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魔法少女、人々を救う

 大急ぎで補給地点の街に戻ったハリス達は、惨状に愕然とする。

 そこにはかつての賑わいも、穏やかさも残っていなかった。


 代わりにあるのは、ほぼ瓦礫がれきとなった人々の痕跡。


 そして全てを略奪された街に住んでいた……ここにしか居場所のなかった人々が、辛うじて寄り添い生きる姿だった。


「何なの、これ!?」


 あまりの悲惨さに空いた口が塞がらないポーラ。

 残る三人も、目の前の残酷すぎる景色に絶句する。


 呆然自失の状態で、ポーラは三人の前を先行して歩き、かつて街だった場所へ足を踏み入れていく。


 異様な視線にさらされるなか、ポーラの視線の先に、憲兵の制服を纏った男が通り過ぎた。


「あ、憲兵さん!」


 ポーラの声に振り向いた憲兵は、ゾンビでもアンデッドでもないが、まるで死人のように青ざめている。


 その憲兵は、リンゴの事件の際に協力した男だったのだ。

 安心して胸を撫で下ろしたポーラは、彼に駆け寄る。


「憲兵さん! あたしのこと覚えてるよね? ほら、あの子を助けた時に協力した!」


 少し離れた場所に立つリンゴを指差すポーラ。

 しかし憲兵はうつろで、彼女の話など入ってきていない。


 すると彼女はもう一押しと、勇者号を取り出して突き付ける。


「これ、見たことあるでしょ? あの時は助けてもらったけど、今度はあたしがあなたたちを――!」


 強く訴えかけるように、彼女は手助けを提案する。

 その言葉と勇者号を見た憲兵は……憤ったように、顔を赤くした。


 ハリスは二人のやり取りを見て、気づくと同時に叫ぶ。


「ポーラ! この街でお前の身分は!」


 彼がポーラへ手を伸ばした瞬間だった。

 憲兵は腰から量産品の鉄剣を抜き、振り下ろす。


「お前も、お前もこの街を壊しに来たのか!?」


「そ、そんな!? あたしは本当に!」


「黙れッ! 勇者などという名を借りた、怪物どもめがあぁぁぁッッ!」


 無防備なポーラに振り下ろされる鉄剣。

 普段の彼女であれば軽く避けられるが、憲兵の威圧感に気圧され、彼女は身動き一つとれない。


 それを救ったのは、ハリスの伸ばしたリベイルケインだった。

 彼女の体をからめた鞭は、ハリスのそばまで引き戻される。


 尋常ではない殺意を抱く彼に、四人は無抵抗を示す。


「落ち着いてくれ。俺たちはただ、この街を救いに来ただけなんだ」


「救いだと……!? お前達が滅ぼしておいて、この瓦礫の山に救いがあると思っているのか!?」


 説得は通用せず、憲兵は襲いかかる。

 だがそんな彼の凶行を、別の者の声が止めた。


「待て! その人たちは敵じゃない!」


 声に応じて、憲兵の手が止まる。

 彼が声に振りかえると同時に、四人もそちらへ目を向ける。


 そこにいるのは、攻撃した者とは別の憲兵と、もう一人。

 かつてリンゴを追放した男女パーティの、片割れの男であった。


「なぜあなたがここに……?」


「冒険者ライセンスを剥奪されてな、どうしようもなくてここで暮らそうと決めた」


 怪訝そうに尋ねるリンゴに、男は素直に答える。

 そこにかつてのような邪険さはなく、代わりに焦燥感が浮かんでいた。


 同じくやつれたもう一人の憲兵は、攻撃してきた憲兵を引き下げる。


「ハリスの一行であっているな?」


「ああ、ハリスは俺だが」


 呼ばれて彼が前に出ると、憲兵は男と目配せする。

 すると憲兵はハリスに何か、望みを託すように告げる。


「……ついて来てくれないか?」


 重々しく告げられる言葉に、四人は同時に頷いた。


 *


「これは……!?」


 仮設の避難所を見て、レナは愕然とする。

 そこには多くの傷病者や、恐怖によって怯える者がひしめき合っていた。


 四人が惨状に息を飲んでいると、男がせかすように案内する。


「こっちだ、来てくれ」


 声のままに、檻のように隔離された場所へ入る四人。

 そこには数こそ少ないが、さらなる傷病者がベッドへ横になっていた。


 彼等の手足は錠で固定されており、それを見たハリスは気付く。


「ゾンビの罹患者か」


「やっぱり知っているんだな、この症状も」


 言い当てた瞬間、男はすがりつくように語り、彼等を一つのベッドに誘導する。


 そこにいるのは……男の相方である、女冒険者。

