなく小さな会社に勤めており、誠実で情熱的だと感じた。
2人のうち一人は鈴木さん。奥さんが元キャバ嬢であり、水商売から昼職に転職したい人や、子持ちのママさんの転職活動を得意分野としている。
もう一人は松永さん。落ち着いた紳士的な中年男性で、得意な業界はIT。IT業界にそこまで強い興味があるわけではないが、人柄で決めた。
そもそも転職エージェントを見つけることに、ここまで労力が割かれるとは思ってもいなかった。求職者と転職エージェントをマッチングさせるサイトで、驚くほどのメッセージ数をもらった。
だが、私の年収だけ見て、この様な仕事を紹介できます、といきなり求人ベースで連絡を取ってくる人は基本的に合わなかった。確かに私の年収ならハイクラスの転職希望者と見受けられるだろう。
しかし、一般企業で年収1000万を稼ぐのと風俗で年収1000万を稼ぐのとでは全く性質が異なる。そういった誤解を与えないために、正直に経歴を記載しているのに、全く確認せずに連絡をよこしてくる人のなんと多いことか。
私は登録している年収をわざと低めに登録し直した。あまりにも低すぎると風俗嬢のくせに稼げていない、と思われるのも嫌だったので、とりあえず実際の年収の8割で記載し直した。
さすがに風俗で稼いだ年収と同等の年収の仕事ができるとは思っていない。私にそこまでの能力も経験も実績もないことは重々承知している。
人材紹介の仕事のことはよくわからないが、おそらく転職エージェントが求職者を探すときに、年収でフィルターをかけて一斉にメッセージを送る仕組みなのだろうか。だとしたらお互い時間と労力の無駄としか思えなかった。
鈴木さんと松永さんは初めてのメッセージに、経歴を拝見いたしました、とご丁寧に記載してあった。エージェント探しに疲れ気味だった私はその時点ですでに好印象だった。
私は風俗嬢を卒業したらどのような生活を送りたいのか、寝る前に考えるようになった。これは鈴木さんからのアドバイスだった。
水商売や風俗から一般企業に転向すると、必ずと言っていいほど年収は下がる。どの程度の生活水準を保ちたいか、まずはイメージをし、それが叶うような年収が稼げる仕事を探すのはどうか、と言ってくれた。さすが奥さんが元キャバ嬢なだけある。
私はとにかく普通の生活を送りたかった。私にとっての普通の生活とは平日は仕事をし、土日はゆっくりと休んだり、遊びに行く。自炊を行いたまに外食を楽しみ、旅行は年に1~2回いければ十分。
そして好きな人を見つけて、異性なら結婚、同性ならパートナーシップを組んで、穏やかな時間を過ごしたい。刺激的なものは何もいらない。身の丈に合った生活を送りたい。
前職の年収はボーナス込みで約450万。それよりもう少し欲しいので、ざっくり計算だが、年収500万前後。残業は少ない方が良い。贅沢を言うのならフレックスタイム制でリモートを導入している仕事が良い。
真田店長が言ってくれた時間とお金の優先順位を考えると、私は時間の優先順位の方が圧倒的に高かった。今までの収入をキープしたい、もしくはそれ以上稼ぎたいというモチベも理由も私にはもうない。
私は次の日、藤本店長に新規店舗の立ち上げ、店長の仕事に就くことを辞退したい旨を伝えた。




