第11話 優太_お金を払えばビジネス
「なに笑ってんだよ」
「ごめんって。ガン飛ばすなよ。いや、千早も男の子なんだなって安心しただけだよ」
「どういう意味?」
「何事も余裕もってクールにこなすイメージがあるから、そういうドキドキとかに興味ないと思ってた」
「優太、俺を何だと思っているんだよ。俺だって性欲モリモリの健全な男性なんだぜ」
キメ顔をしてくる千早に、はいはい、とうなづく。
「つまり彼女にはトキメキがなくなったってこと?」
「ないねー。まぁ、付き合って3年たつからしょうがないかもしれないんだけど。もう彼女とは1年半もやってないから、今更感もあるし」
ということは付き合って1年半はセックスしていたってことか。好きな人と当然のようにセックスできるだけ羨ましいよ。
「彼女はなにも言ってこないの?」
「いや、それがこの前泣かれたんだわ。ずっと誘いを断ってきたからついにキレたみたい。」
それは怒りからくる涙なのではなくて、不安からくる涙なのでは…?と思ったが千早の彼女を直接知っているわけではないので黙っておく。
「1年半も拒まれたら彼女もしんどいんじゃない」
心からの共感を込めて言ったが、千早には伝わらなかったようだ。
「いや、俺だってしんどい。でも俺だってなるべくイラついたりしたくないから、わざわざセフレに金払ってまで済ましているんだよ」
「え、お金払っているの?セフレって風俗嬢のこと?」
「いや、店には在籍してない。元々在籍してたけど」
「どういうこと?」
「元々、デリヘル嬢だった彼女のところに通ってたんだよ。相性良かったから、外で会えないかって交渉した。ちなみに本職は保育士」
全くもって初耳である。女好きの大和が事あるごとに風俗店へ行っていたのは知っていたが、千早が風俗通いしていたとは意外だ。
「で、その子がいいよ、って?」
「そう。お金なくても別にいいよ、って言われた。でも、払うようにしている」
「どうして?」
「もし、彼女にバレた時に言い訳がきくようにするため」
一瞬頭の中がフリーズした。
「はい、先生」
「なんだね、優太君」
授業中の生徒のように片手をあげて質問した俺に、千早はわざと尊大な態度で指をさす。
「なぜお金を払っていれば、言い訳になるのでしょうか」
「それはビジネスであるからだよ」
ビジネス…?俺の表情をみて、ふざけた教授態度を改めた千早は真面目な顔で言った。
「お金が介在している以上、ビジネス。向こうはお金をもらって俺にサービスを提供しているだけ。どんなに相手に対して気持ちが無かったとしても金銭無しにセックスしたと知れば女性はすぐに浮気って言うだろ?」
「それを言ったところで女性って納得するもんなのかな」
「俺がもし女だったら納得する。女性がリンパマッサージやらアロママッサージやらをお金を出してサービスを受けているのと何が違うんだ?」
「いや、結構違うと思うぞ…」
やれやれといった様子で千早は肩をすくめる。
「まぁ、頭では納得できても感情的に納得するのは難しいだろうな」
「そんな風俗通いをOKする彼女ってけっこう珍しいと思うけど」
「前の彼女は許してくれた」
「まじか。ずいぶんと心の広い彼女だな」
「まぁ、その子、風俗で働いていたことあるから。」
「え、ちょっと待って。そんな子とどこで知り合うの?」
「大学の同級生」
事もなげに言われてもそんな子と知り会ったことがない。いや、そもそも風俗の仕事をしていたら隠すものだろうから、俺が気づかなかっただけかもしれない。
「彼女が風俗嬢っていやじゃないの?自分以外の男を相手にしているわけでしょ」
「そりゃあ、現役風俗嬢はちょっとなって感じだけど。元カノは元風俗嬢だったから別に気にしないよ」
「もし千早の彼女が、千早とはやらないのに他の男に金払ってやっていても平気なわけ?」
「まぁ、そうだなー。俺がやっているのにお前はダメ、は筋が通らないから、いい気分ではないけど怒ったりはしないかな」
まじか。とても俺はそんな風には考えられない。
「そんなに責めるなよ。優太だって風俗ぐらい行くだろ」
「いや、俺は行かないから」
「噓つけ。新卒の時に大和と風俗に行っていたじゃん」
「それ以外行ってない」
「え、まじ?」
「うん、あれが初夜」
「気持ち悪い言い方すんなって」
珍獣を見るかのような視線から逃れるように、俺はウェイターに追加のハイボールを頼んだ。
「やっぱギガンデスすぎてショックだった?」
「いや、さすがにそこまで怪獣ではなかったよ?」
千早の失礼極まりない言い方に笑いながら一応否定をする。




