表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/60

ドラゴン娘、仲間たちと手をつなぐ

 力をすべて使い果たし、地面に倒れるリンゴ。

 ハリスも同じく膝をつき、表情を歪める。


 多くのモノを失いながらも、これまでで最も苦しい戦いを、彼等は制した。

 しかしまだ、最後のイベントが残っていた。


「うわあああああぁぁぁああぁぁぁっっ!?」


 上空から響く声に、ハリスはふと顔を向ける。

 そこにあるのは、落下する四つの人影。


 声の主である研究員と、落下の恐怖に表情をひきつらせるマスター、彼等含む三つの影を救おうと届かない手を伸ばすポーラ。

 そして力を使い果たし、墜落していくレナの姿もあった。


「これは予想外なことになったねぇ」


 そう漏らしたのは、二人に助太刀をした狼耳の美女。

 地面に倒れるリンゴは、視線だけ彼女に移す。


「どうしてフェンリルさんがここに……」


「恩返しさね。そんなことより、どうすんだい?」


 意味深に問う彼女の視線を追い、もう一度上空を見上げるリンゴ

 落下する四人のなか、ポーラはマスターと研究員を無事キャッチし、そのまま離れたレナへ手を伸ばす。


 しかしレナは、目を閉じたままびくりともしない。

 それどころかよく見れば、頭部の角もなくなっていた。


 ハリスと出会った直後、ほぼ枯渇寸前まで魔力がなくなった時と同じ姿で、意識を失い落ちていく。

 無防備な彼女の姿を見るハリス達に、フェンリルは語る。


「私のあげた魔力を本当に使い果たしちまうとは、やっぱりドラゴンってのは燃費が悪いねぇ。あれじゃ普通の人間と変わらないよ」


「待ってください! ということは……」


「……ああ、このまま落ちれば命に関わる」


 青ざめた表情で語るハリス。

 契約によりレナの体調を知る彼は、今がいかに危険な状態かを察していた。


 迫る危機を共有した二人は、走り出そうと身を起こす。

 しかし負担も深刻で、リンゴに関しては立つことすらできない。


 そんな彼等を見かねたか、フェンリルが語りかける。


「気合は充分、しかし身体が追いつかないみたいさね」


「お恥ずかしい限りですが……」


「そんなことはないよ。こうはいったけど、私の魔力も残りわずかでね。助けられる手段が無いんだよ」


 彼女はそのまま「だから」と続け、リンゴに手をかざす。

 すると薄緑色の光子が掌から放たれ、二人を包む。


「今渡せる最大量の魔力だよ。アンタ等なら、なんとかできるんじゃないかい?」


 フェンリルの言葉と、肉体に宿ったわずかな魔力を感じ、ハリス達は互いを見る。


「行きましょう、ハリスさん!」


「ああ、多少無理をしてもな」


 その言葉に歯を見せて笑い、手を差しのべるリンゴ。

 ハリスがその手を取ると、二人の身体は宙に浮く。


 そうして二人は……いくらか荒い飛びかたで、レナを目掛けて飛び立った。

 空へ昇っていく二人を、フェンリルは嬉しそうに見上げる。


「本当に、いい仲間を持ったねぇ。レナーズベルグ」



 一切の光がない闇の中、レナは逆さまに堕ちていく。

 ボロ布を纏い、角もない彼女は、まるで眠っているかのようだ。


『起きて、起きるのです、レナ』


 どこからともなく響く声に、目を覚ますレナ。

 瞼を開くと、そこには黄金の巨体がそびえ立つ。


 ――間違いなく、今しがた倒したファブニルである。


 落下しながらも身構えるレナだが、そんな彼女にファブニルは、蛇に似た愛嬌のある顔で微笑みかける。

 その瞳に濁りはなく、確かな意識が宿っていた。


『良かった、意識を取り戻しましたね。まだ目覚めてはいませんが』


「ファブニル……ここは……?」


『あなたの意識の中です。今のあなたは不完全に復活した私を倒し、気絶しているのです』


 優しい声で説明を受け、レナは警戒を解く。

 暗闇の中で落下し続ける彼女だが、逆さまで向かい合うフェンリルとは目が合ったまま、いつまでも落ち続けている。


「つまり貴様は、我が意識が作り出した幻影か?」


『そんなものではなく。私ほら、不死なので。いざ肉体がなくなったらこれくらいの自由は効くのです』


「……凄まじい生命力なのだな」


 変に感心し、他愛ない会話をする二体の龍。

 気を許して微笑む二人だが、ふとファブニルが頭を上げ、呟く。


『こんなことをしている場合ではありませんでしたね』


「そういえば、なぜ私の意識の中に?」


『ええ、ご挨拶をと思いまして』


 するとファブニルは、もう一度彼女に顔を向け、言葉を続ける。


