第73話・ネネ
「こ、の……」
突然、目の前の女性に向かって突然走りだすベルノ。猫耳族の俊敏な特性を活かし、飛んでくる小石をスルリと抜けながら近づいた。
――そして!
「バ・カ・ティラニャ~!!」
叫びと共に、ベルノのぷにっとした猫パンチが、黒い特攻服を着た女性の脇腹に突き刺ささった!
「きゃぅあっ……」
と、よくわからない悲鳴と吐息が混ざった声を発しながら"くの字"になり、彼女はうずくまった。
まあ、いきなり脇腹に攻撃を喰らったら、誰でもそうなるだろう。
「ティラノなにするのニャ!」
「え、ベルノ、捕まっていたんじゃないのかよ」
「違うって言ったニャ!」
「え、そうなんスか……」
「ルカも人の話は聞かないとダメなのニャ!」
猫耳幼女に諭される、二人の女性。ティラノ、ルカとそれぞれ呼ばれていたけど、この関係性ってなんだろうか? なにより、恐竜のしっぽが気になって仕方がない。
「ねえみんな、あれ……なにかな?」
颯太が指し示す方に全員の視線が向く。火山の方角、青い空。そこに浮かぶ白い雲を、切り裂きながらなにかが飛んでいた。
「鳥……にしては変だよね」
大空を旋回する鳥のような生き物は、翼の大きさに体が小さく、そして首が長い。颯太の言う通り、鳥と呼ぶにはあまりに形が違い過ぎる。
「あれって、翼竜!?」
そしてさらに驚く事に、その首元には人間がまたがっていた。
「え、誰?」
「ネネですニャ!」
「あれがベルノの?」
手書きの母子手帳に描かれていた、ベルノの母親と思われる人物。そんな人が翼竜にまたがっているとか……なんだこの世界は?
翼竜は一直線に向かってきた。広げた翼は十メートルはあるだろうか。そんな巨大な生き物が、僕らの頭上をゴォォ……と通り過ぎて行く。叩きつけるような風圧は凄まじく、とても目を開けていられなかった。
「ネネ〜!」
その声に目を開けると、翼竜に乗っていた女性が目の前にいた。通り過ぎざまに飛び降りたのだろう。
「ベルノぉ、どこ行ってたんだよ〜」
「月とダンジョンと不思議の国と童話全修とラブコメなのニャ!」
「そっか〜、うん。わけわからん!」
……ですよね。
「ティラちゃんの闘気の渦がみえたから来てみたんだけど」
彼女は八白亜紀と名乗った。元々は僕らと同じ時代の日本人で、この白亜紀に転生して猫耳族になったそうだ。
僕はこれまでの経緯を説明した。ベルノがSFの世界で捕まっていた事、この時代に戻るために、いくつもの異世界を冒険した事を。
「えっと、ネネさん」
「亜紀でええで。もしくは美人の八白さん♡とかでも。あ、最後にハートつけるの忘れへんように」
「では……亜紀さん」
「もお、ミナミナいけずやなぁ……」
と、ひじ打ちをしてくる亜紀さん。この距離感のつめ方、強引なのに嫌な気がしないのは、なにかコツでもあるのだろうか?
「なぜファンタジー世界の猫耳族が、恐竜の時代にいるのです? あと、こちらの二人は、その……」
「なんで恐竜のしっぽが生えているか、やろ?」
「ええ、そうです」
あまりに訳がわからない世界だ。今までの冒険が普通に感じてしまうほどに。
〔――それは私からお話ししましょう〕
その時、まるで脳に直接響くような、不思議な声が聞こえてきた。少しハスキーでどこか機械的な音質……そう、Vtuberみたいな印象だ。
「妖精……さん?」
手のひらサイズで羽根の生えた人が、ヒョコっと亜紀さんの頭のうしろから現れた。ひらひらふわふわと飛ぶ様子は、まさしく妖精そのもの。
〔あら、一言たりないですよ、お客人。私の事は、可憐で美しい妖精さんとお呼びくださいな!〕
「あ、気にせんでええで。こいつ、ウチを騙してこの時代に放り込んだ詐欺女神や」
〔失礼な。こんな親切で気が利いてハイソでプリティーな女神は他にいませんよ?〕
……この二人、似たもの同士だな。




