女勇者、モンスターテイマーと共闘する
ポーラを背に、ハリスはたじろぐヴァイスを睨みつける。
地獄の業火を纏ったヴァイスの攻撃で、周囲の草葉に火が回り、未明の夜闇を照らしだす。
(勇者でもない一般人なのに、この圧し潰すような迫力……変わった人間もこの世にはいるものだね)
立ち塞がるハリスを前に、うすら笑う少女。
だが彼女はその笑みに僅かな怒りも浮かべ、剣を振り上げる。
「でも、トドメを邪魔されるのは……癪だなぁッ!」
剣が振り下ろされようとするその瞬間。
彼女の行動より早く、ハリスは指を構える。
「『ステラキャプチャー』」
放たれた魔法陣が、ヴァイスの腕を拘束する。
二度も攻撃を阻害され、拘束された腕を見上げたヴァイスは「チッ」と強く舌打ちする。
その瞬間、しゃがみ込んでいたポーラが地面を蹴る。
一気にヴァイスとの距離を縮め、剣を振るう。
途端に拘束されていたヴァイスの腕は断たれ、目を剥きながら地面に倒れていく。
「ぐっ……!」
「もう一発!」
剣を返し、ヴァイスの胴を斬り上げるポーラ。
裂かれた彼女は地面を転がり、べちゃりと肉音を立てて倒れる。
そこへポーラは容赦なく飛び掛かり、追撃を仕掛ける。
しかしヴァイスは胴を持ち上げ、残った手で抑える。
「不死相手に無暗な攻撃は危険だ」
「でも、魔力を少しずつ削る以外に、どうやって!」
「……俺に考えがある」
振り向くポーラと視線を合わせ、うなずき合うハリス。
彼がこちらへ走りだすと、ヴァイスの第六感が危険を察知する。
胴を再生させた彼女は、飛び跳ねるように立ち上がり、ポーラを無視して身を引く。
彼女は落とされた腕を見つけると、回り込むように駆けだす。
「させるか」
とっさにリベイルケインを伸ばし、彼女の足を絡めて捕縛するハリス。
だがギリギリで、彼女は足元の石を思いきり蹴る。
石は転がる腕に命中すると、剣を握ったままの腕は、勢いよく上空に弾きあがる。
そのまま彼女の胸元へ、腕は吸い込まれるように落ちていく。
「おかえり、ボクの腕!」
キャッチした腕を元あった場所にこすりつけるヴァイス。
するとその腕はみるみるうちに接着し、回復する。
鞭により引き寄せられるヴァイスだが、彼女はそれに身を任せ微笑み、剣に猛烈な炎を纏わせてハリスに振り翳す。
「――っ」
目の前まで来た彼女に、ギリギリで反応して身を避けるハリス。
ヴァイスはそこへ、横一文字に剣を振りはらう。
間一髪で攻撃をかわしたハリスだが、その余波はすさまじく、ふらついて吹き飛ばされる。
ポーラも同じく、凄まじい衝撃に身を縮め、何とか耐える。
斬撃は広範囲の草原を焼き、世界樹にまで到達した。
そして――ザンッ!
削れるような音と共に、世界樹とその麓で戦う二体の龍に、炎を纏った斬撃が命中する。
未だ無傷のレナと対照的に、切り裂かれ再生するファブニル。
そうして……今まで無傷だった世界樹に、大きな傷が刻まれる。
「そんな……!?」
思わず振り向き、起きた現象に青ざめるポーラ。
世界樹を傷つけるなど、今までの人類、それどころかドラゴンにすらできなかった所業である。
傷からメラメラと小さく炎を上げる巨大な樹を、大きく見開いた目に映す張本人は、狂気に身を震わせてガッツポーズする。
「やった……! やっぱりボクの理論は間違ってなかった! これなら世界樹を切り倒せる! 未だ誰も作れなかった光景を!」
口を大きく開けて満面の笑みを浮かべるヴァイス。
彼女はそのまま、少し離れた世界樹へ駆け出そうとする。
しかし次の瞬間、彼女の胸をリベイルケインが背中から貫いた。
「へ?」
「……そう簡単に、させるか」
先ほど吹き飛ばされたハリスが、離れた場所から硬鞭を伸ばし、彼女を貫いて告げる。
振りかえろうとする彼女だが、その動きは奇妙なほど遅い。
「今の一撃、相当魔力を使うようだな。動きの鈍りが目に見えてわかる」
「あ、ぐ……」
「この武器には、魔力を放出・注入する力がある」
後は説明せずとも、ヴァイスは理解した。
自分自身で大きく魔力を削ったところに、魔力を強制放出させる武器の攻撃を食らい、彼女は急激な魔力欠乏に陥ったのだ。
少しずつ体が動かなくなり、膝から地面に崩れるヴァイス。
彼女はギリギリ身体を持ち上げ、激闘する二体の龍へ手を伸ばす。
「ファブ、ニル……」
