第61話・【童話全修 その10】
「あ、ねぇたん!」
突然現れた人影に、最初に反応したのはペローだった。
「よお、ペロー。姉貴も問題ないか?」
「ブランシェット……なんで?」
ドイルを投げ飛ばした人影。それはまさしく、赤猫ずきん次女のブランシェットだった。そしてそのうしろには、鈴姫さんや母ヤギとチビヤギまでもがいた。つまり、ドイルの迷宮に向った全員だ。
「水音くん、なぜここに?」
「それ、こっちが聞きたいんだけど……」
僕らが入ってきた大穴とは反対側、通路の奥から現れた四人。……いや、五人。話を聞くと、ここはドイルの迷宮と繋がっているそうだ。
鈴姫さんは、ドイルの部屋に入った時”湿った土”が落ちている事に気がついた。午前中に行った時にはなかったものだ。レンガ造りの建物の一室、それもテレビやベッドがある部屋になぜ土くれがあるのか。
ドイルはなにを聞いても『気のせいブー』とはぐらかすだけ。挙句の果てに、鈴姫さんに求婚までし始めたらしい。
……しかし彼は見誤っていた。そしてすぐに後悔する事になる。
鈴姫さんと一緒にいるのは、僕や颯太ではなく、赤猫ずきんの武闘派次女、ブランシェットだ。ドイルの態度にプチッと堪忍袋の緒が切れた彼女は、いきなりドイルをブチのめしてしまった。
「だけどよ、コイツ、ぶん殴ってもなにも言わねえんだ」
「あら、そのあと私が優しく語りかけたら、全部話してくれましたわ!」
「君らは【木枯らしと太陽】か!」
ドイルはオオカミから資金提供を受けて、引きこもり生活のかわりに協力、迷宮とこの地下通路を作っていたそうだ。兄貴に命を狙われていると言うのも嘘なのだろう。
そして縛り上げ、案内をさせてここにたどり着いた、と。
「ああ、わたしのおチビちゃんたち!」
「兄ちゃん、姉ちゃん!」
鉄格子を挟んで、チビヤギの兄弟たちと母ヤギが対面している。母親と弟に再会できて、とても嬉しそうだ。
「おいブーたれ。牢屋の鍵をだしやがれ」
「ここにはないブー」
「はあ? どこにあんだよ」
「ボクちんの部屋だブー。取りに行ってきてやるブ。だから縄をほどいてほしいブ」
「アホ、逃げるつもりじゃねえか。『行けたら行く』は絶対に来ないってくらい確実にな」
……何気に例えが的確なブランシェット。
「姉貴、コイツ見張っててくれ。戻って鍵探してくる」
「それなら私も行くよ。二人で探した方が早いから」
と、名乗りでたのは鈴姫さんだった。通路も部屋もわかっているのだから、この二人に任せておくが正解だと思う。
「じゃあ、僕はその間に、颯太とベルノを迎えにいってくる」
この場に残るのは、メイジーとペロー、母ヤギとチビヤギだ。ドイルは放置しておいて問題ない。メイジーが鉄格子にグルグル巻きにして縛りつけたのだから。
僕は来た通路を走って戻り、ハシゴを登った。颯太たちはこちらに向かっているはずだから、どこか見通しのよい場所で待つのがベストだろう。
小屋の位置を確認し、農業路にでようとしたその時——。
突然、トウモロコシの茎の間から手が伸び、僕の腕をつかんだ。爪は鋭く伸び、毛むくじゃらで灰色の毛並み。
――っ!!
咄嗟にその手を払って飛び退き、腰に下げているバルバトスの宝剣を引き抜いた。目の前の敵を見据える。僕と同じくらいの体格の、灰色の個体。
「まさか、ここに灰色オオカミがいるとは……」
しかしこれはおかしい。チビヤギは、『灰色オオカミは大きくて顔に傷があった』と言っていた。だが目の前のオオカミは、毛色こそ灰色だが体格は普通で、顔のどこにも傷なんてなかった。
赤耳ずきんのお婆さんをさらった黒色オオカミ。
チビヤギの兄姉を誘拐した、灰色で顔に傷のある大柄なオオカミ。
そして今、目の前にいる灰色のオオカミ。
――つまり、敵は三匹。
ソロで戦うのは初めてだ。僕の転移者補正は、主に魔法操作に振られている。サポート型の後衛寄りだ。身体強化極振りの葵さんみたいには動けない。
それでも、【バイキング・オブ・カリビアン】や【没落令嬢】で鍛えられてきた。それなりに成長はしているはずだ。僕は灰色オオカミから視線を外さずに、手探りで水筒のフタを回した。
「ちょ待ち、落ち着きや〜」
「……は?」
「ほんまやめて~な。かなわんて、ミナミナはん」
なんとも拍子抜けする、聞き覚えのある声。そしてうさん臭い関西弁のイントネーション。極めつけは糸目。オオカミだけど糸目。
……そして、僕をミナミナと呼んだ。
「まさかお前……カシラ……の、ナローの糸目の執事長?」
「わけわからんて。混ぜ過ぎやで」




