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魔法少女、恩返しされる

 リンゴを囲むゾンビ達が、一斉に襲いかかる。

 瞬時に彼女は屈んで避けつつ、光り輝く杖を振るう。


『『『ぎゃあっっ!』』』


 輝く切っ先に蹴散らされるならず者共。

 光の刃を重々しく振るい、瞳を見開くリンゴ。


 光粉を散らす剣戟に、ゾンビ達は成す術もない。


『あの子供、魔法使いじゃねーのか!?』


 そう言って驚く一人のゾンビに距離を詰め、リンゴは真一文字に剣を薙いで倒し、口を開く。


「私の師は、剣も魔法も一流ですのでっ!」


 そのままの動きで、彼女は敵を蹴散らす。

 病床開けで魔力が足りないぶん、持ち前の運動神経で悪漢共を倒していく。


『相変わらず面倒なガキだ……オイ!』


 彼女の力を目の当たりにし、叫ぶリーダー。

 メンバーの二人は彼の声にコクリと頷き、群れの中へ消える。


 一人残された彼は跳躍し、上から彼女に迫る。


『もらったぁッッ!』


 気づいたリンゴが光の剣を振り上げる。

 鉄剣と光剣が衝突し火花を散らす中、周囲のゾンビも襲い来る。


 しかしリンゴは剣を片手に持ち直し、もう片腕を振るう。


「『ライトレイ・メーサー』ッッッ!」


 かつてニーズホッグの頭を貫いた極細光線で、群がるゾンビ達を全て薙ぎ倒す。

 だがその瞬間、リンゴの足元に大きなヒビが入る。


「な……っ!?」


『ここだァ!』


 モグラのように地面を割り、大男がリンゴの足を掴む。

 彼女は驚きつつ瞬時に靴を脱いで抜け出すも、今度は死角から投擲された短剣が彼女に迫る。


「くッ!」


 短剣は光の刃を発生させる杖を弾く。

 形勢を崩され、上からの攻撃に対抗手段を失ったリンゴ。


 リーダーの剣を地面に転がって回避するリンゴ。


 彼女は弾かれた杖を拾おうとするが、寸前で再びナイフが飛来する。


『拾わせるかよ!』


 的確な投擲で地面の杖を遠くへ弾いた髭の男。

 無防備な少女の背後には、地面から抜け出た大男が迫りくる。


『くたばれッ!』


 彼の攻撃をかわしつつ、地面のナイフを拾うリンゴ。

 避けながら地面をその刃でガリっとひっかいた彼女は、離れて猫のように腰をかがめる。


『まんまと俺達の連携にハマったな』


「…………っ」


「何も言い返す余裕は無ェか? ならこっちから行くぞ!」


 威勢よく声を荒げ、襲いかかる三人。

 リンゴは魔術を使わず、逃げの一手で猛攻をしのぐ


 地面を這って跳ぶように避け、ナイフで地面を削っていく

 しかし彼女の体力は、これまでの活躍と追い詰められた窮地が重なり、確実に消耗していた。


「ハァ、ハァ……ッ!」


『もうへばっちまったのかぁ? さっきまでの威勢はどうしたよォ!』


 調子づいて男達が振り下ろす武器を、ギリギリの意識で回避していく。

 その間も彼女は、隙をついて地面に文様を刻み込みつつ、どこかへ消えた杖を探す。


「一体どこに……!」


『探してるヒマなんてねーぞ!』


 巨大な斧を振り上げる大男から、飛びこむような恰好で逃げる。

 だが彼女の回避地点を把握していた髭男が、ナイフを投擲して彼女の服を射抜き、地面に縛り付ける。


『隙だらけだッ!』


 驚いているヒマもなく、リンゴに剣を振り下ろすリーダー。


 悔しげな顔でナイフを前に掲げ、杖代わりに魔術を使おうとするが、一手遅い。

 青ざめた彼女の顔にみるみる長剣が迫る、その時だった。


「『マグネティック・フィールド』」


 どこからともなく、魔術を詠唱する女性の声が響く。

 瞬間、彼等の持っていた武器が、強烈な力に引き寄せられる。


『な、何だ! うわっ!?』


 驚きのあまり剣を手放すリーダー。

 それだけではなく、残る二人の武器や地面に転がる鉄製のアイテムまでもが、ある一点を目指して吸われていく。


 奇妙な状況に助けられたリンゴは、思わず地面から顔を上げると、そこにいた人物に驚く。


「あなたは……!」


「また会うなんて奇遇だね。会いたくなかった連中もいるけど」


 リンゴに歩み寄りつつ、魔法使い――モノは、牽制するようにリーダー達を睨む。


 手に吸い寄せられた武器の塊は、崩れるように地面に落ち、残骸となった鉄の道が作られていく。

 その中から出てきた手には、リンゴの短杖が握られていた。


 リンゴの前に立ったモノはしゃがみ込み、ナイフを抜いて彼女の腕を抱き、立ちあがらせる。

 予想だにしない人物の登場に、リーダーは眉を顰める。


『なんでてめえがここに……』