瞬間、レナに噛みつこうとしたファブニルが、びくりと跳ねて動作を一瞬停止する。
その隙を突き、レナは黄金の龍を弾き倒し、マウントする。
彼女達に起きた一瞬の異変に、眉を顰めるハリス。
ポーラはその間に立ちあがり、剣を握ってヴァイスへ歩み寄る。
「魔力が無ければ、再生もできないよね」
覚悟を決めた表情で、トドメの一撃を振り下ろすポーラ。
鉄剣が地面に崩れたヴァイスへみるみる迫る。
――しかし、動けないはずのヴァイスは、突如として顔を上げた。
「……」
無言で剣を振るい、ポーラの一撃を弾く彼女。
目をカッと見開き、復活したヴァイスに、二人は思わず呆気にとられる。
彼女はそのまま駆けだし、走る勢いでリベイルケインを背中から引き抜く。
そうして彼女は、二人を無視し世界樹へ走りだした。
「ウソ、なんで!?」
「……奴は自身の肉体を媒介して、リンゴの魔力をファブニルに送っていた」
途中で止めたハリスだが、それだけでポーラにも理解した。
しかしその間にも、ヴァイスはみるみる世界樹へ迫っていく。
二人は目を合わせて頷き合い、その背中を追い地面を蹴る。
世界樹へ迫るヴァイスの前に、上空からポーラが降りたつ。
立ち塞がる彼女に対し、ヴァイスは剣を振り上げ、交える。
「くっ……!? な、何なの、この重い一撃……!?」
体が痺れるほどの剣撃に、思わず顔を歪めるポーラ。
そんな彼女と対照的に、ヴァイスはそれまでの軽薄な表情を潜めさせ、次の一撃でポーラを思いきり弾く。
「きゃあっ!?」
声を上げる彼女を尻目に、再び世界樹へ駆けていくヴァイス。
そんな彼女の頭上から、ハリスが指で狙いを定める。
「『ステラキャプチャー』!」
地面に向かって降り注ぐ無数の魔法陣。
ばらまくような、しかし狙い定められた攻撃を、ヴァイスは緩急をつけた動きでかわしていく。
人の変わったような動き、まさに本気とも取れるヴァイスの挙動に、二人は追いすがることしかできない。
激闘する龍の横を通り、世界樹を眼前に捉えたヴァイス。
魔力を回復させた彼女の剣に、再び豪炎が宿る。
ポーラは必死に走り、その背へ腕を伸ばす。
ハリスも上空から落下しつつ、鞭を伸ばして捕らえようとする。
だがしかし、ヴァイスは遂に二人の追走を振り切り――世界樹へ剣を振るった。
「――――――――ッッ!」
空間を断ち切るような一撃と共に、刃から放たれる業火。
斬撃は完全に世界樹を貫通し、断面を赤熱させた。
そうして……ズズ、と鈍い音を立て、世界樹は崩れるように傾く。
そこからはすぐだった。天を衝くほどの巨大な樹は、枝葉の擦れあう騒音と共に、いとも簡単に倒れだす。
ファブニルと戦うレナも、その光景を瞳に映す。
やがて世界樹の傾きは致命的になり、大きな地鳴りと、地面を削る衝撃と共に、遂に倒れるのだった――。
――地上唯一の『世界樹の切り株』の中心に、ヴァイスは立つ。
まだ足元は熱でくすぶる中、彼女は無表情を崩し、満足げに笑う。
すると彼女を止めようとしたハリス達も、煙を上げる巨大な株に立ち、成し遂げられてしまった惨状を見る。
ヴァイスはゆっくり顔をかたむけ、彼等を見て告げる。
「残念だったね、ボクを止められなくて」
「………………」
「どんな気持ちだい? 自分たちの守ろうとした、生きる営みの中心ともいえる世界樹が、こうも無残に切り倒された感想は」
煽るように問いかけ、ギラギラと目を輝かせるヴァイス。
するとハリスは「そうだな」と前置きし、ポーラと共に顔を上げる。
彼女を阻止できなかった二人の表情は、その過程には似つかわないほど、異様な冷静さを漂わせていた。
「まあ、仕方ないだろう」
彼の告げた一言は、拍子抜けするほど簡潔であった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回は3月18日(木曜日)12時の投稿予定です。
この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、
広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。
執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。




