モンスターテイマー、一度目の防衛を終えて
ハリス達にあっさり敗走し、逃げたリーダーたち。
彼等は何もない草原の中心で、レナの猛攻から命からがら逃げだし、地面に倒れ込んで息を切らしていた。
周囲には同じく肩で息をするならず者たち。
そこにいる者たちはみな、初めて経験した次元の違う強さに絶望していた。
「なんだったんだよ、あの女……!」
「ツノもハネもシッポも生えてたけど、あんなに強い魔族なんか知らねーぞ畜生ッ!」
怒りかトラウマか、感情のまま叫ぶ筋骨隆々の男。
彼の言葉は、リーダー達にも痛いほどよくわかった。
自分たちのおこなった選択に、すでに後悔を始めているリーダー達。
彼と同じように膝をついた大男は、同じく倒れ込む髭男にも聞こえるように語る。
「何でこんなコトになっちまったんだ、オレ達は」
「知らねーよ、全部アイツ等のせいだ。ハリスにモノ……アイツ等がイキらなきゃ、俺等はこんなことには……」
暮れがかる空を見上げ、拳を握りしめる髭の男。
彼の言葉に同調するように、リーダーも地に伏して歯ぎしりする。
この期に及んで自分たちの悪性を棚に上げ、利用することにすら失敗したかつての仲間たちに唾を吐く彼等。
そんな地を這う三人の前に、ブーツを履いた細い足が立つ。
「お疲れ様、みんないい戦いだったよ!」
溌剌に語るヴァイスの顔を、リーダー達は地面から見上げる。
憂鬱な男たちと違い、彼女は表情をキラキラさせていた。
自分たちを率いる少女の、あまりに不気味な明るさに、ついて来た彼等は背筋を凍らせる。
だがそこから沈黙は始まらず、一人の男が口を開く。
「何なんだよアイツ等! バケモノじゃねーか!」
「えー、人間だよ。一人除いて」
「あの魔族の女だろ!? アイツが一番イカれてんだよ!」
大所帯にも関わらず、たった一人の少女に敗北した男たちは、口を揃えてレナの異常な強さを叫ぶ。
しかしヴァイスは、それを当然のような顔で聞いては返す。
「まあ、魔族ですらないからね。君たちはあの怪物相手によくやったよ」
全てを見通したような顔で、ヴァイスは流し目気味に彼等を見下ろす。
彼女の瞳は楽しそうに爛々としながらも、他者を人間とも思っていないような、冷ややかなものを目の奥に潜ませていた。
リーダーたちは、そんな視線の意味に気付くはずもない。
彼等がきょとんとしていると、少女は視線を上げて告げる。
「四日以内にもう一度攻め込もうと思う。今回の戦いでイロイロわかったからね」
「わかったって、あのバケモノ女とまた戦うのか?」
頭を上げたリーダーが、ヴァイスに尋ねる。
すると彼女はニタッと笑い、他の皆にも聞こえるように告げる。
「あの子と何人かの主戦力には別の対策を打つ。君らの相手は、他の冒険者たちだ」
前日までの無策な彼女と違い、抑揚をおさえた知的な口調で語る計画に、ならず者達は耳を傾ける。
その話の最後に、ヴァイスは彼等に提案する。
「ところで君たち、もしてっとり早く、今より強くなれるとしたらどうする?」
「そんなの、手ェ出すに決まってんだろ」
質問に即答する大男。
彼の答えをヴァイスは聞くと、嬉しそうな反応を見せる。
他の男たちも、おおむね反応は変わらず、力は欲しいと口々に語る。
するとヴァイスは手を叩いて彼等を一度黙らせ、一言語る。
「じゃあさぁ……みんな、ゾンビになろっか」
彼女がそう言った瞬間、地面から青ざめた腕が一斉に突き出し、彼等の足を掴んだ。
*
一方そのころ、ヴァイス達の侵攻を退けた世界樹の町のいつもの酒場は、これまでにない大宴会が繰り広げられていた。
勝利に酒を飲み交わし、酔いどれる冒険者たち。
マスターは満足そうな表情で、怒涛に来る注文を受ける。
代わりにフロアでは、研究員とレナがウエイターとして彼の手伝いに名乗り出て、一緒に忙しない仕事を捌いていく。
そんな中、酒場の扉が開き、外からハリスが入ってきた。
「おかえりなさいませ、ハリス様」
「ただいまレナ、こういう仕事もたまにはどうだ?」
