女勇者、一騎討ちする
町での対決が続くなか、世界樹の麓では、二体の龍が衝突していた。
戦況は未だレナの優勢。
しかし策のある彼女と違い、命じられるがまま暴れるファブニルに対し、決定打に欠ける戦闘を強いられていた。
地面に倒されたファブニルが、レナに噛みつかんと大口を開く。
対して彼女はその頭を殴りつけ、攻撃を阻止する。
『グオオォォォ……ッッ!』
ファブニルを睨みつけ、咆哮する黒い龍。
するとその背から、二つの小さな影が地面に飛び降りる。
影の一つ――ヴァイスは、剣を杖の代わり立ち、体をおさえて息を切らす。
「へへ……ありがとうファブニル。世界樹まで運んでくれて」
苦しげながら、不敵に告げるヴァイス。
しかし黄金龍は反応せず、レナとの激戦を続ける。
だが彼女と共に飛び降りたポーラは待たず、油断する彼女に距離を詰めて剣を振るう。
「不意打ちとはよくやる……ねっ!」
重々しく剣を振るい、攻撃を弾くヴァイス。
それでも彼女の攻撃は止まらず、弾かれたそばから追撃を仕掛け、敵の身体に深々と切り込む。
一見致命傷ながら、流血しないヴァイスの肉体。
毒に侵されつつも肉体は再生し、不死性は健在である。
「へへ、へへへ……痛いなぁ。本当ならボク、君に何度殺されたんだろうね」
「そんなの、数える気も起きないから」
ヴァイスの言うとおり、もう何度彼女を殺したかわからない。
ポーラは表情を歪めつつ、再び彼女の胴を断つ。
だが直後に彼女は再生し、そのまま彼女の頭上に剣を振るう。
間一髪でその攻撃を止め、二人は鍔迫り合いする。
「何故ここまでして、くだらない夢を叶える必要があるの?」
「ボクがその光景を見たいからだよ。自分が本当に好きなことの為なら、人は身を粉にできるだろう?」
言い終えた彼女は、ポーラを弾いてニヤリと笑う。
瞬時にポーラは地面を蹴り、再びヴァイスに斬りかかる。
それでもヴァイスは一切動じず、呟く。
「――『エンチャント・インフェルノ』」
瞬間、ヴァイスの肉体を赤白の炎が包み込む。
まばゆい光を放つ業火に、ポーラは衝撃で吹き飛ばされる。
モノやポーラが敵を一掃する際に使った魔術だが、その威力は彼女たちより数段高く、その炎をヴァイスは自身の身に纏わせる。
超高温による破壊と再生を繰りかえす肉体に、苦痛の表情を浮かべるヴァイスだが、それでも彼女は喜々とした声を上げる。
「ボクの考えなら、これで理想は叶えられるはずなんだよね……!」
瞬間だった。
ヴァイスは炎の尾を引き、とてつもない速さでポーラの前に現れる。
回避も防御も一切の余地を与えず、ただ見ることしかできないポーラに、彼女は軽く手をかざす。
その掌には小さな太陽のような火球が作られ、炸裂する。
爆炎をもろに食らい、吹き飛ばされるポーラ。
受け身なく地面を転がる彼女に、ヴァイスはニヤリと笑う。
「あーあ、どうしようか。せっかく毒でボクとの戦力差を詰めたのに、これでまた離されちゃったね」
傷だらけで地面に転がる彼女を見下すヴァイス。
直後、ポーラは大きく咳込み、止まっていた呼吸を荒く再開する。
「へえ、まだやるんだね」
「当たり前でしょ……勇者なんだから……」
よろめきながら立ち上がるポーラ。
ヴァイスは余裕の表情を浮かべ、彼女の姿を慈愛にも似た瞳で見つめる。
「ハリスから聞いてるんだから、アンタのくだらない夢は」
「でもこれができたら、あそこにいるドラゴンでもできなかった偉業だよ?」
「私利私欲の為に大勢の人を巻き込んだ時点で、アンタの夢は偉業だなんて言えないわ」
「じゃあ、君は見たくないの?」
炎で燃え盛る体を広げ、両腕を掲げるヴァイス。
彼女の背には、禍々しいほどに巨大な世界樹がそびえ立つ。
「この世界樹が、幹の真ん中から折れて、音を立てて倒れていく様を」
「……本人の口からきくと、本当にくだらない夢ね」
ハリスから聞いた夢が、もう一度語られる。
拍子抜けするほどくだらない彼女の目的に、ポーラは息をついた。
世界でも数えるほどしかなく、朽ちも倒れもしない世界樹を伐採する……そんな迷惑な理想の為に、彼女は動いていたのである。
だが当の本人は、不思議そうに顎へ手を当てて首をかしげる。
「ここまで話しても理解できないか……どうやらボクと君は、根本的に価値観が違うようだね」
「理解できるワケないじゃん、アンタの夢なんか」
「だからって、邪魔する必要はないよね?」
「邪魔……?」
吐き捨てられた言葉に、ピクリと反応するポーラ。
彼女はまっすぐ姿勢を治すと、強い視線で睨みつける。
「私の目的は、アンタという怪物を討伐するだけ。別に邪魔なんてするつもりはない」
「じゃあ別に、あとで倒せばいいじゃないか」
「それでアンタを放置したら、またくだらない……大勢を泣かす夢を振りかざすかもしれないじゃん」
「……よくわかってるね、ボクのことが」
微笑んだヴァイスは、再び音もなく地面を蹴る。
一気にポーラと距離を詰め、剣を振り下ろす彼女。
ポーラはそれを間一髪でよけ、彼女の腹部に刃を突き入れる。
しかしヴァイスは怯むことなく、カウンター気味に前蹴りを放つ。
衝撃で刃は抜け、ポーラは再び地面に倒れる。
いっぽうでヴァイスは、幾度となく感じた〝慣れるはずのない死の痛み〟に慣れ、動じない。
「残念だよ。世界樹が倒れたら君がどんな顔をするか、見てみたかったのだけどね」
別れの言葉を告げ、倒れるポーラに刃を振り下ろすヴァイス。
瞬間、グシャリと鈍い音があたりに響く。
――剣を握ったまま宙に舞う、ヴァイスの腕。
二人の勇者に割って立つハリスは、ポーラの持っていた剣を振り下ろした格好で、彼女に告げる。
「見たいなら見るがいい。きっと期待外れだぞ」
淡々と語り、刃をポーラに返す彼。
見上げる彼女は涙を浮かべ、安堵する。
「……ありがと」
「気にするな。これも策のため――仲間のピンチに駆け付けただけだ」
そう語りながらヴァイスを睨む、彼の放つ威圧感は、歴戦の勇者である彼女すら、思わず身の毛がよだつほどだった。
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