第119話 知夏_意外すぎる会長の経歴
「あの、藤本店長って2~3カ月に1回くらいしか休み取ってないですよね?」
それくらい休みが取れないってことですよね?と意味を込めて言った。
「藤本は働きすぎ」
会長がスパッと言った。店長は、いや~、と頭をかいている。
「休んでもやることないし、仕事している方が楽しいんで」
「まぁ、業務委託だから休み取る取らないは本人に任せているけど。体には気をつけてね」
「お心遣い、痛み入ります」
再びテーブルに頭が着きそうな勢いでお辞儀している。
「莉奈さん、藤本みたいな働き方を求めているわけじゃないからね。他の店舗のスタッフや店長は週1~2のペースでしっかり休んでいるから」
「あ、はい」
苦笑いしながら頷く。確かに他の店の店長は定期的に休みを取っている。1人で運営している店は、姉妹店の店長や私みたいなスタッフがカバーに回る仕組みだ。
「川崎店の店長は元々キャストだったから、気になることがあったら彼女に聞くといいよ。彼女はキャストとしてもベテランだからね」
「真田さんですよね。わかりました」
川崎店の真田店長は姉御肌タイプなので、キャストの面倒見がいい。
キャスト時代はずっと本指名ランキング1位をキープしていただけに、50歳を超えた今でも常連のお客様から指名を受けている。50歳を超えてもなおキャストとして現役で指名される。それは川崎店に在籍しているキャストとしては憧れでもあり、指名をされ続ける秘訣について真田さんはよくキャストから質問をされている。
ちなみに私が初めて真田店長と話した時は40歳くらいかと思った。この業界にいると、美魔女と呼ばれる中年層が多いことに目を見開いてしまう。
会長が追加で日本酒を頼み、おちょこが人数分きた。私は会長にお酌をしながらふとした疑問を口にした。
「あの、会長はどうして風俗店をやろうと思ったんですか?」
「そりゃあ、儲かるからだよ」
右の口角をあげてニヤッと笑った。私は店長にお酌をし、店長がお酌をし返してくれる。
「元々、風俗店の店長をやってたんです?」
「いや、僕はエンジニアだよ」
意外すぎる答えである。エンジニアがどうして風俗店をやっているんだ?
「今でも必要があればエンジニアの仕事はするよ。ちなみに店で使用しているシステムは俺が作った」
「え!すごいですね」
まじか。驚きだ。
「ホームページがなかった時代はね、電話で客とお店がやり取りしていたんだ。でも、ホームページが世の中に出始めた時に、これを風俗店に導入したら流行るんじゃないかと思って、風俗店をやってた友人に提案したのがきっかけ。」
「昔はどうやってお店の電話番号を知ることができたんですか?」
「色々だよ。新聞や雑誌の広告、電話ボックスにチラシを貼ったりね。電話ボックスは知ってるよね?」
「あ、はい。緑色のやつですよね。使ったことはありませんが」
まじか、とつぶやきながら会長は笑った。
「若い人と話してると、俺らがおじさんだと痛感するね」
藤本店長に同意を求めながら笑っている。会長はまだまだ若いですよ、と会長の空いたおちょこにお酌をしながら藤本店長が言った。
「それで友人づてにお店のホームページの作成や、システムの構築を頼まれるようになって依頼をこなしているうちに、風俗業界に興味をもって自分でやってみようかなと思ってさ。知り合いの店で仕事させてもらって独立したんだ」
なんとも変わった経歴に興味が湧いて私は前のめりで話を聞いた。
「僕は風俗店を利用したことが無いから、最初はキャストが言っていることが全く理解できなくってさ。本番って意味も何のことか分かってなくて、キャストによく怒られたよ」
「え、会長は風俗を利用しないんですか?」
「まぁ、僕には妻がいるからね。他の女性を抱こうとは思わないかな」
複数の風俗店を経営しているトップなのに、メンタルがイケメンすぎる。世の中の男共に聞かせてやりたい。
「お店の売上が安定するまでは、エンジニアの仕事がメインだったかな。今では色んな人のおかげでここまで大きくなったよ。藤本のような優秀な人材がいてくれるおかげだ。」
会長は優しいまなざしを藤本店長に向けて言った。店長は感極まったように両手を両ひざに置いて頭を下げた。頭が今度こそテーブルにぶつかってゴチンと音が鳴る。
「一生ついていきますっ」
仕草がヤクザすぎる。
風俗業界なのに事務所が一般企業のような雰囲気をしているのは、この人が創業者だからなのだろう。
この業界に来るまでは、風俗業界にいる人は一般企業で働けない、何かしらの事情を抱えている人が集まるところ、という偏見を持っていた。しかし、扱うものが性産業なだけであって、それ以外は他の企業と大差ない。
ここの会社に就職するかは別として、とても興味深い話だった。




