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ドラゴン娘、過去を語る

 レナに誘われ、世界樹の裏へ訪れたハリス達。

 日が傾いて夕刻の兆しが訪れる中、彼等は地面から突き出た太い木の根に腰かける。


「どうやってファブニルを倒し、封印されるまでに至ったのか、教えてください」


 本調子には程遠いリンゴがレナに尋ねる。

 並んで座るハリスもまた、彼女に強く願いかける。


「俺も知りたい。いくら聞いたことのある過去でも、本人から聞くのとでは全く違うからな」


「あんまり絡みないけど、あたしにも教えて欲しいな」


 たたみかけるようにポーラも続く。


 三人から詰められ、参った表情をレナは浮かべる。

 それでも頼みを無下にできず、彼女は口を開く。


「そうですね……どこから話しましょうか」


 レナは口元に手を当て考え込み、まずはボソリと呟く。


「私たちが戦ったあの黄金の龍……ファブニルも、かつては話の通じる仲間だったのです」


「そ、そうなの? あたしてっきり、元から敵かと」


「いいえ。彼女は別世界からこの地に流れ着いた私を、一切のためらいなく迎え入れてくれた、私の恩人でもあるのです」


 前置きに関係性を語ったレナは、ゆっくり空を見上げると、苦々しい過去を思い出す。



 ――それは千年以上前。

 人類の文明が、今以上に発展していた過去。


 レナの恩人であるファブニルと、彼女が率いるドラゴン達は、突如人類に牙を剥いた。


 各主要都市を破壊しながら、世界中を飛び回るファブニルたち。

 雲の上を飛行するドラゴンの大編隊だが、突如その背後から橙色の光線が放たれ、一部の小型ドラゴンが撃墜されていく。


『……来ましたね、レナ』


 澄みきった少女の声でつぶやくファブニル。

 振り向く先には、『レナーズベルグ』と呼ばれ畏敬されていた頃の暗黒龍が、橙色の瞳を怒らせて彼女たちに迫っていた。


 後ろ目に彼女を視認したファブニルは、仲間とともに急降下する。

 レナもドラゴン達を追い、眼下の雲を突き抜ける。


 雲の下に広がる大地は、一面が分厚い雪に覆われた雪原だった。


 黒龍を迎え撃つため、ファブニルたちは地上に降り立つ。

 そこへレナは、風を切り裂いて急降下していく。


『グオオォォォォォオオォオォォォッッッ!』


 咆哮が大地を震わせ、突進が隕石の衝突を思わせる衝撃を生む。

 正面からレナを受け入れたファブニルも、彼女を取り巻くドラゴン達も、まとめて吹き飛ばされていく。


『この程度の衝撃で、沈黙するほど脆くはなかろう。我が友たちよ』


 威厳ある声を響かせ、雪の中を睨みつけるレナ。

 彼女の視線の先に、巨大な龍の影が浮かぶ。


 シルエットの正体であるファブニルが対峙すると、同時にレナを囲むように、大小様々な龍が姿を現す。


『何という殺気……同じ龍とは思えん……!』


『怖気づくな! 例え強大な者とて、彼女は単身だ!』


 ファブニル以外の龍たちは、彼女の威容に恐怖する。

 そんな彼等をレナは一睨みし、裂けたような巨大な口を開く。


『貴様等はなぜ人を襲う?』


『ファブニル様……龍皇りゅうおうの、絶対のご意思だ!』


『それは構わぬが、理由を考えんのか?』


『そ、それは……』


 レナに論じられ、押し黙るドラゴン達。

 その一方的な圧を破るように、ファブニルが告げる。


『阻害しているのではありません。ヒトを守るためには、こうするしかないのです』


『守る……?』


 黒龍がファブニルの言葉に反応する。

 睨みつける視線から守るように、ドラゴン達は金色の龍の前に出て、レナの視線をさえぎる。


 しかしファブニルは彼等を押しのけ、優しく告げる。


『皆さんは逃げてください』


『し、しかし龍皇様は!』


『私は残ります。確かめたいことがありますので』


 悲しげにも聞こえる声で告げるファブニル。

