第62話・【童話全修 その11】
「ここでなにやってんだよ」
「まあ、ちょっとした捜査やで」
「……お前は敵なのか?」
我ながら意味のない質問だった。『敵か?』と問われて『はい』なんて答えるヤツはいないだろう。それに、そもそも僕の中では、敵として認識しているのだから。
今までの事から、彼は……糸目のナローは、異世界スゴロクを知っているはずだ。知っていて、僕が転移する世界に現れているのは間違いない。
「答えろ、何者なんだ。異世界スゴロクの事を知ってんだよな?」
そこには悪意がある。でなければ僕らを監禁したり、死ぬような冒険に放りだしたりしないのだから。
「落ち着きなはれ。質問はひとつづつやで、ミナミナはん」
「僕たちを廃墟部屋に閉じ込めた理由はなんだ? お前がこのゲームの黒幕なのか?」
そして、最も重要なのは、コイツがどこまで関わっているのか、だ。
「なんやもお、ひとつづつ言うとるやろ」
「……お前がチビヤギを誘拐したのか?」
「そやからひとつづつや言うて……あ、ひとつやな」
糸目のナローは、頭をかきながらその場にドカッと座った。あぐらを組んだまま空を見上げるその姿は、執事長よりもカシラの時に近い。
「NOやで」
「じゃあ、犯人は誰なんだよ」
「そないなもん、すでに答えがでとるやないか」
そう、答えはでている。顔に傷のある、灰色オオカミだ。だけど、だからと言って、目の前の男が潔白だという証明にはならない。現にオオカミの姿をしているし、他のオオカミと繋がっている可能性もあるのだから。
「やっぱり信用できん」
「だから落ち着きなはれって」
「お前を疑わない理由があれば言ってみろよ」
「ほんまもお、どんだけ疑っとんのや」
「80……いや、90%黒だな」
「よう思いだしてみぃ。ワイに殺す気がおうたら、バルバトスの城でアッサリやで?」
確かにあの時は、僕ら四人に対して細目のナローと海賊どもで二~三十人はいた。襲いかかられたらひとたまりもなかっただろう。
「事故に見せかけて船から突き落として溺れさせてもええし、クラーケンやセルケトに頭からバリバリと食わせる事も可能やな」
「……っ」
「つまり、や」
と、細めのナローは指でピストルを作って僕に向けると、弾を撃つジェスチャーをしながら言葉を続けた。
「危機感のないあんさんを殺るだけなら、こんな回りくどい事はせんっちゅうねん」
なんかムカつくけど言っている事は正しいと思う。実際今も、短剣を構える僕に対して一切の敵対行動をとっていない。
「……殺すのが目的じゃないのなら、なんのためにこんな事をするんだよ」
「カマかけは無意味やで。ワイはミナミナはんたちを陥れた犯人やないさかいな」
なんのためにこんな事をするのか? この質問は、異世界スゴロクの首謀者でなければ答えられない質問だ。
――つまり、すぐに『カマかけ』と気づくのは、当事者ではないからと言える。
「その手は”桑名の焼き蛤“や。少しは信用してもろて~」
「まだ50%だ。これは簡単に白黒つけられる話じゃない。」
「渋いなぁ。ま、今はそれでええわ」
「似合ってんだろ。灰色オオカミだし」
「それはお互い様や、グレ子はん。似合うとるで、ぴちぴちグレータイツ」
「……うるせっ」
人から言われると無性にイラッとくる。全身タイツが似合ってると言われて喜ぶヤツがいるわけない。
「でもま、そのくらいが丁度ええのかもしらんな」
「なんの話だよ」
「半分しか信用されてへんって事や。あんな、今から重要な事言うで。ミナミナはんの命に関わる話や」
「なんか怖い事をさらっと言ってない?」
「信じるか信じないか、それはミナミナはん次第やけどな」
わざとイライラさせる、もったいぶった回りくどい話し方。これが彼の話術なのだろう。こちらのペースを乱し、自分のペースに持ち込むやり方。まさしくドラマで見たペテン師のようだ。
ならば彼の話に耳を傾けず、自分のペースを崩されなければいい。わかっている以上は騙されないようにするだけだ。そう思っていた。
「ええか。異世界スゴロクを仕掛けた黒幕は……」
……しかし、糸目のナローが発した言葉は、ペースを崩すどころの話ではない、思考をかき乱すひと言だった。
「あの廃墟部屋の中にいる誰かやで」
「……は?」
……今、なんて言った?
「誰かやで〜」
「……はああ???」
僕らの中に首謀者がいるだと?




