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第114話 優太_お揃いの帽子とひまわり畑

 朝ごはんを苦しくなるほど食べた俺たちはホテルをチェックアウトした。

 ここのホテルは確かに最高だった。圭介が熱弁をふるのもわかる。昨夜、スタッフからお勧めしてもらった居酒屋は、地元の人で溢れかえっており、リーズナブルで量が多く、海鮮の鮮度が抜群だ。特にシマエビ、あれ、美味しかったなぁ。

 温泉もサウナも今まで行った中で、感動するほどよかった。風呂上がりにアイスやフルーツ水を無料で飲めることには驚いた。

 車のエンジンをかけるといつもはすぐにカーナビを入れてくれるゆずが、熱心に携帯を見ている。どうしたのかと思って見ていると携帯の画面をこちらに向けてきた。

「青い池の近くにひまわり畑があるみたい。ここ寄ってもいい?」

 もちろん、と答えるとゆずはさっそく目的地をカーナビで入力した。ここから約40分ほどで行ける。

 お互いあまりにも美味しい朝ごはんを食べ過ぎたので車内の中は静かだ。ゆずは苦しそうにお腹に手を当てている。

「水飲む?」

 ちょっと心配になって声をかける。

「大丈夫。美味しいご飯でお腹が苦しくて幸せ」

 ゆっくりお腹をさすりながら苦しそうに息を吐いた。

 今日も夏らしい晴天だ。サングラス越しでも空が晴れているのが良くわかる。

 ひまわり畑の駐車場に車を止めると、さっそくひまわり畑まで向かった。

「おぉ!」

「すごい!」

 二人同時に声を上げる。

 一面のひまわり。どこまでもなだらかな丘に沿って黄色い景色が続いている。これはすごい、見応えがある。夏の北海道って感じだ。

 ひまわり畑にそって、散策する。写真や動画を撮っているゆずの傍ら、俺は莉奈さんの爪に描かれているひまわりを思い出していた。

 ゆずは男だからとか女だからとかそういう風に物事をみない。常に対等であろうとする。常に何事も折半だ。もちろん毎回全てをおごろうとは思わないが、たまには奢らせて欲しいと思うし、頼って甘えて欲しいと思う。

 やはり、好きな人の前では男らしく振舞いたいが、それはゆずの好むところではない、ということに付き合ってから気づいた。

 付き合う前は仕事でもなんでもとにかく対等に、もしくはそれ以上の人間になれるように、と惜しみなく努力する姿に惹かれたが、それを俺にも向けてくるあたりに一抹の寂しさを覚える。

 莉奈さんは俺を男として扱ってくれる。男として立ててくれる。そして、俺を男として求めてくれる。

 男性として扱われることの心地よさを今まで明確に意識したことがなかった。好きな女性から男性として扱って欲しい、自分が思った以上にこの欲求が強いことに、初めて気がついた。

 いつの間にかゆずと莉奈さんを比較してしまい、その考えを慌てて追い出す。

「優太、一緒に写真撮ろ!」

 ゆずが構えたカメラにお互い収まるように体を寄せ合う。お揃いのDEKKAIDO帽子をかぶり、ひまわり畑を背景にインカメラで写真を取った。

 ひまわり畑から青い池と呼ばれる観光地に移動すると、大型バスが何台も駐車場に止まっており、かなりの観光客で賑わっている。

「ごめん、ちょっとトイレに行きたいから待ってて」

 小走りにトイレに向かうゆずを見送る。観光地のトイレあるあるよろしく、女子トイレは外まで長蛇の列をなしていた。

 俺はトイレから少し離れた場所に移動すると、莉奈さんがいるお店のホームページを開いた。 奥様一覧から莉奈さんのページに飛ぶ。出勤表を見て、今日出勤していることを知り、モヤっとする。

 次の出勤は月曜日になっており、土日は休みになっている。明日の土曜日に予約しているがなぜ出勤になっていないのだろうか。

 俺はメールフォルダーを開き、お店とのやり取りを確認した。ちゃんと予約はされている。明日、莉奈さんにあったら聞いてみよう。

 再び莉奈さんのページに戻ると、新しい写メ日記が更新されていたので中身を開く。最近読んだ本の紹介がされ、それが先週、一緒にパンを食べている時に見せてくれた本だと気づいた。

 写メ日記の内容は本のあらすじから始まり、主人公がのめり込んだ美容について感想がかかれている。美容にちなんで、最近見つけたお気に入りのスキンケア用品やお風呂上がりにやるようになったストレッチについて書かれており、一般的な普通の人が書いているような内容だ。とても風俗サイトに載っている写メ日記とは思えない。

 莉奈さんの口コミ一覧には多くの感想が寄せられ、どれも高評価なことからきっと人気なんだろうな、と思う。口コミを投稿するとお店から1000ポイント付与され、それがお店を使用するときに使えるのだが、俺は一度も口コミを投稿したことがない。

 なんとなく、他の客と同じように口コミを投稿すると余計に数あまたの中の一人になってしまう様な気がしてならない。

 莉奈さんへのお土産、何にしようかな。

 なにを選べば喜んでくれるだろうか。頭の中でお土産候補を浮かべつつ、ゆずがトイレから戻ってくるのを待った。


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