第71話・さよなら、ベルノ
鈴姫さんは、葵さんとベルノを連れて転移した。スマホに[二人で協力してクリアしてください]と表示され、葵さんがルーレットに選ばれたためだった。
……どうやら彼女だけ当り外れ1/2理論が発動し、50%の確率で引き当てられたらしい。
♢
――そして、十分ほどで三人は戻って来た。わずか五日間の冒険だったようだ。
「もう、葵ちゃんメチャクチャなんだもん」
「だって、あの男がちんたらしてるのが悪いんじゃない!」
帰ってくる早々、言い合いをする二人。とは言えケンカではなく、仲良くグチを言い合っているように感じられた。
「なにがあったの?」
「葵ちゃんが選んだ【君はジュラノサウルス】って、ラブコメだったのよ」
「マジっスか~。葵ちんがラブコメ二連発って、世紀末っスね」
……直後、バチンッと響く無言の蹴りが、要の尻にヒットしていました。
二人が転移したのは、化石発掘が趣味の女子高生と、その街に引っ越してきた男子高生のボーイ・ミーツ・ガール物語だった。
「消極的な男の子が、意を決して告白するまでの手伝いミッションだったんだけど。葵ちゃんってばいきなり二人を校舎裏に呼びだしてさ」
……もうこの時点で不安しかありません。
「並んで座らせたと思ったら、『好きなの? どうなの? 告白するの? しないの? ハッキリしなさい、このバカちんがぁ~』って」
「本当にメチャクチャだな」
「それで上手くいったのが、不思議でしょうがないわよ」
「え~……」
葵さん、高校生の甘酸っぱくも繊細な心のやり取りを、力技でくっつけてしまったのか。
「男が何日もウジウジしてるの見せられたら、誰だってそうするよね?」
「しませんって。むしろ男の気持ちの方がよくわかります」
ちなみに、今回ベルノはまったく出番がなく、ずっと猫のままだったそうだ。おかげでストレスが溜まってしまい、今は颯太をキャットタワーにしてあそんでいた。
「ま、なんにしても残りはふたつ。どんどん行こう!」
妙にテンションが上がっている葵さん。きっと、もうすぐベルノを家族の元に帰せるのが嬉しいのだと思う。天真爛漫なこの子と離れるのはちょっと寂しくはあるけど、やはり親と一緒にいるのが一番だ。
「残ったのは二冊だけど……葵さん、どっちがいい?」
その瞬間、みんなの目が僕に刺さった。今までことごとく”外れを引き続けた”彼女にゆだねるのか? と。
「でも、ここまで外れ続きだったのだから、そろそろ当たりを引くような気がするんだけど?」
「水音くんは、絶対にギャンブルしちゃいけない人だね」
……どういう意味なのだろう?
「みんなちょっとまって欲しいっス。まだ時間があるから、スモアパーティーでもどうっスか?」
「要さ、アンタなにを言ってるかわかってる? ホントただのうぇいバカだと思ったら……」
「――葵ちゃん、やろうよ」
葵さんの言葉をさえぎったのは、意外にも鈴姫さんだった。これまで周りの人を立てて、人の話に割り込む事なんてなかったのに。これには颯太も驚き、目を丸くして女性陣二人を見ていた。
「なんでよ。早く帰してあげようよ」
「ベルノちゃんにとって、次が最期の冒険かもしれないでしょ? そうしたらこれでお別れだよ?」
僕は……いや、鈴姫さん以外は、誰も要の真意を読み取れていなかった。彼の優しさからでた言葉は、静かに胸に染み入り、みんなの心を静かにつなぐ。
もちろん誰も反対はない。葵さんも『そっか……そうだよね』と伏せ目がちにつぶやいていた。
そして……
「だから葵ちん、火力強すぎだって言ってるじゃないっスか」
「うっさいわね、アンタがもうちょっと離せばいいんじゃない」
「え~、マシュマロだした瞬間に黒コゲなんスよ!」
二人の足元には、残念な黒い塊がいくつもあった。
「大きい線香花火の燃えカスみたいだ」
「仲がいいのか悪いのかわからないわね」
「でも、美味しいですニャ!」
焼きマシュマロをチョコレートとビスケットで挟んだお菓子のスモア。ベルノは満面の笑みを振りまきながら、際限なくサクサクもきゅもきゅと食べていた。
……しかしこれ、メチャクチャ甘いな。
◇
「じゃ、行くっスよ!」
結局どちらの世界に転移するかは、運まかせにする事にした。つまり、二冊とも持って転移するという方法だ。
「みんな、ありがとですニャ!」
ベルノは頬を赤らめて、みんなに抱きついた。精一杯の感謝の気持ちなのだろう。
「ベルノ、元気でね」
「またどこかで逢えるといいね、ベルノちゃん」
「自分も、年の離れた妹みたいで嬉しかったです」
「僕らも楽しかったよ……」
突然、鈴姫さんが連れてきた猫耳幼女。最初は『厄介事か?』と思いもしたが、一緒に異世界転移し、苦楽を共にするうちに、本当に頼れる仲間だとわかった。
……そして、可愛い。
もちろん、みんなもそれぞれ思い出があって、名残惜しい気持ちが溢れでている。
でも、そろそろ時間だ。残り二つの候補のうち、どちらかがベルノの世界。早く帰してあげたいけど、今回ばかりは外れて欲しい気持ちもある。
「要、ちゃんと……」
「わかってるっス。みんなの分も頑張ってくるっスよ」
要はルーレットに手を伸ばして弾くと、ジジジ……と回り始めた。これが止まったらサヨナラだ。
「さよなら、ベルノ。元気でね!」
「ベルノちゃん、私たちの事を忘れないでね!」
「うう……」
涙を浮かべる葵さんと鈴姫さん。颯太に至っては男泣きを見せ、言葉がでないようだ。だけど、それは僕も同じ。なにを言えばいいのかわからなくて……
「ベルノぉ〜〜」
……最後は名前を呼ぶだけしかできなかった。