「良い経験です。楽しませていただいております」
頭を下げるレナに、口元を緩ませるハリス。
主戦力として活躍した彼に、周囲の冒険者たちは、木のジョッキを片手に酔っ払って絡んでくる。
マスターはそれを見ると、カウンター内から注意を促す。
助けられたハリスは彼に感謝し、言葉をなげる。
「俺も手伝おうか?」
「嬉しい提案だが、キミのメイドが大活躍しているおかげで大丈夫だ」
「……私も手伝っているのだが?」
マスターをカウンター越しに睨み、不満そうな顔をする研究員。
苦笑いを浮かべたマスターだが、調子は崩さずハリスに語る。
「キミは早く上に行ってあげてくれたまえ」
「同感ですハリス様、ここは私にお任せを」
「ありがとう二人とも」
感謝の言葉を告げた彼は、小脇に外から持ちこんだ袋をかかえ、酒場の階段を登っていく。
少しずつ喧騒から離れ二階につくと、ちょうど彼等の拠点である部屋から、ポーラが出てくる姿があった。
彼女はハリスを見つけると、登ってきた彼に歩み寄る。
「ちょうどよかった、交代してくれる?」
「ああ、そのために来たからな。リンゴの調子はどうだ?」
「意識ははっきりしてるし、熱は少し引いてきた。頑張りすぎちゃったかな?」
「……そうか、良かった」
胸を撫で下ろし、ほっと一息つくハリス。
彼の心配を目にしたポーラは、どこかあたたかな気持ちになり、優しくその様子を見つめる。
少し間を置き、ハリスがもう一度背筋を伸ばすと、彼女を見上げて告げる。
「ずいぶんと世話を焼いてくれるな、やっぱり弟子への愛着か?」
「あ、やっぱ気づいてた? あたしがあの子に色々教えてたの」
「二人の雰囲気を見ていれば、な」
呆れたように答えるハリスに、ポーラは恥ずかし気に顔を伏せる。
だが彼女の表情は誇らしげでもあり、すぐに再びハリスを見る。
ポーラは彼の質問に、小さく唸って考えると、ゆっくりと回答を述べる。
「羨ましかった、かな。血のつながりも無いのに、少し家族みたいで」
「……家族、か」
ポーラの言葉に、ハリスはマスターとの会話を思い出す。
侵攻前夜、壁を見に来た彼等を、マスターは兄妹のようだと評価した。
ハリスは未だ、その言葉がピンと来ていない。
しかし彼は、マスターと同じ評価をした彼女の顔に浮かぶ影を見て、思わず口を開く。
「家族に、何かあったのか?」
「……ううん、今も元気でやってると思う。ただ昔から戦ってきたから、あんまり家族との思い出がないだけ」
弱音を吐くように、あっさりと答えるポーラ。
軽薄そうに見えてどこか壁のあった彼女だが、それも一つの旅の中でやわらぎ、このような話も打ち明けられるようになっていた。
しかし彼女は、自分の告げた言葉に気づくと、ハッとして首を横に振る。
「って、何の話してんだあたし……ごめん!」
「別に構わない。俺達ももう仲間だろう?」
「確かにそうだけど、キャラじゃないというか……ホント、ごめん」
一つの癖になった謝罪を繰りかえすポーラ。
何かを抱えているとハリスは気付きつつ、今はその謝罪を受け入れる。
僅かな沈黙のあと、ポーラは気まずくなったのか、口角を無理やり上げながらハリスに告げる。
「そ、それじゃああたし、とった宿に帰るから。リンゴちゃんのことはよろしく!」
「ああ、また明日な」
「……うん、明日」
返事をし、階段を駆け下りていくポーラ。
彼女の背中を見送ったハリスは、呆れ混じりの溜息をつく。
そのまま彼は、先ほどポーラの出てきた部屋のドアへ歩み寄る。
ハリスはそのノブを握ると、ゆっくりと開きながら室内に尋ねた。
「リンゴ、大丈夫か?」
「……あ、ハリスさん」
部屋の隅で布団にくるまったリンゴは、彼の声に気づくや否や、少し汗ばみ赤らんだ顔に安堵を浮かべるのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回は2月1日(月曜日)の投稿予定です。
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