第79話・【ジュラシック・テイル? その6】
「ルカちゃん、悪いけど頼むよ」
「了解っス!!」
直後、ルカの足元から雷のような闘気が立ち上がり、バチバチと音を立てて右の拳に集まり始めた。そして、上昇気流のようなものが発生し、砂埃を巻き上げる。
「ヤベ、逃げるぞ!」
「はい?」
「ここにいたら巻き込まれちまう」
ティラノは僕と要の襟首をつかむと、そのまま肩に乗せて走りだした。さすがティラノサウルスのパワーを秘めた恐竜人、僕ら二人をを担いだままでも車のような速さだ。
「ちぃ~っとばかし痛いっスよ!」
「おい、ルカ。ちゃんと手加減しろよ!」
ティラノは振り向きもせずに声を張り上げた。僕らはというと、ティラノに担がれているおかげで、ルカの勇姿がハッキリと見えている。
「レックス……」
雷鳴をバチバチと響かせ――
「インパクト!!」
拳を地面に叩きつけた! 蜘蛛の巣のようなひび割れが起き、広範囲にわたって地面をえぐって破片を飛び散らせる。——凄まじい威力だ。同時にルカの拳から放たれた雷は周囲に広がり、囲んでいた手下をまとめて吹き飛ばした。
「すっげ……」
「なん……スか……あれは」
ティラノは嬉しそうな声で解説を始めた。ここからは見えないけど、きっと笑顔だ。
「あれがルカのレックス・スキル、その名もレックス・インパクトだ。あれを食らったら、俺様でも痺れて動けなくなっちまう」
「麻痺効果の範囲技なのか……」
急いであの場から離れた理由がよくわかった。あんな強力な技を使えるだなんて、恐竜人ってとんでもないな。
♢
「……はあぁ???」
異世界門を抜けると、そこには、全く予期していない、できない、できるはずのない人物が、女神妖精さんとのんびりと日向ぼっこをしていた。
「なにやってんだよ!」
「なんや、怖い目して」
……怪しさ大爆発、糸目のナロー。全身銀色のタイトな宇宙服みたいなスーツを着て、腰にはレーザーでも飛びでそうな銃が下げられていた。昔のSFにでてきそうな恰好だ。
「このわざとらしい関西弁と、わざとらしい細目」
「えらい言われようやな」
なんで白亜紀にいるんだ? それも女神妖精さんと周知の仲みたいだし。本当にわけのわからない存在だ。
「水音っち、誰っスかこの人?」
「ああ、え~と……」
海賊のカシラで屋敷の執事で灰色オオカミで……要に説明しようとしたけど、なにから話せばいいのかわからなかった。そもそも説明できるほどコイツの事を知らないのだから。
「……誰だよ、お前」
「いやはや、挨拶やねぇ」
ケタケタと笑う糸目のナロー。『ワイは異世界を監視する時空警察やで』なんて言っていたけど、どこまでが本当なのやら。
〔ところで、息を切らしてどうしたのです?〕
「ああ、えっとですね……」
僕は女神妖精さんに今起きた事を話した。できるだけ感情を込めず、状況だけを事務的に。
〔え、ベルノさんまで転移空間に?〕
「マジか~。ホンマ、あの猫耳幼女は冒険が好きやな」
「あの、亜紀さんたちを助ける方法を教えてください」
〔大丈夫ですよ。今の話の通りなら、八白亜紀と魔王が戦っても全く意味がありません。すぐに気がついて終わるでしょう〕
そういうものなのか? ……むしろそうであってほしいけど。
〔ですが、あの少女が”時の魔女“だったとは気がつきませんでした〕
「それはワイも同じや。『四人のうちの誰か』まではわかっていたんやが……」
「四人?」
「言うたやろ、黒幕は廃墟部屋におる誰かやって」
「あ……」
言っていた。確かに言っていた。でも、あの段階で信用できる訳がない。むしろ敵だと思っていたし、こんな事が無ければ今でも敵認定していただろう。
「あれはひとつの身体にいくつもの意識が混在しとる感じやな」
「多重人格ってやつ?」
「それよりももっと厄介や。多重人格はそれぞれが独立しているが、アレは、リュールが演技をする表の顔って感じやで。今迄にどれだけの人間に成りすましてきたのか……」
つまり、鈴姫さんはリュールの、言わば仮面であって、人格としては成立しないって事なのか。
意識はあるのに人格がない……なんだかよくわからない事になって来た。
「ちなみに、やけどな。時間と時空を超えるのは、なんやかんや条件が必要なんや」
「条件?」
「ワイらの場合はアンカー、つまり錨の存在やな。錨がおった場所なら、どんな世界のどんな時代にでも飛ぶことができる。そしてミナミナはん。あんさんが錨の保持者なんやで」
そうか……だからコイツは、僕のいるところにばかり現れたのか。
「……って、なんで僕が?」
「ああ、気にせんでええよ。新宿駅で石を投げたら錨持ちに当たるくらい大勢おるで。ただ、五人の中ではミナミナはんしか持ってなかったっちゅーこっちゃ」
そして人間にしか錨持ちは発生しないらしい。それが、僕がリュール疑惑から外された理由だった。
「あれ? 僕がいる場所じゃなくて、いた場所って事は……」
「お、さすが勘がええな。一度行った場所には錨の印が残るんや。それがあるのは、カリブ海、ダンジョン、童話、白亜紀、そして?」
「……現代」
――帰れるのか、あの場所に。




