第85話・ルーレット
「よし、あと一匹!」
「ショーン、挟むぞ」
イノリさんが雷魔法で悪魔族を麻痺させ、ショーンとコネリーが左右からから挟み撃ちにする。一緒にダンジョンの戦闘をくぐり抜けた、仲間だからこその連携だ。
「ふう、終わりましたわ、お嬢さ――」
そして最期の一体を倒し、直後、光の粒子になって消えていくイノリさんたち三人。こんな状況だから仕方ないけど、別れのあいさつくらいさせてくれよと思う。
「これで終わりだぜ、リュー……なんとか!」
ティラノの足元から闘気が立ち昇り、全身を覆った。彼女を中心に渦が巻き起こり、木片や埃が一気に舞い上がる。
「これってあの時の……」
「ティラちゃんのレックス・ブレードやで!」
「——いくぜ! しっかり受けろよ」
白亜紀最恐の暴君ティラノサウルスの恐竜人が放つ必殺技。威力を絞ったレックス・スキルで、リュールを気絶させるのが狙いだ。
「レックス……」
刀身に闘気が収束していく。空から落ちた時の風圧なんて目じゃないほど、重く、凄まじい力を感じる。
「あ、ヤバいわこれ……」
「亜紀さん?」
「ちょっと聞くけど、ウチが来る前にティラちゃん戦ってた?」
「えっと、悪魔族を三体か四体倒したと思うけど」
「あきまへん。それはあきまへんで。ティラちゃんは強い相手と戦うと、ドーパミンがドバドバでてどんどん攻撃力が上がるんや。本人は無自覚やけど……」
……それって、かなりヤバいんじゃ?
「雪平さん、まだそこにいるんでしょ? 鈴姫さん!」
「颯太、おちついて」
突然、颯太はティラノの前に飛びだしてしまった。
「颯ちん!?」
「しまった……颯太は作戦内容を知らないじゃないか」
いくら威力を絞っているとは言っても、生身の人間が相手だと話は変わってくる。ましてや、技の威力が上がっている以上、生身の身体では耐えられない。
――颯太は魔女と違って、魔力をまとっていないのだから。
「ブレード!!」
ものすごい威力の剣圧が、周囲の全てを薙ぎ払ってリュールに、そして颯太に襲いかかった。周囲の木片や瓦礫を巻き込み、台風のような暴風を巻き起こす!
いくつもの破壊音が響き渡り、壁に穴が空き、天井まで崩れ落ちてきた。ジャックが魔法障壁を発動していなかったら、僕らも相当やばかっただろう。
「……颯太は?」
レックス・ブレードが炸裂する瞬間、僕は水を操作して颯太の前に壁を作った。もちろんその程度の水壁で守れるとは思っていない。少しでも軽減できればと願っただけだ。
はたして、彼は、リュールに覆いかぶさるようにして倒れ、最強魔法マシュマロクッションに埋もれていた。あの瞬間、要も颯太のために魔法を使っていたのだった。
「ふふふ……まだ、運命は私の方にあったみたい……ね」
ボロボロになりながらも、リュールは颯太の身体を押しのけて起き上がった。足元はふらふらし、もはや余力はないはず。
「ありがとね、ヒーローさん♡」
それでも彼女は笑顔を作り、そして手の中にあるなにかを高く掲げた。
「気いつけや! まだなにかくるで!」
みんなに緊張が走り、一瞬身構える。
「いや、違う。彼女が手に持っているのは――」
――異世界スゴロクのルーレットだ。
必然とは思いたくない。でも、偶然にしてはできすぎている。レックス・ブレードで半壊した洋館の二階から、ルーレットだけがリュールの手元に落ちてきたのだった。
「嘘っスよね……」
指先で軽く弾くと、ジジジ……と歪んだ音が響き、次の瞬間、リュールは音もなく消え去った。
……カチャリ、とルーレットが落ち、静寂の中に余韻だけが残る。
♢
異世界スゴロク自体は瓦礫の中から見つかった。ルーレットも回収できた。この先リュールは、逃げ込んだ世界から他の世界に移動する手段がない。
部屋にあった本の世界に片っ端から転移すれば、いつかはたどり着くだろう。
結局リュールの正体はわからないままだ。リュールが鈴姫さんを演じていたのか、それとも鈴姫さんが操られていたのか、はたまたすべてがリュールだったのかもしれないし鈴姫さんだったかもしれない。
僕には彼女が『知りたければ捕まえてみなよ』と挑発しているような気がしてならなかった。