『幾千年前、あなたに託した予言の日が近づいています』


「世界を滅ぼす九頭竜が現れる日か」


『しかし私は、大きな見落としをしていたようです』


 彼女の言葉に、当然の疑問符を浮かべるレナ。

 するとファブニルは、残る言葉を吐きだした。


『今のままでは世界は救えない。そしてあのとき私が勝っていても、人類を守ることができなかった』


「……見たのか、その未来を」


 レナの指摘に黄金龍が首を縦に振る。

 残酷な未来視に、彼女の表情は曇り陰る。


 だがレナは、強い視線で向かい合う黄金龍の瞳を見て、ハッキリとした声で尋ねる。


「何とか手段は無いのか!? 人間を守る方法は!」


『――ふふふ、ずいぶん人間が好きになったのですね』


 ハリスが以前投げかけた言葉によく似た指摘。

 しかし今度は、レナは顔を赤くしてうつむいた。


 可愛らしい彼女の様子を見つつ、ファブニルは少し目を細め、頭を下げる。

 そうして彼女は、落ちついた声色で答えた。


『手段があるかはわかりません。でも、まだ見えていない可能性の未来がある。そこにたどり着くことができれば、あるいは』


「見えていない未来……?」


『はい。そのためにもまずは――』


 ファブニルがそう言うと、一気に視界が明るくなっていく。

 周囲の変化に驚くレナに対し、彼女は暖かな声で告げた。


『今いる仲間たちと手を取って、私の見なかった未来へ行ってください。そうしたらすぐに私も――』


 瞬間、レナとファブニルは、まばゆい光に飲み込まれた。



「レナああああぁぁぁぁぁッッッ!」


 けたたましいポーラの声に、レナは目を覚ます。

 意識を取り戻した彼女が見るのは、落下しながら流れていく、朝焼けの草原。


 そんな彼女に、マスターたちをキャッチしたポーラは、空中で手をのばしていた。


「ポー、ラ?」


「早く捕まって、レナッ!」


 険しい顔と共に突き出される手に気づくレナ。

 彼女も腕を伸ばすが、人間と同じ強度まで弱体化した彼女に、その手はあまりに遠すぎた。


 このまま落下すれば、彼女の命に保証はない。

 だからこそポーラは諦めずに手を伸ばし続ける。


「レナ! もっとこっちに!」


「ポーラッッッ!」


 互いの名前を呼び合い、距離を縮めようとする二人。

 だが残酷にも、二人の間は空気の流れに切り裂かれ、なかなか埋まらない。


 人間二人ぶん程度の距離を開け、みるみる落ちていく彼等。

 迫る危機に関わらず、二人は諦めずに手を伸ばし合う、その時だった。


 彼女たちに、手をとって舞い上がってきた二つの人影が、両者をつなぐように伸ばす手を握った。


 レナの手を取るスッと伸びた男性の手と、ポーラを捕まえた幼さの残る少女の手。

 二つの手に取られたレナとポーラは、彼等の名前を呼ぶ。


「ハリス様……っ!」


「来てくれたんだ、リンゴちゃん!」


 彼女達を救い、空を荒く飛行する二人。

 その挙動は追加の人員で更に不安定になり、研究員たちの不安を煽る。


「だ、大丈夫なのか!?」


「無理はしないでくれたまえ!」


「無理しないとみんな死にます! でも、安定感が――っ!」


 悔しそうに歯噛みしながら、なんとか安定をとるリンゴ。

 しかし次第に、飛行は緩やかに加速する落下へと変わっていく。


 合わせて六人の安全はまだ確定していない。

 だがその時、ハリスの頭に策が浮かぶ。


「全員で、円になるように手を取り合うんだ! そうすれば少しは安定するはずだ!」


「――わかった、やってみよう!」


 マスターの承諾に、残る面々も頷く。

 そうして彼等は助け合い、少しずつ円を描いて手を取っていく。


 レナがハリスを、ハリスがリンゴを、リンゴがポーラを、ポーラが研究員を、研究員がマスターを、マスターがレナを繋いでいく。


「この安定感なら、行けます!」


 リンゴの言葉のとおり、落下速度は次第に落ちていく。

 激闘を終えた四人と、人々を纏めたマスターたちを労るように、落下で起きる優しい風が撫でていく。


 繋がり合う六人の中でも、レナとハリスが互いに取る手は、誰よりも力強い。

 それを現すかのように、晴れやかな顔のレナが彼の顔を見る。


「よくやったな、レナ」


「ハリス様こそ」


 完全に意思の通じ合った二人と共に、彼等は夜明けの光の中、草原へとゆっくり舞い降りていく。

 橙色に燃える太陽は、彼等の戦いを祝福するように輝いていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