ドラゴン娘、尋問される
数日後、巨人の襲来時よりも多くの研究者が来ると共に、町の復旧は始まった。
初日は町の惨状と倒れた世界樹に、彼等は呆然としていた。
それでも日が経つにつれ、人々は瓦礫の中で日常をおくりだす。
地下空洞と被害が少なかった建物を拠点に、彼等は仮設住居をつくり、誰もが自分のできる仕事で町をなおしていく。
あるものは力で、あるものは魔術で、そしてある者は食事で。
全員が手を取り合うことで、少しずつだが復興は始まっていた。
残骸となった町には当然ハリスの姿もあり、彼は多くの冒険者と共に瓦礫の運搬に精を出していた。
「これで第一区画の残骸は全部か」
町の外の草原に残骸を運び出し、山のようにして背伸びするハリス。
彼の周りには、同じようにストレッチする冒険者たち。
一人の労働者として囲まれ、彼は清々しく汗を流す。
すると周囲の彼等をかき分け、可愛らしい声が彼を呼んだ。
「リンゴか、どうした?」
「こちらの仕事が終わったので、少し様子を見に来ました!」
「終わった? さっき昼食をとったばかりなのに?」
「はい! 最後の一人のゾンビ化を解除しましたので!」
その言葉にハリスは理解し、うんうんと頷く。
彼女の役割は、襲撃してきたならず者たちのゾンビ化を解除することであった。
普通の人間になった彼等は、まとめて近隣の大規模な都市へ送られ、裁判ののちに衆人として罰せられる。
ハリスの因縁も、あっけなく幕引きされようとしていた。
しかし当の彼はあまりそちらを気にしておらず、リンゴの辺りをキョロキョロと見る。
「ポーラはどうした?」
「フェンリルさんと共にレナさんの元へ。モノさんはいつも通り、仕事が終わった途端にどこかへ行かれてしまいました」
「アイツは相変わらずだな……それなら俺たちも、レナのところへ行くか」
一通り仕事を終えたハリスの提案に笑顔を向けるリンゴ。
彼は周囲の男たちに挨拶し、集団から抜け出すように歩きだそうとする。
――しかしその瞬間、彼は目をカッと見開き、町へ顔を傾ける。
「……なんだ?」
「わかりません……でも……」
同じように彼の隣で、リンゴは何かの異変に気づく。
二人が同時に覚えたのは、これから始まる小さな騒乱への〝嫌な予感〟であった。
*
同時刻。町のギルドにて。
半壊で済んだ建物はある程度修復され、建造物としての体裁は守れているが、元あった酒場とギルドとしての機能は今はない。
代わりに薄暗いその屋内では、研究者たちが、椅子に座ったレナを囲んでいた。
その中で一人、よくマスターといる女性研究員が、彼女の前に机と椅子を置き、向かい合って座っている。
彼女がメモに何やら書いていると、ちょうど建物の玄関が開く。
「ゾンビの治療は終わったさね。こっちはどうだい?」
「レナのこと、いじめてないよね?」
二人の声に振りかえる研究者たち。
同時にレナもポーラ達を見て微笑みかける。
「緊張は抜けませんが、貴重な経験と考えれば」
「良かったぁ……ってかアンタ等、もっとリラックスできる状況でインタビューしなよ」
「我々はこの形しか知らないのでな」
ばつが悪そうに頭を下げる研究員。
彼女のメモには、レナとの尋問によって纏められた情報が記録されていた。
「こんな情報、滅多に聞き出せんよ。なにせ人類が喪失した、世界樹が作り出された経緯まで知っているのだから」
「私の場合は、それを聞いただけに過ぎませんが」
「それでも貴重な情報に代りはない。なにせ君等レベルの長寿といったら、あとは敵対的な巨人族ぐらいしかいないからな」
探求する者としての確かな感謝の言葉。
レナはその言葉に、救われたような安堵の表情を浮かべていた。
しかしそれを見ていたフェンリルは、複雑そうに笑みを浮かべ、彼女達へ歩み寄っていく。
「私の時はお手柔らかにしておくれよ? こういう空気に一人でいるのは、どうも疲れるからね」
「善処しよう」
研究員の返答に「フン」と鼻で笑ってかえすフェンリル。
彼女はそのままレナの前に立つと、今の彼女の姿を見て歯噛みする。
しっぽはおろか、角すら現出できないレベルにまで魔力を使い果たした、黒髪橙眼の少女。
人と変わらぬ彼女の姿に、フェンリルは目を細める。
「私もこの魔術のお陰で魔力不足を補えてはいるけれど、今のアンタは完全に人間だね」
「頑丈さは元のままなのですがね」
「ホントに不思議さね、この魔術と言ってもいいのかわからない力は」
魔術の達人であるフェンリルが、人間化の力を指してそう語る。
それだけこの力は、この世界にとっても異質な力であった。
「それにまさか、あれだけ与えてあげた魔力を吐ききっちまうとは、私も思わなかったよ」
「本当に必死で、力加減ができませんでした」
「ブランクもあるだろうさ。それを差し引いても、私やあの小娘たちがいなきゃ、世界はもう一回滅んでたけどね」
腕を組んで微笑み、窓から差し込む光に目をやるフェンリル。
彼女は日差しを見つめ、ハリスとリンゴの活躍を思い出していた。
……犬娘たちと町に駆けつけた時、彼女は千年以上前に起きた、一度目の世界崩壊を重ねた。
レナの放った紫炎は、それだけの威力を誇っていたのだ。
だがそれを、膨大な魔力と緻密に計算された魔術によるバリア、そして相殺する光線により受けきったリンゴたちを見て、彼女は驚きと共に安堵した。
そうしてフェンリルは、肉体崩壊の可能性すらあった彼女を助けるため、バリアの操作を買って出たのだった。
「ホントに大した子達だよ、アンタ達は」
犬耳を寝かせ、感慨深く語るフェンリル。
やがてレナへの質問も終わり、彼女は椅子を立って礼をした。
そうしてフェンリルは、入れ替わるように空いた席に座る。
解放されたレナはポーラの元へ歩み寄り、ほっと息をついた。
「お疲れ様、仮設住居に帰ってやすもっか」
「はい。ちょうどハリス様も終わったころ合いで――」
言いかけたその時だった。
草原で何かを感じ取ったハリスと同じように、レナも謎の気配を察知する。
ピタリと止まった彼女を見て、きょとんとした顔をするポーラ。
だが遅れて彼女もその予感にハッとして外を睨む。
椅子に座り、腕組みをするフェンリルも、当然のように呟く。
「……あの悪ガキども、まだ暴れたりないようさね」
そう言った瞬間だった。
ドゴオオオオオオォォオォォオオオオン! ――と激しい炸裂音が轟き、修復した建物のガラスを粉々に砕いた……!
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