第64話・【童話全修 その13】
「なんで八匹いるの?」
チビヤギたちは七匹のはず。それは物語のタイトル、【オオカミと七匹のチビヤギ】からも明白だった。
「あら? おかしいわね。八匹だったかしら?」
「いやいやいや、七匹でしょ?」
ルドウィンは『オオカミは変身の魔法が得意』と言っていた。この状況は、黒色オオカミが子どもの誰かに化けていると考えるのが自然だろう。
「一匹はオオカミが化けていると思います」
「ですが、この子たちみんな、私の記憶にあるのですわ」
母親でも偽物か判別できないのか。変身する魔法としか聞いてないけど、なにか精神に干渉するような……例えば、催眠状態にする効果もあるのかもしれない。
「お婆ちゃん、なにかわかる?」
メイジーはなにかヒントがないかと、お婆さんに意見を求めた。チビヤギたちと一緒に閉じ込められていたからこそ、なにかわかるかもしれないと期待しての事だろう。
「みんな元気でしたよ。ブランシェットの子供の頃のような暴れっぷりだったねぇ」
と、ペローの頭を優しくなでながら答える。
「あ~、そりゃ相当な悪ガキだわ」
チビヤギの暴れっぷりを、ブランシェットの子供の頃に例えるのは、過去を知っているからこそできる事。少なくともお婆さんは本物と判断してよさそうだ。
「姉貴ひでぇ。大人しくてかわいい女の子だったじゃねぇか」
「みんなの前でそういうウソを言わないの。ってか自分でかわいいはないっしょ!」
「ないでいやがりまっす!」
「ペロぉ~そりゃないぜ~」
「……ん……?」
彼女たちの会話で、僕はなにか不思議な感覚におちいっていた。違和感と言うか、なにかヒントのような……
その時、頭の中でルドウィンの言葉がよみがえった。
『あまり形式に囚われると、見えるはずのものが見えなくなりますぞ』
お婆さんをさらった黒色オオカミ
六匹のチビヤギをさらった、顔に傷のある灰色オオカミ
街で目撃された灰色オオカミ
三匹にかかわるこれらの証言、もしこの中にウソがあるとしたらどうだろうか?
「赤猫のお婆さん、あなたをさらったのは黒色オオカミですか?」
「ええ、この子たちの面倒をみろってここに放り込まれたのよ」
……直接姿を見ているし、家には黒色オオカミの毛束が落ちていた事からも間違いはないだろう。
「ね、アガサくん。灰色オオカミの顔の傷はどんなだった?」
「えっと、あ……凄く大きかった」
「ほかに、顔に傷のある灰色オオカミを見た子はいる?」
「ボク、怖くて目をつむってた」
「ウチも見てない」
「オイラも〜」
長男は机の下、長女は寝床の中、暖炉の中に、台所。戸棚の中やタライの下、七ばんめは柱時計の中。子どもたちは思い思いに隠れたが、見つかって袋に入れられた。
しかし、誰も顔に傷のある灰色オオカミの姿は見ていない。
「……そうか、そういう事か」
――これですべての点がつながった。
「街での目撃情報ででてきた灰色オオカミは、チビヤギたちをさらった犯人とは無関係な別人だよ。通りかかっただけとか」
「なんでそんな事が言いきれるの?」
と聞いて来たのは鈴姫さん。その顔には余裕と笑顔が見える。ここまでのやり取りから、すでに答えに行きついているのだと思う。多分、話を分かりやすくするために、あえて質問したのだろう。
「メイジーさん。例えば颯太が目撃されたとして、どんな噂になると思う?」
「ん~、大きくて黒い人?」
「だよね。じゃ、僕は?」
「まあ、灰色の人っしょ」
「颯太には『大きくて』ってつけるのに、僕にはなにもないの?」
「だって、普通だし」
「そう、普通なんだ。普通の人は特になにも装飾されないよね」
イケメンだとか、ドリルヘアのお嬢様だとか、特色や肩書があるのならそれを口にする人がいるのは当然だ。
「つまり、体が大きく顔に傷があるオオカミなら、聞き込みの時にそのひと言がでるはず」
「まあそうよね。アタシたちも『赤猫の』って最初につけられるし。それ、納得っしょ」
「でも街の人は、誰一人として体格どころか、顔の傷の事も言わなかった。つまりそれは、犯人とは全く無関係の灰色オオカミだったからと考えられないかな?」
多分だけど、街で聞いた噂話は、糸目のナローの目撃証言だと思う。彼もなにか調べているみたいだったし、オオカミの姿をみられていてもおかしくはない。
「そして、黒色オオカミの存在や落ちている毛は確認しているけど、灰色オオカミの毛は確認されていない」
この、ドイルの迷宮に繋がる横穴でも、黒色オオカミの毛は落ちているが、灰色オオカミの毛は皆無。チビヤギを誘拐したのが灰色なら、ここに毛が落ちていないハズがない。
「つまり、一番下のチビヤギからしか、顔に傷がある灰色オオカミの証言がでていないんだ。……もしそれが、黒色オオカミの存在を隠すためのウソだったとしたら?」
「じゃあ、黒色オオカミが化けているのは……」
メイジーのひと言で、みんなの視線が一匹のチビヤギに注がれた。もちろんこれは可能性のひとつでしかない。それでも状況証拠が示している結論は、このひとつしかなかった。
「そう、ずっと母ヤギさんと一緒にいた一番下のチビヤギ。アガサ、君が黒色オオカミだ!」