 彼女の顔や腕には痛々しい傷が浮かび、そこからゾンビ特有の肉腫がボコボコと溢れ、苦しそうにうめき声をあげている。


「昨日の襲撃から、ずっとこのままなんだ」


 多くを語らずとも、おのずと何が起きたかはわかった。


 理性をむしばまれ苦しむ女を、一心に見つめる男。

 最後の望みとも言えるハリス達に出会った彼は、深々と頭を下げて告げる。


「なあ、助けられる方法はしらないか? 頼む、教えてくれっ!」


 必死の形相で声を張り頼みこむ男。

 演技ではない心からの叫びに、四人は圧倒されて返事が遅れる。


 すると男は、誠意が足りないと勘違いしたのか、地面に手のひらをついて床へ頭を撃ちつける。

 鈍い音を響かせながら、彼は尚も頼み続ける。


「あなた達には申し訳ない事をした! 今更罪を償えるとも思わない!」


「……………………」


「だから、頼む……! 他のどんな罰でも受けるし、どんな不幸でも背負うから、コイツだけは助けてくれ……っ!」


 神に乞うように、彼はハリス達へ祈ることをやめない。

 撃ちつけた額は赤く腫れ、小さく傷ができている。


 だがその時、女冒険者がすこし理性を取り戻し、男の肩を掴む。


「もういいよ、大丈夫」


「何を言ってるんだ、お前……」


「日頃のおこないが悪かったの。この子も傷つけちゃったし、いろんな人に迷惑かけて」


 揺れる瞳でリンゴを見ながら、女は懺悔ざんげを口にする。

 まるで最後の言葉を語るような彼女に、男も手を重ねる。


 彼の温もりを感じた女は、頬に涙を伝わせて告げる。


「だから、お願い。もう辛いから、私を――」


「それ以上、言わせませんよ」


 一部始終を見ていたリンゴが、鋭い剣幕とともに前へ出る。

 少女とは思えない覇気に、飛び退いて尻餅をつく男。


 リンゴは女冒険者の前に立つと、彼女の手を胸に抱かせ、抑揚のない声で告げる。


「死なせるものですか。今のあなたの言葉を、元気になったあなたが私にもう一度話すまで」


「ぇ……」


「腑抜けた声を上げないでください。今から私はあなたを……この場の全員を治します」


 噛みしめるように語る少女に、女冒険者はさらに落涙する。

 いっぽうでリンゴは感情的にならず、淡々と己のやることを語った。


 フェンリルの一件を経て、ゾンビへの対抗策を学んだ彼女は、アルミラージュ無しでも魔法陣さえあれば『サンクチュアリ』で治療ができる。


 自らが持つ力に、強い意志を宿した彼女は、一度ハリスへ頭を下げる。


「ごめんなさい、勝手なことをしてしまって」


「……いいんだ。それがお前の望んだことだろう?」


 今までリンゴを見守ってきたハリスが、感慨深く答える。

 同じく彼女の成長を共に見てきたレナは、どこか誇らしげに微笑む。


「立派になりましたね、リンゴ」


 彼女の笑みに、リンゴも優しく笑いかえす。

 そして一度顔を伏せると、再び真剣な表情になり、ポーラを見る。


「一刻を争います、魔法陣を書く手伝いを」


「……オッケー、任せな」


 ニッと口角をあげた彼女から、頼もしい返事が戻ってくる。


 ゾンビ化した傷病者を助けるため、二人による準備が始まる。

 今回はハリスとレナの協力もあって、凄まじい速度で進んでいく。


 人々を救うために必死になる彼らを、男や憲兵たちが見守る。


 すると先ほど四人を敵と誤認した憲兵が、ハリスに歩み寄って告げる。


「先程は無礼を働いてしまい、申し訳ない」


「気にするな。良かったら手伝ってくれ」


「ああ……」


 言われるがまま、彼等の準備を手伝う憲兵。

 彼は女冒険者を託した男のように、抱いていた希望を彼等にゆだねる。


「……あの勇者の目的は、世界樹に何かをすることだ」


「つまり、目的地は世界樹の町か」


「ああ。だが奴らは大所帯、歩きで町へ向かっている」


 彼はそこまで言うと、吐きだすように告げる。


「この裏に、まだ元気な馬が何頭か残っている。アイツ等を使って、町に先回りしてくれ。そして良ければ、この街に物資の運搬も頼む」


「……ああ、うけたまわった」


 憲兵に最後の希望を託されたハリスは、瞳を鋭く輝かせた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次回は明後日、1月23日の更新予定です。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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