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第109話 優太_ジップラインと笑い声

 風通しがよさそうなログハウス風の建物で受付を済ませると、携帯など貴重品をロッカーにしまった。坂を上り、ツリートレッキングへ向かう。

 このツリートレッキングはゆずが見つけてきた施設で、お互い体を動かすのが好きなので初日に行こう、ということになった。

 見上げれば夏休みとあって子供連れの親子が、空中にぶら下がっている道を進んでおり、楽しそうな子供の叫び声が響いている。

「けっこう高いね!」

 ワクワクした様子で見上げているゆずと、スタッフの方から一通り説明を受けた。初級コースと上級コースがあり、俺たちはもちろん上級コースを選んだ。

 木の階段を登っていくと、木と木の間に作られたロープだけの道は思った以上に不安定で、普段使わない筋肉を駆使しながら最大のお目当てであるジップラインに到着した。

 足元をみると思った以上に高く、ちょっとびびる。俺は柱になっている木の幹にしっかりつかまった。

 目の前のゆずが、お先に!と言って豪快に踏み台をけると、全長100mのジップラインで空中を疾走する。わーっと叫び声がどんどん遠くなり、着地台に着いた時には子供のような笑い声がこちらまで聞こえた。

 着地台からゆずがどいたのを確認して俺も飛び出した。飛び出す瞬間の恐怖は一瞬で後方に流れ去り、爽快さが突き抜ける。体の向きが安定しないまま、後ろ向きで着地すると笑いがこみ上げてきた。これは楽しいや。

 スタート地点に戻ると、近くにある低めのジップラインで遊んだ。ゆずは大変気に入ったようで、3回も往復していた。

 汗をかきながら坂を下り、「時間に余裕があるから釣り堀で釣った魚を炭火で焼いて食べよう」とゆずが言い出した。俺は「先に魚を釣ったほうが、魚代を奢られるっていうのはどう?」と提案し、残念ながら負けた。

 受付で魚代と炭火代を払い、1匹づつ焼いて塩をふる。

「意外とうまいな」

 割りばしで白身をほぐしながら口に運ぶ。ゆずは器用に骨を取り除き、綺麗に食べている。

「池の色が結構あれだったから、もっと生臭いかと思っていたわ」

 他の客に聞こえないよう、笑いながらこっそり呟くゆずに頷いた。魚を食べ終わる頃には少し影が伸びはじめ、もうすぐ夕方が訪れることを知らせるかのように日差しが優しくなっている。

 俺たちは再び車に乗り込み、今夜泊まる定山渓温泉を目指した。温泉街なだけあって立派な宿泊施設が立ち並ぶ。せっかくの北海道旅行だから、宿はケチらず良さそうなところに泊まろう、と二人で話し合ってちょっといいところを予約した。

「すごい!おしゃれ!」

 和モダンな室内に歓声を上げながら写真を撮っているゆずが、不意にこちらにカメラを向けてきたので慌ててピースをした。

 夕飯まで時間があるので、さっそく浴衣とお風呂セットを専用の籠に入れて大浴場へむかう。おそらく俺の方が早く部屋に戻るだろう、ということで部屋の鍵は俺が預かった。

 大浴場はプールみたいに広々としていて、露天風呂だけでなくサウナもついてる。久々のサウナにワクワクしながら、体を洗い温泉に浸かるとじんわりと力が抜けていく。家の浴室では足を延ばして浸かれないので、思う存分体を伸ばして温泉を堪能した。

 手ぬぐいを持ってサウナに入ると中は広々としていて、ゆったり座れる仕様になっている。俺は人が少ないことをいいことに、奥の方に座り胡坐をかいた。

 サウナに入るのも半年ぶりだ。その時は千早と圭介、大和と都内にあるサウナに行って誰が一番耐えられるか、などと子供のような対決をし、結局一番堪えた千早に全員でビールを奢った。そのことを思い出して口元が緩んだ。

 室内にある時計をみて10分経つと、水風呂に向かい手桶で汗を流してから浸かる。この肺に冷たい空気が入り込んでくるような、手足がしびれてくるような感覚が心地よい。

 1分ほど浸かると外気浴をするために露天風呂へ向かった。隅に置いてある椅子に深く腰掛けると深呼吸する。目を閉じると鈴虫らしい虫の鳴き声と、露天風呂に注がれ続けているお湯の音しか聞こえない。なんて静かなんだろう。

 なにも考えず体内から聞こえる感覚に耳をすます。この空間を気に入って俺はサウナに3回も出入りを繰り返した。

 心身ともにさっぱりしたころにはすでに1時間半近く経っていた。男湯の暖簾をくぐって共有スペースに向かうと、浴衣姿のゆずがパッと顔を上げた。

「やっときた」

「ごめん、ゆずに部屋の鍵渡しとけばよかったね」

「いいよ、マンガ読んでたから」

 本棚にマンガを戻すと、見て、とゆずが自身の足元を指さした。

「丈が足りなくてつんつるてん」

 その言い方が面白くて笑った。

「足が長い証拠だね。大きめの浴衣もらってこようか?」

「んー、いいや、これでも。優太の丈もつんつるてんだしね」

 ゆずも笑うと、お互い部屋に荷物を置きレストランに向かった。夕飯は御膳料理で、豪華な品数が所狭しとテーブルの上に並べられ華やかな食卓になった。仲居さんが丁寧に一品一品説明してくれる。どれも美味しそうだ。

 追加で注文したビールをお互い注ぎ合って乾杯する。サウナ上がりのビールは最高に美味い。一気に飲み干すと幸せなため息をついた。


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