第76話・【ジュラシック・テイル? その3】
恐竜人たちの拠点から、徒歩で二時間ちょっと歩いたところに、異世界門はあった。
ここを通って魔王城に行くのは総勢九人。僕ら五人と亜紀さんに、ティラノ、ルカ、そしてベルノ。
女神妖精さんは門の前で待機するそうだ。『魔界は精神的負担が大きい』と言っていたから、神とは属性が合わないのだろう。
プチは他の恐竜人と拠点防衛の為に残った。亜紀さんがいない時の指示役を任せているらしい。少し臆病だけど、その分堅実な指示をだしてくれるそうだ。
「この異世界門は、突貫工事で作ったトンネルみたいなものや。ほぼ明かりがないから迷わないように気ぃつけや〜」
一歩足を踏み入れると、そこは、一切の環境音がない真っ暗闇の空間だった。紫の細かい粒子が奥へ奥へと渦を巻き、かろうじて、道らしき道が見える程度だ。
「この先に、魔王がいるのですか?」
鈴姫さんは返事も待たずにスタスタと先頭に立ち、みんなを急かした。これには颯太も思わずつられ、彼女を守るためにあわてて歩を進める。
「なあ、ミナミナ。鈴姫っちは、なんであんなにやる気なん?」
「多分だけど……彼女はベルノを救出した事もあって、思い入れが強いんじゃないかな」
「そっか〜。ベルノは幸せもんやな」
「ニャ!」
と、またもやベルノの頭をくしゃくしゃなでた。
「しっかし、相変わらずここは嫌なニオイがするぜ……」
「そうっスね。鼻の奥がツーンとくるっス」
恐竜人の二人は、眉間にシワを寄せて鼻を押さえている。微かに金属のニオイを感じるけど、これがそんなに嫌なのだろうか?
「剣や鎧は白亜紀にない人工物やからな。恐竜人ちゃんたちが敏感に感じ取ってしまうのは仕方ないで」
と、僕の表情を読み取ったのか、疑問を口にする前に答えをだす亜紀さん。いまさらながら、この人は本当に観察力が凄い。地球防衛に連れてこられた理由がよくわかる。
そのまましばらく進むと、暗闇の中に巨大な門が見えてきた。あそこが魔王城への入り口なのだろう。
「ナンダ、キサマラ」
門番の魔族は値踏みするように僕らを舐め回すと、剣をスラッと抜いて武力行使にでた。
ティラノは『ふう……』とため息をひとつつき、面倒そうに木刀を下段にかまえる。
「なあ、通してくんねぇか? 弱いヤツとはやりたくねぇんだ」
「フザケルナ! キサマゴトキニ……」
あおられた門番がティラノに切りかかろうとしたその時だった。
「——よせよせ、お前らじゃティラノには勝てんよ」
奥の方から野太い声が響く。途端に門番はビシッと背筋を伸ばし、石像のように固まった。よほど声の主が恐ろしいらしい。
「スマンな。こいつらは、入ったばかりの新人なんだ」
「お、ミノっちじゃねえか!」
「よお、うっし~。なんや、修行してるって聞いたで?」
「うむ、ティラノとは50勝50敗。次は勝ち越さねばならんのでな」
ガハハハハ……と、豪快に笑うミノタウロス。亜紀さんの言う通り、敵対心は全く見えない。本当に不思議な関係性だ。
「魔王に話があって来たんやけど、おる?」
「うむ、あの一件以来、『今日も来ないのか』と首を長くして待っておるぞ」
異世界門を通り抜け、魔王の居城に入ってから十分ほど歩いて、やっと玉座の間にたどり着いた。やはり城というだけあってかなり広い。
禍々しいトゲトゲの玉座に腰掛け、肩ひじをつきながら見下ろしてくる魔王。赤色裏地の黒マントといい、歪に曲がった二本のツノといい、これでもかと言うくらいベタベタなシチュエーションでの登場だ。
「クックックッ、久しいのう、八白亜紀よ」
禍々しいトゲトゲの玉座に腰掛け、肩ひじをつきながら見下ろしてくる魔王。赤色裏地の黒マントといい、笑っていない笑い方といい、これでもかと言うくらいベタベタなシチュエーションでの登場だった。
「悪い、今日はあいさつ抜きや。とりあえず、確認で聞いておくで」
魔王軍は異世界からこの太古の地球に異世界門をつなげている。つまり、時空も時間も越えて二つの世界をつないでいる事になる。
だから、色々な異世界や時代から子供を誘拐する事は可能だと、僕らは考えていた。
「ウチのベルノが昨日誘拐された。アンタ、絡んでへんよな?」
「ああ、それはない」
当然の反応だ。犯人が素直に『やりました』なんて言うはずがないのだから。ここからどうやって追及していくのかと、僕は亜紀さんの手腕に期待していた。
しかし……
「おけ、白や!」
「え……ちょっと亜紀さん?」
彼女は、あっさりと潔白だと断言してしまった。たったこれだけの会話でわかるはずがないのに……




