ドラゴン娘、過去を語る
レナに誘われ、世界樹の裏へ訪れたハリス達。
日が傾いて夕刻の兆しが訪れる中、彼等は地面から突き出た太い木の根に腰かける。
「どうやってファブニルを倒し、封印されるまでに至ったのか、教えてください」
本調子には程遠いリンゴがレナに尋ねる。
並んで座るハリスもまた、彼女に強く願いかける。
「俺も知りたい。いくら聞いたことのある過去でも、本人から聞くのとでは全く違うからな」
「あんまり絡みないけど、あたしにも教えて欲しいな」
たたみかけるようにポーラも続く。
三人から詰められ、参った表情をレナは浮かべる。
それでも頼みを無下にできず、彼女は口を開く。
「そうですね……どこから話しましょうか」
レナは口元に手を当て考え込み、まずはボソリと呟く。
「私たちが戦ったあの黄金の龍……ファブニルも、かつては話の通じる仲間だったのです」
「そ、そうなの? あたしてっきり、元から敵かと」
「いいえ。彼女は別世界からこの地に流れ着いた私を、一切のためらいなく迎え入れてくれた、私の恩人でもあるのです」
前置きに関係性を語ったレナは、ゆっくり空を見上げると、苦々しい過去を思い出す。
*
――それは千年以上前。
人類の文明が、今以上に発展していた過去。
レナの恩人であるファブニルと、彼女が率いるドラゴン達は、突如人類に牙を剥いた。
各主要都市を破壊しながら、世界中を飛び回るファブニルたち。
雲の上を飛行するドラゴンの大編隊だが、突如その背後から橙色の光線が放たれ、一部の小型ドラゴンが撃墜されていく。
『……来ましたね、レナ』
澄みきった少女の声でつぶやくファブニル。
振り向く先には、『レナーズベルグ』と呼ばれ畏敬されていた頃の暗黒龍が、橙色の瞳を怒らせて彼女たちに迫っていた。
後ろ目に彼女を視認したファブニルは、仲間とともに急降下する。
レナもドラゴン達を追い、眼下の雲を突き抜ける。
雲の下に広がる大地は、一面が分厚い雪に覆われた雪原だった。
黒龍を迎え撃つため、ファブニルたちは地上に降り立つ。
そこへレナは、風を切り裂いて急降下していく。
『グオオォォォォォオオォオォォォッッッ!』
咆哮が大地を震わせ、突進が隕石の衝突を思わせる衝撃を生む。
正面からレナを受け入れたファブニルも、彼女を取り巻くドラゴン達も、まとめて吹き飛ばされていく。
『この程度の衝撃で、沈黙するほど脆くはなかろう。我が友たちよ』
威厳ある声を響かせ、雪の中を睨みつけるレナ。
彼女の視線の先に、巨大な龍の影が浮かぶ。
シルエットの正体であるファブニルが対峙すると、同時にレナを囲むように、大小様々な龍が姿を現す。
『何という殺気……同じ龍とは思えん……!』
『怖気づくな! 例え強大な者とて、彼女は単身だ!』
ファブニル以外の龍たちは、彼女の威容に恐怖する。
そんな彼等をレナは一睨みし、裂けたような巨大な口を開く。
『貴様等はなぜ人を襲う?』
『ファブニル様……龍皇の、絶対のご意思だ!』
『それは構わぬが、理由を考えんのか?』
『そ、それは……』
レナに論じられ、押し黙るドラゴン達。
その一方的な圧を破るように、ファブニルが告げる。
『阻害しているのではありません。ヒトを守るためには、こうするしかないのです』
『守る……?』
黒龍がファブニルの言葉に反応する。
睨みつける視線から守るように、ドラゴン達は金色の龍の前に出て、レナの視線をさえぎる。
しかしファブニルは彼等を押しのけ、優しく告げる。
『皆さんは逃げてください』
『し、しかし龍皇様は!』
『私は残ります。確かめたいことがありますので』
悲しげにも聞こえる声で告げるファブニル。
