第75話・【ジュラシック・テイル? その2】
僕らは亜紀さんの案内で、彼女たちの拠点に案内された。そこは緑豊かな草原が広がり、小川から聞こえてくる水音が心地よい場所だった。
背の高い木の上にはツリーハウスがいくつも作られていて、炊事場や小さな畑もある。少なくともここには、人間が生きるための文化のにおいがあった。
「あの、魔王城に乗り込むのでは?」
「まあまあ、鈴姫っち落ち着きや~」
ベルノの件もあってか、鈴姫さんは早く解決したいと気が急いているみたいだ。いままでになく冷静さを欠いているように見え、僕は少し不安を感じていた。
「まずは飯や! 食える時に食っておかないと力でぇへんからな。ティラちゃん、キャベツモドキ収穫してきて」
「お! もしかしてアレ作るのか?」
「え、マジっスか。自分も手伝うっス!」
ここの拠点には七~八名の恐竜人がいた。中学生くらいの小柄な娘から、キャリアウーマンのような洗練された大人の女性まで様々だ。
ちなみに、一通り紹介されたけど、全然名前を覚えられなかった。まったく馴染みのない恐竜名を一発で覚えるのは、僕には無理だったみたいで……本当に申し訳ないと思う。
それでも彼女たちは気にする事もなく、和気あいあいと食事をともにする。
はからずもこの時、相手の名前や種族・立場を気にするのは、人間だけなんだと気づかされた。
「そう言えば恐竜人さんって野菜食中心で大丈夫なのですか?」
ティラノやルカは元々肉食恐竜だ。だから、キャベツのみのお好み焼きを、美味しそうにがっつく姿に違和感があった。
「なんか恐竜って、肉食のイメージが強いから」
もちろん、草食恐竜がいる事くらいは知っているけど、それでも、畑を耕すよりは獲物を捕食するイメージの方が強い。
「それやけどな……」
亜紀さんは『魚くらいは獲って食うで』と補足した上で、持論を話してくれた。
「白亜紀は弱肉強食の世界やけど、でもそれは、恐竜って種を減らすだけやろ?」
「まあ、そうですね……」
「ウチだっていつ死ぬかわからんのやし。その時がきたら『絶滅しました〜』なんてイヤじゃん? だから恐竜人ちゃんにも作物の作り方教えて、自給自足できるようにしているんや」
弱肉強食の概念がなくなると、自然界のピラミッドが崩れるだろうけど……それを差し置いても、彼女の考えはとても気持ちのよいものに聞こえた。
文化的と言うか人間っぽいと言うか。とにかく、やれるところまでやってみてほしい。できるなら『その結果を見てみたい』と、その時僕は、本気で思った。
「でもま、この先、豚や牛みたいな生き物が生まれてくれば、家畜って考えもでて来るだろおし、言うてしまえば、人類の発生が一億年ほど早まっただけの話やで!」
これには苦笑いで答えるしかなかった。……数字が大きすぎてピンとこなかったからだ。
「でも、すごく先々の事まで考えているのですね」
「もちろんや。大事な家族やからな」
「家族、ですか……」
家族。これは異世界スゴロクの冒険を通して、一番考えさせられたキーワードだと思う。
葵さんや鈴姫さんの両親の事、要の弟の事。颯太の家族については、まだなにも知らないけど、ベルノへの接し方から弟か妹がいるように感じた。
なにより僕自身、廃墟好きなのは親の影響だし……家族ってのは、一人の人間が生きていく上で、切っても切れない存在だ。
「さて、それじゃあ……ちょいと魔王城へ行こか~」
〔もう、コンビニにスナック菓子買いに行くノリで言わないでくださいな〕
魔王城につながる異世界門は、白亜紀侵攻のために魔王軍が設置したそうだ。
「今までにどんなモンスターと戦ったのですか?」
「ん~、うっし~とトカげっちと……」
「う、うっしー?」
「ああ、ごめんやで。ミノタウロスとリザードマンや。あとは……」
……なんで敵にあだ名をつけているんだ?
「お、ミノっちか? アイツは強いぜ。ガチで俺様といい勝負だからな」
そして楽しそうなティラノ。彼女がミノタウロスと戦ったのだろう。それにしても、亜紀さんを見ていると、人類存亡の闘いをしているなんてとても思えない。ホント、不思議な人だ。
「ま、今は仲ええで。少なくとも、意味のない戦いはせえへん」
でも、だんだんとわかってきた。この八白亜紀という人は、侵略でも防衛でもなく、懐柔で戦う人。
「戦えば誰かが必ず傷つく。だから戦わない選択ができる場面なら、迷わずそれを選ぶ。そやけど……もし家族に命の危険があるのなら、ウチは守るために戦うで」
……そして、仲間の為に戦える熱い人だ。
「言うて、これから向かうのは敵地や。問答無用で襲い掛かってくる奴もおる。それでも、本当にみんな行くんか?」
「平気です。自分たちで対処します!」
真っ先に言い切ったのは颯太だった。もし彼が口にしなければ要が、要も口にしなければ鈴姫さんが、と誰かが必ず言葉にしていただろう。
――これは、異世界を冒険してきた僕らの自信とプライドの現れなのだから。
「漢やな~、カッコええで! ひゅーひゅー!」
「颯ちん、ひゅーひゅーですニャ!」
……ベルノにそれ教えたの、亜紀さんでしたか。




