第122話 知夏_真田店長と焼き鳥屋
会長からの新規店舗立ち上げの提案を受けた3日後、藤本店長が2カ月ぶりの休みなので、川崎店の真田店長がカバーに入ってくれた。
私はちょうど生理中だったため、終日電話対応やホームページ、SNSの更新、領収書の作成に没頭した。お客様からの問い合わせが落ち着いた18時頃、私の隣で清算作業をしている真田店長に遠慮がちに声をかけた。
「あの、質問してもいいですか?」
「ん?キャストから店長にならないか、って提案受けている件?」
「え、なんでわかったんですか?」
「まぁ、今日、ずっとチラチラ私のことを見ていたし、藤本さんから話は聞いていたから」
いつ質問しようと機会を伺うためにチラチラ見ていたのバレてたのか。恥ずかしい…。
「ま、職場だとなんだから仕事終わったらご飯にでもいく?」
「はい、お願いします。」
私は頭をさげ、これから訪れるキャストの清算ラッシュに備えて準備を始めた。
結局仕事が終わったのは21時過ぎ。真田店長がよくいく居酒屋についていった。気安い感じの雰囲気で、サラリーマンだけでなく、女性客も結構多い。カウンター席に着くとおしぼりを受け取り、真田店長はビールを、私はレモンサワーを注文した。
「ここ、焼き鳥がおいしいよ。レバーと砂肝が個人的にはおすすめ。嫌いな食べ物ある?」
なんでも食べれます、と答えて注文は真田店長にお任せする。真田店長は何種類かの焼き鳥を2本づつ、イカの塩辛、もつ煮込み、だし巻き卵を注文した。すぐに頼んだ飲み物とお通しのきんぴらごぼうが出てきた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。」
失礼にならないようビールジョッキの下の方に、自分のレモンサワーグラスを軽くぶつける。真田店長はビールを一口だけ飲むと、すぐにきんぴらごぼうごぼうを食べ始めた。
「お腹すいたよね。遠慮せず食べたいものあったら注文してね。」
「ありがとうございます。」
私もきんぴらごぼうをつまんだ。思ったより鷹の爪が効いており、ピリッとしていてお酒によく合う。
「さて、会長から新しい店の店長をやらないか、って言われたんでしょ」
「はい」
カウンター越しに店員さんが塩辛ともつ煮込みを渡してきたので、私は中腰になってそれを受け取る。
「迷ってる感じ?」
「そうですね。いきなりのお話すぎて戸惑ってます」
「まぁ、まだ若いもんね。キャストとして十分稼げる年齢だし?」
「いや、まぁ、キャストは年内で辞めようかと思っているんですが」
「あら、どうして?」
「借金を返すためにこの仕事をしていたので」
「じゃあ、もう目標は達成?」
「はい」
「そう」
おつかれさま、と真田店長は微笑んだ。借金を抱えた女性はこの業界では珍しくない。特別視することもなく、普通のことのように接してもらえるのが嬉しい。




