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【異世界スゴロク】止まったマスで転移する呪いの冒険譚 ~ゴールしなければ生き残れない~  作者: 幸運な黒猫
最終決戦

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第86話・ゆっくりと、穏やかに。

「じゃあ、兄ちゃん。僕らも戻るよ」

「ジャック、それに(あお)……ン王女」

「はあ? なによ、それは」


 記憶が戻ったアン王女は、海賊ミナミナの事は覚えていたけど、廃墟部屋で一緒だった僕らの事は全く覚えていなかった。


 特にショックだったのは、(かなめ)が拾っておいたベルノパンプスに首をかしげ、『センスないわね』と瓦礫の中に放り投げてしまった事だ。


 自分の世界に戻るのだから、余計な記憶はない方がいいのはわかるけど、やはりさみしさは感じてしまう。


 ……そして別れのとき。


 崩れた天井から太陽が差し込み、二人はす――っと、光の中に溶けていった。目に、キラキラとした輝きを残しながら。



「う~ん、起きへんなぁ」


 亜紀さんはベルノのほっぺをつつきながら、幸せそうに寝ている表情を覗き込む。


「あ、そうだ……」


 僕は試しにと、マジックバッグからチャーシューアップルパイの一片を取りだして、ベルノの鼻先に置いた。


 直後、スンスンと鼻を動かすベルノ。そして――


「猫耳モフモフ美少女超爆誕ニャン!」


 ビシッと手を挙げ覚醒するベルノ。瞬きする間に、すでにパイは口の中に入っていた。……元気そうでなによりだ。


 白亜紀のメンバーは、ナローが責任もって送って行くそうだ。錨の印(アンカーポイント)はもうないのにどうするのかと思ったら、『仕事仲間がおるから大丈夫』と言われた。


 女神妖精さんが仕事仲間って、この人たちの関係は最後まで理解できなかった。


「あ、そうそう、ちなみにやけどな……」


 と、真面目な顔の亜紀さん。


「猫の手も借りたいってのは、『役に立たなくても可愛いから全部許す』っちゅー意味やで!」

「最後に意味不明な事ぶっ込まないでください!」


 ……ホント、読めない人だ。


「あの、亜紀さん」

「なんや?」

「この時代に残ろうとは思わないのですか?」


 別に意地悪で聞いたのではなく、純粋に疑問としてぶつけてみた。元々この時代の人なのだから、未練がないのかちょっとだけ気になったんだ。


 ……しかし


「ウチが帰る場所はみんなの所や。ここやないで!」


 こんな満面の笑みで即答されたら、納得しない訳にいかないだろう。


 僕らは、亜紀さんやティラノ、そしてベルノに()()()()()()()()()()をした。それは希望であり、願望だった。


「じゃ、颯太(そうた)を頼む」

「ああ、まかしとき」


 彼の怪我は、思いのほかひどくはなかった。僕と要の魔法のほかに、彼自身も氷魔法で防御していたのが大きかったようだ。


「颯太はんは体力あるさかい、二〜三日で完治すると思うで」


 それでも重傷には違いないし、体内にはまだ魔法の影響が残っているらしい。それらを完全に治療するために、ナローの属する機関に任せるしかなかった。


「それじゃ水音(みな)っち……」

「うん、帰ろうか!」


 辛いけど楽しかった。悔しさもある。でも、もっとみんなと一緒に冒険がしたかった。こんな充実した経験は、もう二度とないだろう。


 そんな気持ちがあふれ、名残惜しさはいつまでも尽きなかった。



 洋館から外にでると、目の前には大きな白い塊が鎮座していた。なんとなくちぎって口に運びながら、懐かしい空気を肺いっぱいに注ぎ込んだ。


「あ、水音(みな)っち」

「ん?」

「今だから聞くけど、水音っちって、葵ちんの事好きだったんじゃないっスか?」


 もしここに来る前だったら、恥ずかしくて黙り込んでしまっただろう。


「そうだね……好きだったよ。でもさ、それって要もだろ?」


 葵さんが意識を取り戻したとき、彼女はアン王女だった。僕も驚いたが、要の受けたショックはそれ以上だと思う。彼女の記憶の中に、要の存在がまったく無かったのだから。


「でも、まあ。性格がね……」

「あ~、そうっスね……」


 もちろん、葵さんだったらよかったのに、とは思わない。ジャックが、誘拐されたアン王女を取り戻したのは僕も嬉しいのだから。


 ……それでも、心の奥にほんのりとした切なさが、静かに染みついて離れないのも、紛れもない事実だった。


「このあと、本屋に寄っていかない?」


 僕らは洋館を背に、雑草の青くさいにおいを踏み倒しながら歩きはじめた。


「冒険した世界の本を、買っておこうと思ってさ」

「それ、いいっスね!」


 青い空を流れる雲のように、ゆっくりと、穏やかに。

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