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モンスターテイマーたち、悪の勇者をしりぞける

 世界樹の町は夜明けを迎え、さらに時間を置き、正午。

 ヴァイス率いる軍団は、草原に聳える壁を見上げる。


「こんな壁、前はなかったぞ……!?」


 町を知る元劣悪パーティのリーダーは、巨大な壁に息を飲む。

 当然ヴァイスも、世界樹の町が作り出した対策に、子供のように不満そうな顔をする。


「なんだよこれぇ……もうすこし楽できると思ったのに」


 引きつれる男たちと違い、あまり深刻に考えていない彼女。

 するとそんなヴァイスたちに、壁の方向から声が響く。


「なるほど、お前がポーラの追っている勇者か」


「お……? 誰だい、君は?」


 無邪気な声を上げ、ヴァイスは声のするほうを向く。

 そこにいるのは一組の男女の影。


 リーダーたちは彼等の姿を見て、歯を食いしばる。


「ハリスに、あの時のメイド……!」


「アイツら、またオレ達の邪魔をする気か!」


 苛立つ三人の方向を、ヴァイスはチラリと見る。

 薄く開かれ瞳は、心底どうでもよさそうな目をしていた。


 彼女はすぐに視線を前へ戻すと、とぼけた顔で口を開く。


「ボクの名前はヴァイス・オズワルド! って、君たちはどうやらボクの正体を知っているようだね?」


 しかしハリスとその隣に立つレナは、一切返答をしない。

 彼等の対応にますます不服な顔をする彼女は、幼稚に地団駄を踏む。


「むうぅぅぅ、なんだよ! 満を持して現れた敵役だよ!? 自己紹介を返さないにしても、ボクの企みくらい聞いてもいいじゃないか!」


 わめき散らすヴァイスだが、ハリスの対応は変わらない。

 彼等の瞳は鬼気迫る覇気を纏い、怒りを噛み殺す。


 彼等の脳裏に浮かぶのは、村での事件と、補給地の惨劇。

 湧き上がる激憤を飲み干したハリスは、満を持して口を開く。


「お前の企みなど微塵も興味はない。名前すら聞くつもりはなかった」


「……期待外れの反応だよ。でも、どうして?」


 ハリスの言葉に、ヴァイスは今までの口調を一変させる。

 雰囲気ごとほの暗く豹変させた彼女は、細めた目を妖しく輝かす。


「俺はお前がここに来るまでの二つの地で、何をしたのか知っている。だからこそ企みがどんなものであれ、幼稚な暴力の上にあることもわかる」


「ふうん。それじゃあ君たちは、ボクらをどうするつもり?」


「決まっているだろう……ここで倒す」


 リベイルケインを握り、彼女に向けるハリス。

 わかりやすい敵対心を受け、ニィっと口角を上げるヴァイス。


 彼女はハリスへ対抗するように、腰に巻いたポシェットから、ミイラになった巨大な肉片を取りだした。


「あれはファブニルの……!」


「へぇ、君はこれがわかるんだ」


 ミイラ肉をかかげたヴァイスは、一部を小さくちぎる。

 ほんのひと欠片の肉を手のひらに乗せた彼女は、軽くそれを握りつぶして粉末にすると、自分の立つ一帯にバッとばらまく。


 直後、その粉が種かのように、地面から大量のアンデッドが湧き出した。


「でも勘違いしないでね。君たちは二つの地と言ったけど、僕はそれよりずっと多くの町や村で、実験を重ねたのだからッ!」


 誇るように悪行を語り、ヴァイスは腕を前にだす。

 するとアンデッド達は一斉に防壁へ迫っていく。


 同時に彼女は周囲のならず者に、言葉を送る。


「彼等はアンデッドを倒せても、君たちを殺すことはできないはずだ」


「だろうな、見るからにいい子ちゃんばっかだ」


「アンデッドに混じって殴り込むといい。ボクの目的は世界樹だから、防壁の先にある町は君たちの好きにしていいよ」


 ヴァイスの提案を受け、舌なめずりする悪漢たち。

 彼等は防壁へ顔を向けると、一斉に走りだす。


 だがその時、アンデッド達と合流しようとした前方集団が、一斉に男達の後ろへ弾かれる。


「私の真横を、容易く通り過ぎることができると思うなよ?」


 ならず者たちの前に立ちはだかるのは、力を限定解除させたレナ。

 彼女の姿は以前と違い、翼も尾も格段に大きくなっている。


 レナが翼を大きく羽ばたかせると、ならず者はその風圧に耐え切れず、飛ばされるか立ち止まるかしかできない。

 ただのメイドと侮ったヴァイスは、彼女の力に目を剥く。


「はぁ!? なにあのコ!」


「俺の、最強のパートナーだ」


 横から聞こえる声に、ヴァイスは腰の剣を抜く。

 防御に近い剣撃は、リベイルケインの一撃をギリギリで弾き上げる。


 驚いた顔のまま攻撃方向を見ると、そこにはハリスの姿。


 彼はフェンリルとの戦闘で破損しなかったウルフェンの召喚符を使い、狼人のようなシルエットになる光を纏い、攻撃を仕掛ける。


「どうした、何か策はないのか?」


「無いよ! 物量で攻め込めばイケると思ってたのにぃ!」


 彼女は召喚符とシンクロで強化されたハリスと、互角の鍔迫り合いをする。

