第70話・1/2
三十分ほどして、葵さんとベルノが戻ってきた。約二週間の冒険だったようだ。
「もう、なんなのあの男は!?」
「あれはダメンズですニャ!」
戻っての第一声がこれだった。二人してあきれ顔でプンスカしている。よほどおかしなヤツだったのだろう。
「えっと、どんな世界だったの?」
「多分これ」
と、葵さんがマジックバッグから取りだしたのは、まさしく【ママー・ウォーズ】だった。
「映画観てないからよくわからないけどさ、この世界で間違いないと思う」
葵さんは『なんでこんな本が入ってたのよ』とつけ加えていたが、誰も目を合わせず苦笑いをしているだけだった。……もちろん僕もだ。
葵さんは眉の間にシワを寄せながら、マザコンの男とマザコンの女の物語を話し始めた。どちらも母親の言う事に逆らえず、婚約しながらも一向に結婚できないもどかしいストーリー。
ちなみに葵さんは、女側の親族だったそうだ。ヒロイン役じゃなくてよかったと思う。……相手の男が。
最終的に、母親同士の話し合いが罵り合いに発展し決裂。男の母親がJAXAのコンピューターをハッキングし、人工衛星を操作してしまう。
「家にね、人工衛星が降ってきて潰されかけた」
「それで……どうなったの」
「蹴飛ばして粉砕したけど?」
「……は?」
「だから蹴飛ばして……」
「いや、人工衛星でしょ? 蹴飛ばしたってどうやって?」
「ん? こんな感じ?」
シュシュッと足を振り上げる葵さん。さすがと言うべきか、やはりメチャクチャと言うべきか。気づけば僕は、颯太や要と顔を見合わせていた。
「で、でもこれで、攻略の目処が立ったね」
本を持っていれば転移先を選ぶ事が可能。どうやら鈴姫さんの考察は大正解のようだ。これなら安全な世界に行って、スゴロクのゴールを目指す事ができる。
「ねえ、ちょっと思ったんだけど、何度も同じ世界に行けたりするのかな?」
「水音くんは、また【バイキング・オブ・カリビアン】に行きたいの?」
と、鈴姫さんは、答えがわかっている質問をぶつけてきた。
「いえ……次は映画館に行きます」
かなり危険な、海賊たちの世界だった。物語を知らなければ、死んでいたかもしれない場面が沢山ある。また行きたいかと聞かれたら、即答でNO!だ。映画で見る方が断然いい。
「それとも、イチャラブハーレムの世界に通いたいとか?」
「やめてください、みんなが信じちゃったらどうするんですか!」
ジト目で見ないでください、みなさん。
「あの、安全な世界にだけ転移できればと思ったんだけど……」
「それは多分無理だと思うな。それこそ、ゲームとして成立しないんじゃない?」
もっともな話だった。散々『ゲームとして成立する必要がある』と自分で言っておきながら、完全に失念していた。
「それじゃ、次は私ね。四冊あるけど、一冊は除外していいと思うの」
そう言って鈴姫さんは、ベルノの世界候補から【ジュラ紀ダイナ荘の日常】を手に取った。
「F県の大学に恐竜学部ってあるの知ってる? そこの学生寮がジュラ紀ダイナ荘って名前なのよ」
「なんでそんな事を知っているんですか……」
「少し前にニュースになっていたからね。だから、現代の物語じゃないかな。選択するにしても最後に回していいと思うよ」
「そうすると残りの候補は……」
机の上に置かれた三冊の本。【ジュラサン】【君はジュラノサウルス】そして、【ジュラシック・テイル】。この中のどれかが、ベルノの世界の可能性が高い。
「とりあえず真ん中のでいいじゃん!」
「あの、葵さん? 1/3の確率なんだから、順番を考えた方がいいと思わない?」
「ミナミナ、なにを言ってるの?」
「なにって言われても……」
「当たるか当たらないかなんだから、確率は1/2よ!」
「え~……」
きっと、ソシャゲのガチャでも同じ事を言いそうだ。『当りが2%でも、1/2の確率だ!』と。
「葵ちゃん、文系だからね……」
鈴姫さんは笑いながら、【君はジュラノサウルス】の本を手に取り、そのままそっと、ルーレットを回した。
(注)ネタ元になったのは、福井県立大学・恐竜学部向けマンション「白亜紀ダイナ荘」です。




