第67話・ループ
「ただいま〜。いま帰ったよ」
僕ら【童話全修】組は、無事にミッションを終えて廃墟部屋に戻ってきた。この埃っぽいニオイが、ほんの一瞬前までいたメルヘンな世界から、嫌でも現実に引き戻してくれる。
……そしてやはり暑い。颯太が作った氷柱はあるけど、風がないから体感温度は高めだ。
「あれ?」
そんな廃墟部屋の隅で、葵さんと要がコソコソとしていた。
「そこ、もうちょっと離すっス」
「うっさいわね。この方が早いんだってば」
「あ、でもそれじゃ……あーーーー!」
僕らが帰った事にも気づかずに、いったいなにをやっているのだろう?
「だから言ったじゃないっスか」
「なによ、私のせいだっての!?」
「それひどいっスよぉ。葵ちんのせいって言ったら、オレが怒られるパターンじゃないっスか」
「うっさいわね〜」
これだけ聞いていると、ファストフード店とかにいるカップルに見えてくる。きっと彼女が注文間違えて逆ギレし、男が理不尽に謝るパターンだ。
……それはそれとして。
「お~い!!」
僕は声のボリュームを上げて、要と葵さんの間から声をかけた。二人は一瞬ビクッとなって振り返ると、驚いた表情になった。これは本当に僕らに気がついてなかったようだ。
「え、いつ帰ったんスか?」
「帰ったら帰ったって言いなさいよ!」
……理不尽だなあ、もう。
転移者帰還の際、部屋が緑の光で包まれる。その時点で帰ってくるのが誰でもわかるはず。つまり要たちは、それにすら気がつかないほど、なにかに集中していたわけだ。
「で、なにやってたの?」
「焼きマシュマロ作ってたっス」
「……は?」
「葵ちんがどうしても食べたいって言うから」
要のマシュマロ無限生成の魔法と、葵さんの炎魔法。そこから生みだされる焼きマシュマロ。なんと言うか、魔法の平和利用って感じがして嫌いじゃない。
「どうしてもなんて言ってないわよ。『可能なら』でしょ。努力義務ってやつ」
「それって、お願いどころか強制してますって」
「でも、葵ちんがバカ高い火力だすから、マシュマロが焦げて溶け落ちるんスよ」
「あ~……葵さん、魔法適性が低いからなぁ」
「あら、格闘適性はこの中で一番だと思うけど?」
……拳をプルプルさせながら言わないで下さい。
「ねえ、次は葵ちゃんの番だからさ、チョコとビスケット買ってきてよ。スモア作れるよ」
「あ、それいいわね!」
鈴姫さんのひと言で、一瞬にしてパアァと表情が明るくなる葵さん。さすが、つき合いが長い分ツボを心得ているようだ。……ところで、スモアってなんだろ?
「ところで、これってなんだったんスか?」
と、要がスゴロクの盤面を指差して聞いてきた。その先には颯太のコマが止まっているマスがある。
「この[ギフト:✖✖✖✖]って何だろうって葵ちんと話てたんスよ」
「あ、そう言えば……」
完全に忘れていた。謎解きで頭がぐるぐるしていたから、そこまで考える余裕がなかったのだと思う。そしてそれは僕だけじゃなかった。
「なんだろう?」
「すっかり忘れちゃってたね……」
颯太も鈴姫さんも完全に記憶から抜け落ちていたようだ。
「颯ちんの足の裏にでも描いてあるんじゃないっスか?」
「……えっ?」
ちゃかした要のひと言を、まともに受け取った颯太。あわてて靴を脱ぎはじめたが、はたと動きがとまる。鈴姫さんと目が合ったからだ。彼はそそくさと部屋の隅に行って背を向けた。
「なにも描いてないけど……」
「あ、申し訳ないっス。足の裏じゃなくてへその周りだったっス」
「え、へそ!?」
「もう、颯太をからかうのやめなよ。要と違って純粋なんだから」
壁に向かってシャツをたくし上げたまま固まる颯太。顔を見ないでもわかる、きっと真っ赤だ。
「葵ちん、辛辣っスよぉ~」
「薬師寺くん……」
と、ジト目の颯太。
「ごめんて、颯ちん」
廃墟部屋に閉じ込められている状況なのに、なんとも和気あいあいな空間だ。これは目的を同じくする者同士の、強い連帯感の現れだと思う。
……いや、思いたい、か。
糸目のナローのせいで、僕は仲間たちに対して疑いの目を向けてしまっていた。もちろん彼と仲間のどちらを信じるかと言われたら、考える間もなく答えはでている。
それでも、なにかしらの事情を知っているであろう糸目のナローの言葉は、僕の心の中で釣り針のように引っかかって抜けないでいた。
――考えたくはない。でも、もしこの中に黒幕がいるとしたら?
要はこの廃墟部屋に閉じ込められる原因を作った。葵さんはみんなのコマを戻して進行を遅らせた。颯太はここからでられない証明をして、鈴姫さんはどこからか黒い本を見つけだした。
疑いだすときりがない。でも、その度に否定する気持ちが歯止めをかける。ぐるぐる回る、猜疑心と自己嫌悪のループ。
……糸目の野郎、なんて事をしてくれたんだ。