 拮抗の末に互いを弾き、距離をとったヴァイスは質問する。


「アンデッドはいいの? キミとあのメイドちゃんが僕等に構ってたら、防壁はがら空きだよ?」


「ああ、構わない」


 即答するハリスの背後で、防壁の周囲に白い光があふれだす。


「アンデッドの対策は、十分に行う猶予があった」


 何かを信頼するように、不敵に口角を上げるハリス。

 ――ちょうどその時、防壁の上に立つ多くの冒険者たちへ、監視塔のようになった場所へ立つマスターが叫ぶ。


「今だ! 魔術を起動しろ!」


 彼の声とともに、冒険者に混じる多くの魔術師が杖を振り上げる。


「「「『サンクチュアリ』!」」」


 瞬間、壁から放たれた光の波が、アンデッドの多くを消滅させていく。

 そこに続けて、マスターは更なる指示を出す。


「射手は射撃開始! 他の戦士達は投石と砲丸で牽制! 余裕ができるまで、白兵戦には出るな!」


 彼の指示で防壁の上から、矢、岩石、砲丸の雨が降り注ぐ。

 地上のアンデッドは対策できず、ことごとく殲滅させられていく。


「マジかよ! 本当にアンデッドを寄せ付けていないぞ!」


「まさか俺たちが『サンクチュアリ』なんて超高等魔術を使える日が来るとは……さすがリンゴちゃんだ……」


 自分たちの戦果に感動しつつ、冒険者は攻撃の手を止めない。


 最前線を防壁上からの攻撃に、ならず者たちをレナに止められたヴァイスは、ハリスと戦いながら唇を震わせる。


「てったーい! さすがに無策で勝てる相手じゃなーいっ!」


 彼女の指示に、ならず者は同調して踵をかえす。

 だが最前線の者たちは、レナに死なない程度でボロボロにされていく。


 腰を抜かしたリーダー達が真っ先に逃げ出し、他のならず者や指示を受けたアンデッドたちが身を引く中、ヴァイスは一人でハリスと戦う。

 そして彼女は最後っ屁のように、城壁へ手をかかげる。


「せめてあの見張り台にいる連中だけでも……!」


 ハリスを片手間に捌きながら、狙いを定めるヴァイス。

 余力に驚くハリスをよそに、彼女の手のひらに白い光が宿る。


「『ライトレイ』ッ!」


 放たれた光線が、やぐらに立つマスターへせまる。

 だがその背を守るように、リンゴが杖を構えて飛び出す。


「『ライトレイ』ッッッ!」


 リンゴの十八番である光線が、空中で交わる。

 ヴァイスの光線はすこし押し返されるが、威力はほぼ互角。


 そこで彼女不敵に顔を歪め、追加で唱える。


「『インフェルノ・ライトレイ』!」


 その瞬間、ヴァイスの光線は炎を帯び、倍近く太さを増す。

 一気に押し返される攻撃に、リンゴはじりじりと足を引きずる。


 だがそれでも、リンゴの闘志は消えていなかった。


「はあああああぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!」


 絶叫と共に、威力を絶大にさせるリンゴのライトレイ。

 一気にヴァイスは押し返され、彼女と戦闘していたハリスも、避難のために背後へ飛ぶ。


 当のヴァイスも負けを悟り、後ろへ転がって難を逃れようとする。

 だがそこへ、防壁から飛び出したポーラが、一跳びで彼女の頭上へ斬りかかる。


「だああぁッ!」


 とっさに剣を前へ構え、ポーラの攻撃を受け止めるヴァイス。

 何故か少しにやけ面のヴァイスに対し、彼女を睨むポーラの顔は、これまでにない怒りにつつまれていた。


「ヴァイス・オズワルド! 同じ勇者として、このポーラ・セージェルが貴女を討つ!」


「同じ勇者……なるほど、君がボクへの刺客ってわけか!」


 瞬く間に体制を立て直すヴァイスだが、周囲はポーラとハリス、レナの三点によって囲まれていた。


 特にレナは二人と違い、息を切らしてすらいない。

 まだ余力のある雰囲気を纏うヴァイスでも、自分の不利を悟る。


 しかし彼女は、そんなレナをじっと見て気づく。


「その翼に尻尾、角……なるほど、そういうコトね」


 次に彼女は、監視台に立つリンゴへと視線を向ける。

 遠く離れながらも、不気味な瞳に見つめられ、彼女は身震いする。


「ふぅん……攻略法、わかったかも」


 そう呟いたヴァイスは、顔をもう一度ポーラに向ける。

 同じ勇者の瞳が映すヴァイスの顔は、純粋に見えて、どこか歪な悪意が宿っていた。


「それじゃ、またこんど。四日以内には来るよ」


 次の瞬間、手を軽く振り上げたヴァイスの身体が、霞のようにゆらめく。


「逃がすかってのッ!」


 彼女へトドメを刺すように、ポーラは剣を振り下ろす。

 だがそこには既にヴァイスの本体はなく、彼女の姿によく似た霞が、斬撃に払われただけだった――。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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