彼女の命令に応じ、ドラゴン達は飛び立つ。
どこにいくともなく、空高く飛んでいく無数の龍。
雪中に取り残されたのは、ファブニルとレナだけになった。
――そうして彼女達は、示し合わせたかのように衝突する。
『無為に命を奪う必要も無かろう』
『私とて、彼等を殺したくはないのです』
『わからぬ……私には貴様の考えが理解できぬ』
レナの振り払った尻尾の一撃が、ファブニルの肉体をはじき飛ばす。
強烈な一撃に、金色の肉体の一部が損傷する。
しかし重傷に見えるその傷も、みるみる回復していく。
『……そうですよね、ごめんなさい』
ふらりと立ちあがり、言葉をもらすファブニル。
優しい声と裏腹に、彼女は地面を蹴り突進を仕掛ける。
渾身の一撃を全身で受け止め、傷一つつかないレナ。
激しい肉弾戦の中、ファブニルは続ける。
『異界より流れ着いたあなたには、この世界の未来を話さずにここまで来ました』
『未来……貴様のよく言う予知か』
『私の身に宿った力の一つです』
会話をしながらぶつかり合い、拮抗する二つの巨影。
レナは手加減をしているが、ファブニルは全力である。
『これより千と余年先、九つの首を持つ龍が現れ、人類の存亡にかかわる危機をもたらします』
表情に苦悶を浮かべつつ、ファブニルは訴えかける。
途方もないような彼女の話にレナは耳を貸す。
『破滅を回避するには、脅威から耐えられる知恵がなければいけない』
『それと文明の破壊に何の関連がある? 貴様の話と行動は、まるで真逆ではないか』
しかし直後、反論したレナはハッと気づく。
『まさか貴様自身が、人々の脅威になるというのか?』
『はい。私で慣れてもらおうかと』
彼女の指摘に、ファブニルは蛇のような顔を微笑ませる。
目の当たりにする不器用さに、レナは歯を食いしばる。
『自分を悪役にしてまで、人の未来を守る価値などあるのか?』
『はい。私は人間が大好きですから。あなたも人間を守るために私を止めに来たのでしょう?』
『私は人を守りたいのではない、貴様の名を汚してほしくないだけなのだ』
『……ありがとう、レナ』
ファブニルは暖かな声で告げ、力を弱めた彼女の隙をつく。
一気にレナを押し返し、翼を大きく広げる。
『しかし私の意思は変わりません。今の人々なら、生き延びることができるかもしれない』
『近頃あちこちに生えている大きな木か!』
『どうやら〝世界樹〟と呼ぶらしいですよ』
ギリギリと力を加え、ファブニルはレナを押し倒していく。
制止する彼女を振り切り、飛び立とうとする彼女。
その目的は、人々の造った防護が正常に機能しているか試すこと。
ふたたび悪役を買って出ようと、ファブニルが飛び立とうとした時だった。
『させぬぞ、友よ』
覚悟を決めたレナが、ファブニルを押し返す。
力を突然取り戻したレナに、ファブニルは成す術なく圧される。
爛々と彼女を睨む橙色の瞳が、強く訴えかける。
『私は貴様ほど、人に執着はしていない』
『なにをなされるつもりですか?』
『貴様の代わりに試してやる、人類の強固さを』
レナの口から紫色の炎があふれる。
初めて見る彼女の様子に、恐怖するファブニル。
そのままレナは目を細め、眼前に立つファブニルへ告げる。
『罪は私が全て背負おう……貴様の命と共に』
翼をはためかせ、大きく飛翔したレナ。
彼女の意思を理解し、空を見上げるファブニル。
だがレナは、彼女を見下ろして告げる。
『――今は安らかに眠れ、我が友よ』
瞬間、レナの口から放たれた紫炎は、雪面ごとファブニルを焼き焦がした。
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