第100話 知夏_こぼれた“ありがとう”
ゴムの裏表が分からないようで、つけるのに手間取っている彼を見て、本当に久々なんだな、と思った。私は、分かりにくいよね、と言いながらつけるのを手伝った。
彼とのセックスは控えめに言ってすごくよかった。今まで風俗嬢の仕事も含めて色んな人と寝てきたが、相性の良さ、その一言に尽きる。
私にとっての相性の良さというのは、身体の物理的なパーツが鍵と鍵穴のようにピッタリ一致するということだけでなく、精神面での相性の良さも大いに含まれている。
女性は男性と比較すると、行為中に絶頂を迎えることができない割合が多い、というデータを見たことがあるが、それは精神面での相性の良さが大いに関わっているのではないかと思う。
風俗嬢としては相手に身をゆだねっぱなしは褒められたものではないのかもしれない。しかし、今回に限っては人として彼の想いに向き合って受け止めたい、という気持ちにさせられた。
遅漏の方はおそらく、心がかなり繊細だと私は考えている。そのため、優太さんの気持ちに少しでも負荷がかからないよう気をつけながら、後は彼に任せた。
いくつかの体位を経た後、再び優太さんが私に覆いかぶさる頃には飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止め、息を深く吸って吐くこと以外できない状態だった。
ハッとした表情が優太さんの顔に浮かんだ。その、しまった、といった表情を見て、私はそっと優太さんの首に手を回し引き寄せると、耳元で私の本音を織り込んで、優太さんからしたら嬉しい、と思ってもらえるような言葉を囁いた。
じっとりと汗をかき発熱しているんじゃないか、と心配になるくらい熱い手で私の腰をつかむ優太さんの動きが次第に激しくなると、ついに彼は絶頂を迎えた。
粗く吐かれている息の音を聞きながら、顔に水滴が落ちたのに気付いてそっと目をあけた。てっきり優太さんの汗が滴り落ちたのかと思ったら、彼は泣いていた。
鼻をすすりながら、やっと中でいけた…、と呟いた姿に私は心を打たれた。私の首元に顔を埋めながらすすり泣く声に黙って耳を傾ける。
「ありがとう」
耳元で囁かれた言葉に対して私は返事をする代わりに、彼を両手で強く抱きしめた。




