第103話 優太_読書する彼女を見つけた朝
それ以来、毎週土曜日か日曜のどちらか莉奈さんを指名するようになった。
彼女と接するたび俺は男としての自尊心や自信が、少しづつ回復していくのを感じる。常に心に重くよどんでいた澱が次第になくなり、自宅のベットで仰向けになりながら目に涙がたまることもなくなった。
やはり、女性から男として求められることは俺にとって大事なことだったらしい。
会社で千早とすれ違うたびに、ニヤニヤ笑いをよこしてくるが何かを察してくれたのか余計なことは聞いてこない。圭介はこそっと「どうだった?」と聞いてきたので俺は「良かった」と笑顔で答えた。
ゆずとはここ1か月会っていない。7月の最終日曜日が一級建築士の学科試験のため最後の追い込みで猛勉強をしている。俺は邪魔にならないよう自分からの連絡を控えていた。
8月に入り1か月ぶりにゆずと食事に行った時には、今までで一番心穏やかに接することができた。もう今までのように適度な距離を保つことを意識し、ゆずから身体的な距離を置かれるたびに寂しさを覚えることなく、ごく自然に大学時代の飲み友だった頃のような気軽さで、しかし心の余裕をもってゆずに寄り添うことができる。
千早が言っていたように、大切な人との関係を良好に保つために他の女性の力を借りて正解だと思う。
穏やかな気持ちで夏を過ごし、お盆が過ぎた8月の下旬。すっかり週末を莉奈さんと過ごすことが習慣化しつつある俺は、莉奈さんが美味しいと教えてくれたパン屋に向かった。
9時過ぎのマークシティは人通りがまばらだ。冷房が効いた室内を進んでいくと、教えてもらったパン屋を見つけた。大きなテーブルと棚に所狭しとパンが並べられており、けっこう美味しそうである。
トレーとトングを持ちとりあえずクロワッサンを取ると、パンが置かれているテーブルと棚を一通りながめバジルソースが塗ってあるパンと、大きなウィンナーが挟まったパン、そしてメロンパンをトレーに乗せた。レジでコーヒーを頼み会計を済ませると、イートインスペースに向かう。座っている客はまばらでどこに座ろうか見渡すと、一番奥の席で莉奈さんを見つけた。
パンを片手に本を読んでいる。話しかけようか迷ったが彼女との待ち合わせは10時だ。プライベート中に、しかも読書中に話かけるのは悪い気がする。だが思わぬところで会えたことに嬉しさがこみ上げ、空いている席を目視しつつも足は棒のようにつっ立っている。
ふと莉奈さんが顔をあげ、俺の顔を認めると手を振ってきた。莉奈さんが座っている向かいの椅子に置いてある鞄をどかすと、どうぞと手で示してくれる。俺は嬉しくて内心スキップしながら近づいた。