「用が終わって後は待つだけになったから、軽く漫遊旅行してたんだけど、アンタ等はまだ悪人やってたんだ」


『誰のせいでなったと思ってんだ!』


「アンタ等の気質でしょ? まさかここまで自分でやって、私やハリスのせいにはしないよね?」


『う、うるせえぇぇッッッ!』


 武器は無くなったものの、強化された身体能力で、野犬のように襲いかかるリーダー。

 対してモノは担いでいた大きな杖を取り、振り上げる。


「『マグネティック・フィールド・アンチ』」


 直後、呆気なく弾きとばされるリーダーの身体。

 彼女の使う魔術を見て、リンゴは驚愕する。


「磁力魔術を、実戦で!?」


「鍛えたからね」


 振り向きざまにドヤ顔で答えるモノ。

 彼女はふと足元に目をやり、リンゴが地面に刻んでいた紋様を見る。


「なるほど、そういうことね」


 リンゴの意図に気づき、彼女の杖を見つめるモノ。


 続けて視線を自身の大きな杖に移した彼女は……なぜかそちらをリンゴに手渡した。


「こ、こっちじゃなくて、私の杖を」


「大丈夫。アンタの目的はだいたいわかってるから」


 彼女の策を理解し、誇らしげな顔をするモノ。

 彼女達の会話に痺れを切らしたリーダーは、仲間と周囲のゾンビに叫ぶ。


『いくぞテメェら!』


 煽る声と共に、みたび襲いかかるゾンビ達。

 恐ろしい彼等をチラリと見たモノは、表情を出さずに告げる。


「はーぁ、ワンパターンだこと」


 それだけ言って、モノはリンゴの腕を取る。

 彼女は四方八方から襲いくるゾンビ達を抜けるように回避しつつ、途中で地面を足でガリッと削り、一本の線を引く。


「これでいいんだよね」


「――はいっ!」


 紋様が淡く光を放つなか、簡潔に言葉を交わす二人。

 直後、二人はゾンビの間を縫い、モノが手を引く形で空中へ跳び上がり、詠唱する。


「――『サンクチュアリ』」


 刹那、地面を割き、光が足元からゾンビを包む。

 地面に刻んでいた紋様は『サンクチュアリ』のものだった。


『ぎゃあああああぁぁぁあああッッッ!?』


『い、痛えぇぇぇえええぇッッ!?』


 光に焼かれ、浄化されるならず者たちが叫ぶ。

 モノとリンゴは魔法陣の外に離脱し、彼等を観察する。


「あー、やっぱり書いた人と詠唱した人が違うと、無いはずの痛みも出ちゃうか」


「彼等にはいい教育になるかと」


「そうかな……というか、よく魔法陣の形状を覚えてたね」


「こういう事もあるかと、対策しておいたのです」


 ふう、と一息ついて、二人は会話を交わす。

 彼女達の目の前では、光に焼かれた悪漢たちが、ゾンビから元の姿に戻って次々に倒れていく。


 こうして彼女達の付近にいたゾンビは、ほぼ一掃された……はずだったのだが。


『またテメェらは、俺達の邪魔すんのか……ッ!』


「うわ、しぶといな」


 清める光に当てられながら、ゾンビの中でリーダーのみが立ちあがる。

 彼は近くに転がっていた剣を拾い、二人の元へ走りだす。


『クソがああああぁぁぁッッ!』


 しかし攻撃は簡単に避けられ……すかさず繰り出したモノの前蹴りが彼の腹部に命中し、再び魔法陣の中へ戻された。


『ふぐっ!?』


「ダメでしょ、ちゃんと治さないと」


 皮肉めいた声で語り、冷たい目で彼を見下ろすモノ。

 その顔を覗き込むリンゴに、彼女は告げる。


「魔術の維持は私がやるから、アンタもあのドラゴンのとこに行ってあげなよ」


「で、でも、私はこの場所を任された身で……」


「そのバトンは私が引き継ぐから」


 リンゴを見下ろし、彼女はウインクして答える。

 そのままモノは視線を上げ、手渡した自身の杖を見て語る。


「それには魔力を増幅する力がある。操作は少し難しいけど、今のアンタには必要でしょ?」


 杖の持つリンゴは、首を小さく縦に振る。

 するとモノは優しい声で「持って行きな」とつぶやいた。


「……ありがとうございます」


「いいって。仲間は大切にしなよ?」


 はい! と答えたリンゴは、彼女を信頼して世界樹へ駆けだす。

 その背を笑顔で見送り、ならず者の焼かれる光へ視線を戻す彼女。


 周囲では彼女達の活躍で優勢になった冒険者と回収部隊の者たちが、光の中を覗き込む。


『クソッ……許さねぇ、許さねぇぞ……!』


「あ、まだ反省してない。火力増そ」


『ぎゃああああっっっ!?』


 輝きを増す光は、彼等と決別したモノの、心の清々しさを現しているかのようだった……。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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