第101話 知夏_終わりから始まる30代
ついに借金が完済した。たった今、残りの50万をいっきに振り込んだ。
どうしても誕生日が来る前に完済したくて、貯金用の口座から足りない5万円を合わせての50万だ。
ATMからでると深いため息がでた。やっと終わった。
自分へのご褒美に外食して帰ろう。たまにご褒美デーとして通っている駅前の立ち食い寿司で1貫300円もする海老を好きなだけ食べよう
高級寿司ではなく、手軽に済ませられる立ち食い寿司で満足してしまう私の庶民感覚に失笑しつつ、こんな時くらいはもっと贅沢してもいいのにと思いながらも、ためらってしまうのが私の良いところだと思う。
私は絵麻に電話した。
「借金、完済したよ!」
『えっ!おめでとう!早い!当初の予定の半分くらいの期間で終わったんじゃない?すごい。ほんとうに偉いよ!』
そう言われて私は泣いた。人目を憚らず、泣きながら歩いた。やっと終わったことへの達成感と安心感の大きさは、とてもコントロールできるものではない。3年で完済する予定だったが、1年8ヶ月で完済できた。思った以上に前倒しできた!
「あー、嬉しい!やっと終わった!」
『ほんとうにお疲れ様。ゆっくり休みなよ』
「うん。そうする。出勤日数減らして就職活動始める」
『明日は知夏の誕生日と完済祝いだね』
「嬉しい!たくさん飲もう」
電話を切ると私は涙をぬぐった。
明日は私の誕生日。今日で20代が終わる。自分の脇の甘さが招いた結果だとはいえ、よく気張ったと思う。数百万の借金返済は楽とは決してい言えないけど、意地を張ってでも自分で稼いで返して良かった。
晴れ晴れとした気持ちで、30代を迎えられることに、私は両手を天高く掲げながら万歳を叫びたい気分だ。明日、明後日は自分へのご褒美として休みにしている。丸々2日間、生理でもないのに連続して休みを取るのは風俗嬢に転職して以来、初めてだった。
西日暮里駅につくと、駅前にある立ち食い寿司で好きなだけお寿司を食べ、ご満悦で帰宅した。持て余すほどの歓喜を手にする喜びを感じながら、湯船につかった。お風呂から出るとご褒美としてちょっとお高いフェイスパックをしながら、時間をかけてゆっくりストレッチを行い、寝る支度を整えてスキップしながらベットにもぐりこむ。
翌朝、目が覚めるとカーテンを開けベランダから目の前を通過していく舎人ライナーを見送った。今日も酷暑になることを決定づけるような、朝から暑い日差しが降り注ぐ。
洗面所に向かい顔を洗うと、鏡に映った自分の顔がにやけていることに気付く。仕方がない。だって嬉しいんだもん。
朝の日課であるストレッチと軽い筋トレを行い、納豆パックにご飯をよそってテレビを見ながら立ったまま朝ごはんを済ませた。仕事では絶対着れない派手な柄のスカートを着て、お気に入りのサンダルを履いて家をでた。
毎月通っているフェイシャルエステに向かい、いつものコースではなく一番高いコースを受けた。
すっかりお馴染みなった細くてきれいな手をしたエステティシャンのお姉さんにクレンジングで肌の汚れを落としてもうと、毛穴に詰まった角栓を専用の機械で除去してもらい、美容液を肌に浸透させている間に首からデコルテにかけてしっかりとリンパマッサージをしてもらった。
施術が終わりパウダールームで眉毛を描きながら自分の肌をまじまじと見つめた。
月2回フェイシャルエステに通い続けたおかげで、肌の調子はいままでの人生において最高に良い。ファンデーションを塗らなくても軽くパウダーをはたくだけで十分な、接近戦に耐えられる肌は私の自尊心を底上げしてくれる。
私は受付で2週間後に予約をいれると、その足で今度はボディメンテナンスをするために別のエステに向かった。
こちらもすっかりお馴染みになった酒好きでおしゃべり好きなエステティシャンのお姉さんに、たくましい腕力と頼もしい指圧でグイグイ体のコリをほぐしてもらう。ウッディな香りのするアロマオイルで全身のリンパをながしてもらい、毎度のごとく私は熟睡してしまった。
他のお客様がどうかは知らないが、私を指名するお客様の多くは部屋の電気を暗くする、という恥じらいを遥か昔に置き忘れたようで明るい空間でプレイをすることを好む。
足や腕は自分でケアできるが、背中はどうしたってセルフケアには限界がある。私はお客様たちの期待に応えるためにも月2回のペースでアロママッサージを受けているが、今ではリラックスできるご褒美時間である。
そのおかげで自分で触っても気持ちが良い、と思えるくらいには肌の質をキープできている。
自分へのご褒美エステが終わると、遅めのランチを食べた。ツナと夏野菜の冷製パスタを食べ、デザートにチーズケーキを食べる。
食後の紅茶を飲みながら本の続きを読んだ。秋服を買いにルミネやマルイをウロウロしたが、ビビッと来るものが見つからないので諦めてハーブティーを買い、絵麻との待ち合わせ場所に向かった。




