第66話・【童話全修 その15】
震えるドイルが凝視しているのは、横穴の入り口側、つまりドイルの迷宮と反対側だ。
そのあまりの怯え方に、その場にいた全員が固唾をのんで耳を澄ませた。シタッ……シタッ……と聞こえてくる足音。時折、カチッと堅い物が当たる音。
「あ? なんだこりゃ」
「……兄ちゃん」
ブランシェットの尻に敷かれた黒色オオカミが、か細い声で『兄ちゃん』と呼ぶ。
「ハシゴが降りているからなんだと思ったらよぉ。なんでガキどもが牢屋からでてんだぁ?」
そこにいたのは、颯太よりひと回りもふた回りも大柄な、黒色オオカミだった。鋭い眼光と牙、そして手足の爪。カチッと聞こえたのは、この爪が小石にでも当たった音なのだろう。
「こ、こいつらが大勢でやってきたんだよぉ」
「ちっ……こうならないようにお前がいるんだろうがよぉ!」
どうやら弟は、末っ子ヤギに化けて母ヤギの動きを監視誘導する役目だったらしい。多分、本来の仕事をこなしていれば、鈴姫さんたちはここにたどり着いていないはず。……ヌケ作でよかった。
そして、同時に僕は、鈴姫さんが言っていた言葉を思いだしていた。
『遊び盛りでうるさい子どもたちを、いくら大きいからって、一匹で誘拐できるかしら?』
これはチビヤギ誘拐の証言として、灰色オオカミの件がでた時の事。アガサの話はほとんどが虚言だったが、結果的に、鈴姫さんが考察したひと言は大正解だった。
僕らは、目撃情報や偽証言のせいで見当違いをしていた。実際に存在したのは二匹の黒色オオカミ。兄弟で誘拐をしていたんだ。
「このパターンは考えてなかったな……」
「でもさ、グレ子ちゃん」
「ん?」
「こいつを倒せばマルっと解決っしょ!」
メイジーは黒色オオカミをビシッと指差すと、反対の手で妹の肩をバシッと叩く。
「さあ、ブランシェット。やっておしまいなさい!」
「結局オレ様かよ」
そう言いながらも、嬉しそうに右拳を左手の平に打ちつけるブランシェットであった。
気合が入ったのは颯太もだ。前にでると、みんなを守る壁のように、黒色オオカミの前に立ちはだかる。
「徳川くん……」
「大丈夫、雪平さんは自分が守ります!」
薄暗くて誰もわからなかったと思うけど、僕には、彼の足が震えているのがわかった。元々争い事には不向きな性格の颯太。それでもここは引けない、引くわけにいかない。
「颯ちん、ひゅーひゅーですニャ!」
「こらベルノ、からかうんじゃないって」
……ったく、どこでそういうの覚えて来るんだよ。
「ひゅーひゅーでございやがれでっす!」
「もう、ペローまでマネしないの!」
全身黒タイツの大男に向かって腕を振り上げる幼女二人。なんとも萌え可愛い。……あとで写真撮っておこう。
「——おいてめえら、いつまで待たせんだ。あぁん? 殺っちまうぞコラ」
2メートルを遥かに超える体躯が放つ威圧感、凄まじい殺気や狂暴性。 目の前の黒色オオカミは、前回の冒険【没落令嬢】で微笑みの暴風団が戦ったオーガーと大差がなかった。
つまり、ベテラン冒険者パーティーが五人がかりで倒したモンスターと同等かそれ以上の強さとみてがよさそうだ。
それでも――。
「こっちの会話を待っててくれるのはいいけどさ……」
勝てる気しかしない。
「そういう悪役は、120%負けるんだぜ!」
♢
……そしてわずか一分後。僕の予言通り、黒色オオカミは地面に突っ伏していた。
颯太のタックルをみぞおちに食らい、怯んだところへブランシェットの延髄斬りがクリーンヒット。もちろん僕の水魔法で視界をふさいだり、鈴姫さんやメイジーさんの口撃もあっての勝利だった。
「勝ちたきゃしゃべってる間にぶん殴れってんだ」
と、ブランシェットは完全に気を失っている二つ目の黒毛のイスを踏みつけた。正論過ぎてなにも補足する事がない。
「意外あっけなかったね」
「あとはコイツを”ワンコのおまわりさん“に引き渡せば終わりっしょ!」
聞くと、この世界の警官はみんな”ワンコのおまわりさん“らしい。
ならば迷子になるのは必ず”子にゃんこ“なのか? トンボはピカピカの水色メガネをしていて、鬼は破れないイイパンツをはいているのかな?
「カボチャがハイブリット車になったりお菓子でビルが建ったりするのかな?」
「えっと……水音くん? なにを言っているの……」
色々と疑問は尽きないが、追及し始めたらきりがなさそうなので考えるのをやめた。
その後、ベルノやペロー、チビヤギたちの萌えカワ写真を撮りながら街へむかった。異世界の冒険で今回が一番シャッターを切ったと思う。
街に着いてすぐ、ワンコのおまわりさんに黒色オオカミ兄弟とドイルを引き渡した。罪状は誘拐や脅迫、それ以外にも勝手に他人の土地に穴をほった不動産侵奪罪、さらにはドイルの違法建築もおまけでついていた。
そして、赤猫ずきん姉妹や母ヤギ・チビヤギとはそこで別れる事になった。警察で証言をするために残らなければならないそうだ。バタバタしてたけど結構楽しかったからちょっと寂しくもあった。
♢
「え、これって……」
事務所に戻る途中、メルヘンな風景を見ていたら一枚のポスターが目に入った。
〔新進気鋭のメタルバンド †ブレーメンズ・フォー† ワンマンライブ!〕
童話【ブレーメンのロックバンド】は、本当なら四人のはずだ。それがポスターを見ると五人になっている。まあこれも僕らが転移した影響なのかと流し見していたんだけど……
「ヴォーカルがニャンコでギターがドンキー、ベースがトリでドラムがワンコ。そして新加入メンバーがサックスの……ウルフ!?」
「……」
「……」
……ここでもまたオオカミが絡んでくるのか。自然に全員と目が合って、アイコンタクトで意思が通じ合った。
「よし、見なかった事にしよう!」
「……うん」
「ですニャ〜」
事務所に戻り依頼完遂報告をすると、例によってピコンッと音が鳴った。ミッションクリアだ。颯太はポケットからスマホを取りだすと、彼は僕を見ながら[YES]を押した。
そこに言葉はなく、視線が交差しただけだった。それでも僕ら二人だけが理解できる、切なくも悲しい気持ちが通じ合う。うん、わかる。なにを言いたいのか心底わかった。
……やっと、全身タイツから解放される。
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その為、ネオページからは15話程度遅れています。
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