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ドラゴン娘、尋問される

 数日後、巨人の襲来時よりも多くの研究者が来ると共に、町の復旧は始まった。


 初日は町の惨状と倒れた世界樹に、彼等は呆然としていた。

 それでも日が経つにつれ、人々は瓦礫の中で日常をおくりだす。


 地下空洞と被害が少なかった建物を拠点に、彼等は仮設住居をつくり、誰もが自分のできる仕事で町をなおしていく。

 あるものは力で、あるものは魔術で、そしてある者は食事で。

 全員が手を取り合うことで、少しずつだが復興は始まっていた。


 残骸となった町には当然ハリスの姿もあり、彼は多くの冒険者と共に瓦礫の運搬に精を出していた。


「これで第一区画の残骸は全部か」


 町の外の草原に残骸を運び出し、山のようにして背伸びするハリス。

 彼の周りには、同じようにストレッチする冒険者たち。


 一人の労働者として囲まれ、彼は清々しく汗を流す。

 すると周囲の彼等をかき分け、可愛らしい声が彼を呼んだ。


「リンゴか、どうした?」


「こちらの仕事が終わったので、少し様子を見に来ました!」


「終わった? さっき昼食をとったばかりなのに?」


「はい! 最後の一人のゾンビ化を解除しましたので!」


 その言葉にハリスは理解し、うんうんと頷く。

 彼女の役割は、襲撃してきたならず者たちのゾンビ化を解除することであった。


 普通の人間になった彼等は、まとめて近隣の大規模な都市へ送られ、裁判ののちに衆人として罰せられる。

 ハリスの因縁も、あっけなく幕引きされようとしていた。


 しかし当の彼はあまりそちらを気にしておらず、リンゴの辺りをキョロキョロと見る。


「ポーラはどうした?」


「フェンリルさんと共にレナさんの元へ。モノさんはいつも通り、仕事が終わった途端にどこかへ行かれてしまいました」


「アイツは相変わらずだな……それなら俺たちも、レナのところへ行くか」


 一通り仕事を終えたハリスの提案に笑顔を向けるリンゴ。

 彼は周囲の男たちに挨拶し、集団から抜け出すように歩きだそうとする。


 ――しかしその瞬間、彼は目をカッと見開き、町へ顔を傾ける。


「……なんだ?」


「わかりません……でも……」


 同じように彼の隣で、リンゴは何かの異変に気づく。

 二人が同時に覚えたのは、これから始まる小さな騒乱への〝嫌な予感〟であった。



 同時刻。町のギルドにて。

 半壊で済んだ建物はある程度修復され、建造物としての体裁は守れているが、元あった酒場とギルドとしての機能は今はない。


 代わりに薄暗いその屋内では、研究者たちが、椅子に座ったレナを囲んでいた。


 その中で一人、よくマスターといる女性研究員が、彼女の前に机と椅子を置き、向かい合って座っている。

 彼女がメモに何やら書いていると、ちょうど建物の玄関が開く。


「ゾンビの治療は終わったさね。こっちはどうだい?」


「レナのこと、いじめてないよね?」


 二人の声に振りかえる研究者たち。

 同時にレナもポーラ達を見て微笑みかける。


「緊張は抜けませんが、貴重な経験と考えれば」


「良かったぁ……ってかアンタ等、もっとリラックスできる状況でインタビューしなよ」


「我々はこの形しか知らないのでな」


 ばつが悪そうに頭を下げる研究員。

 彼女のメモには、レナとの尋問によって纏められた情報が記録されていた。


「こんな情報、滅多に聞き出せんよ。なにせ人類が喪失した、世界樹が作り出された経緯まで知っているのだから」


「私の場合は、それを聞いただけに過ぎませんが」


「それでも貴重な情報に代りはない。なにせ君等レベルの長寿といったら、あとは敵対的な巨人族ぐらいしかいないからな」


 探求する者としての確かな感謝の言葉。

 レナはその言葉に、救われたような安堵の表情を浮かべていた。


 しかしそれを見ていたフェンリルは、複雑そうに笑みを浮かべ、彼女達へ歩み寄っていく。


「私の時はお手柔らかにしておくれよ? こういう空気に一人でいるのは、どうも疲れるからね」


「善処しよう」


 研究員の返答に「フン」と鼻で笑ってかえすフェンリル。

 彼女はそのままレナの前に立つと、今の彼女の姿を見て歯噛みする。


 しっぽはおろか、角すら現出できないレベルにまで魔力を使い果たした、黒髪橙眼の少女。

 人と変わらぬ彼女の姿に、フェンリルは目を細める。


「私もこの魔術のお陰で魔力不足を補えてはいるけれど、今のアンタは完全に人間だね」


「頑丈さは元のままなのですがね」


「ホントに不思議さね、この魔術と言ってもいいのかわからない力は」


 魔術の達人であるフェンリルが、人間化の力を指してそう語る。

 それだけこの力は、この世界にとっても異質な力であった。


「それにまさか、あれだけ与えてあげた魔力を吐ききっちまうとは、私も思わなかったよ」


「本当に必死で、力加減ができませんでした」


「ブランクもあるだろうさ。それを差し引いても、私やあの小娘たちがいなきゃ、世界はもう一回滅んでたけどね」


 腕を組んで微笑み、窓から差し込む光に目をやるフェンリル。

 彼女は日差しを見つめ、ハリスとリンゴの活躍を思い出していた。


 ……犬娘たちと町に駆けつけた時、彼女は千年以上前に起きた、一度目の世界崩壊を重ねた。

 レナの放った紫炎は、それだけの威力を誇っていたのだ。


 だがそれを、膨大な魔力と緻密に計算された魔術によるバリア、そして相殺する光線により受けきったリンゴたちを見て、彼女は驚きと共に安堵した。


 そうしてフェンリルは、肉体崩壊の可能性すらあった彼女を助けるため、バリアの操作を買って出たのだった。


「ホントに大した子達だよ、アンタ達は」


 犬耳を寝かせ、感慨深く語るフェンリル。

 やがてレナへの質問も終わり、彼女は椅子を立って礼をした。


 そうしてフェンリルは、入れ替わるように空いた席に座る。

 解放されたレナはポーラの元へ歩み寄り、ほっと息をついた。


「お疲れ様、仮設住居に帰ってやすもっか」


「はい。ちょうどハリス様も終わったころ合いで――」


 言いかけたその時だった。

 草原で何かを感じ取ったハリスと同じように、レナも謎の気配を察知する。


 ピタリと止まった彼女を見て、きょとんとした顔をするポーラ。

 だが遅れて彼女もその予感にハッとして外を睨む。


 椅子に座り、腕組みをするフェンリルも、当然のように呟く。


「……あの悪ガキども、まだ暴れたりないようさね」


 そう言った瞬間だった。


 ドゴオオオオオオォォオォォオオオオン! ――と激しい炸裂音が轟き、修復した建物のガラスを粉々に砕いた……!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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