第63話・【童話全修 その12】
「異世界スゴロクを仕掛けた黒幕は、あの廃墟部屋の中にいる誰かやで」
糸目のナローの口から、突然とんでもない言葉が飛びだした。よりによって、僕らの中に『異世界スゴロクを仕掛けた黒幕がいる』と。
「ふざけるな、言っていい事と悪い事があるだろ!」
「言うたやろ。信じるかはミナミナはんの自由や。強制もなにもせぇへん」
「……」
こんな話、信じるわけにはいかない。確かにまだつきあいは短いけど、みんな気のいい仲間だ。人を騙して閉じ込めるような人はいないと断言できる。
「どないしたんや?」
僕にみんなを疑うように仕向けて、いったいなにが目的なんだろう?
「黒幕って、誰なんだよ」
それでも、ここまではっきりと言われてしまうと、嫌でも疑心暗鬼が生じてしまうのは仕方がないと思う。……いや、思いたい。
「まだわからへん。今のところは”誰か“としか言えんのや」
「はあ? そんなんで仲間を疑えなんてよく言えるな!」
「信じるかは……」
「またそれか。いい加減にしてくれ、イライラする」
「まあ、そう言わんと。そや、これを渡しとくで」
そう言って彼は指輪を手渡してきた。-Alliance-の文字が刻まれた、シンプルな形状のシルバーリング。
「同盟の指輪?」
「絆って意味もあるで。本当に困った時、必ず役に立つはずや」
「これ使ったらどうなるんだよ」
「その時にわかるで」
「アホか。こんなもので誤魔化そうとするな」
原宿の露店で買ったあと、部屋の隅で何年も忘れ去られたような黒ずんだ指輪だ。こんなものが役に立つ場面なんてあるのだろうか?
「さて、ワイはそろそろドロンしまっさ」
人差し指を立てた拳を縦に重ね、忍者のポーズをする糸目のナロー。うちの爺ちゃんがやっていたような古いネタだ。
「まてよ、まだなにも答えを聞いてな……」
「ほな……ドロン!!!」
糸目のナローはそのままトウモロコシ畑の中に突っ込み走り去っていった。……自分の言いたい事だけを口にして、肝心な質問の答えは『知らぬ存ぜぬ』のままだ。
そんな証拠ひとつない状態で、僕らの中に『異世界スゴロクを仕掛けた黒幕がいる』なんて信じられるはずがない。そもそも、彼のその言葉自体が、僕を迷わせるフェイクの可能性もある。
糸目のナローの存在は、限りなく黒に近いグレーだ。やはりこれはみんなに話すべきか? ……でも、もし本当に黒幕がいた場合どうなるのか。
そんな考えが頭の中でグルグルしている時、ガサガサッと背後から音が聞こえた。誰かが茎をかき分け歩いている音だ。
足元に落ちている黒色の毛束が目に入る。まさか、今度は黒色オオカミかと、背筋を冷たい汗がツーッと流れた。バルバトスの短剣を音のする方にかまえ直し、口の中がカラカラだと認識したその瞬間――。
……2メートルはあるトウモロコシの茎の上に、ヒョコッと飛びでる見なれた猫耳。
「え、ベルノぉ!?」
猫耳はくるくるぱたぱたと動き、僕の方を向いて止まった。
「あ~、ミナミニャいたニャ!」
「え、どっち?」
「こっちニャ!」
颯太の声もする。二人とも、もう水車小屋からここに来ていたのか。茎の間からガサッと、大柄なクロ子がベルノを肩車したままでてきた。
「丁度よかった。颯太たちを迎えに行くとこだったんだ」
「って事はここが?」
「うん、当たりだった」
……当たってほしくない大当たりでした。
僕は移動しながら二人に状況を話した。この穴がドイルの迷宮に繋がっていて、ドイル自身は黒色オオカミの協力者だった事。そして、赤猫ずきんのお婆さんやチビヤギたちが牢屋に閉じ込められている事を。
「鉄格子の鍵は鈴姫さんとブランシェットさんが取りに行ってるよ」
ただひとつだけ、糸目のナローが言った事については黙っていた。決して颯太を疑っているのではない。純粋に、どんな影響がでるのかが怖かったからだ。
♢
僕らがメイジーたちと合流してから十分ほどして、鈴姫さんとブランシェットが戻ってきた。
「みんな、ただいま」
「ったくよう。このブーたれ、宅配BOXの天井に鍵を隠していやがったよ」
ドイルが白状すれば話は早いのに、彼は頑なに言おうとしなかった。なぜ黒色オオカミに義理立てするのか、なにか理由がありそうだ。
「でも、よくわかったね、そんな場所」
「鈴姫ちゃんの名推理だぜ!」
と、二人は両手でハイタッチを交わした。
「え、どんな推理だったの?」
「自分も聞きたいです。雪平さんの推理」
「二人とも、最初に迷宮に入った時の事覚えてる?」
「うん」
「あの時、通路にはホコリが積もっていたでしょ。一歩ごとに白く舞い上がって足跡が残るくらいに。でもそこには、オオカミの足跡がなかったの」
だから別の入り口があると予想して、宅配BOXを調べた、と。彼女の鮮やかな推理には、颯太も満面の笑みを見せていた。
……それにしても、ドイルは『出入りできない』と言いながら、オオカミを通していたのか。
「――ああ、私のチビちゃんたち」
ブランシェットが鉄格子を開くと、弾けるように飛びだしてくるチビヤギたち。母ヤギは両手を広げて受け止め抱きしめた。末っ子のアガサも兄や姉に抱きついて、無邪気に喜んでいる。
「アシモフ、ジロウ、ミユキ、エドガー、フジオ、シドニィ、シンイチ。みんな無事でよかった」
感動の再会。親の愛情がひしひしと感じられ、うかつにもウルっときて……ウルっとき…………って、あれ?
「なんで八匹いるの?」