 彼女の命令に応じ、ドラゴン達は飛び立つ。


 どこにいくともなく、空高く飛んでいく無数の龍。

 雪中に取り残されたのは、ファブニルとレナだけになった。


 ――そうして彼女達は、示し合わせたかのように衝突する。


『無為に命を奪う必要も無かろう』


『私とて、彼等を殺したくはないのです』


『わからぬ……私には貴様の考えが理解できぬ』


 レナの振り払った尻尾の一撃が、ファブニルの肉体をはじき飛ばす。


 強烈な一撃に、金色の肉体の一部が損傷する。

 しかし重傷に見えるその傷も、みるみる回復していく。


『……そうですよね、ごめんなさい』


 ふらりと立ちあがり、言葉をもらすファブニル。

 優しい声と裏腹に、彼女は地面を蹴り突進を仕掛ける。


 渾身の一撃を全身で受け止め、傷一つつかないレナ。

 激しい肉弾戦の中、ファブニルは続ける。


『異界より流れ着いたあなたには、この世界の未来を話さずにここまで来ました』


『未来……貴様のよく言う予知か』


『私の身に宿った力の一つです』


 会話をしながらぶつかり合い、拮抗する二つの巨影。

 レナは手加減をしているが、ファブニルは全力である。


『これより千と余年先、九つの首を持つ龍が現れ、人類の存亡にかかわる危機をもたらします』


 表情に苦悶を浮かべつつ、ファブニルは訴えかける。

 途方もないような彼女の話にレナは耳を貸す。


『破滅を回避するには、脅威から耐えられる知恵がなければいけない』


『それと文明の破壊に何の関連がある? 貴様の話と行動は、まるで真逆ではないか』


 しかし直後、反論したレナはハッと気づく。


『まさか貴様自身が、人々の脅威になるというのか?』


『はい。私で慣れてもらおうかと』


 彼女の指摘に、ファブニルは蛇のような顔を微笑ませる。

 目の当たりにする不器用さに、レナは歯を食いしばる。


『自分を悪役にしてまで、人の未来を守る価値などあるのか?』


『はい。私は人間が大好きですから。あなたも人間を守るために私を止めに来たのでしょう?』


『私は人を守りたいのではない、貴様の名を汚してほしくないだけなのだ』


『……ありがとう、レナ』


 ファブニルは暖かな声で告げ、力を弱めた彼女の隙をつく。

 一気にレナを押し返し、翼を大きく広げる。


『しかし私の意思は変わりません。今の人々なら、生き延びることができるかもしれない』


『近頃あちこちに生えている大きな木か!』


『どうやら〝世界樹〟と呼ぶらしいですよ』


 ギリギリと力を加え、ファブニルはレナを押し倒していく。

 制止する彼女を振り切り、飛び立とうとする彼女。


 その目的は、人々の造った防護が正常に機能しているか試すこと。

 ふたたび悪役を買って出ようと、ファブニルが飛び立とうとした時だった。


『させぬぞ、友よ』


 覚悟を決めたレナが、ファブニルを押し返す。


 力を突然取り戻したレナに、ファブニルは成す術なく圧される。

 爛々と彼女を睨む橙色の瞳が、強く訴えかける。


『私は貴様ほど、人に執着はしていない』


『なにをなされるつもりですか?』


『貴様の代わりに試してやる、人類の強固さを』


 レナの口から紫色の炎があふれる。

 初めて見る彼女の様子に、恐怖するファブニル。


 そのままレナは目を細め、眼前に立つファブニルへ告げる。


『罪は私が全て背負おう……貴様の命と共に』


 翼をはためかせ、大きく飛翔したレナ。

 彼女の意思を理解し、空を見上げるファブニル。


 だがレナは、彼女を見下ろして告げる。


『――今は安らかに眠れ、我が友よ』


 瞬間、レナの口から放たれた紫炎は、雪面ごとファブニルを焼き焦がした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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