劣悪パーティ、破滅へと踏みだす
ハリス達が伝説の地を立ったころ。
世界樹の町とその血を繋ぐ補給地点に、劣悪パーティの男たちはいた。
……正確に言えば、元劣悪パーティの面々である。
モノに離脱され、ハリスと交代で仲間になった男女にも縁を切られ、冒険者ライセンスすら剥奪された彼らは、市場の端でしゃがみ込んでくだをまく。
「ハァ……俺たち、どうなっちまうんだろうな……」
「知るかよ。もうその話……何回目かもわからねーわ」
髭の男と大男は、幾度となく同じ話をしては、ため息をつく。
その目はうつろで、かつてあったイキった覇気は一切ない。
彼等がうなだれていると、パーティを纏めていたリーダーが、苛立った足取りで二人の元まで歩いてくる。
男達はリーダーを見上げつつ、呆れた顔で告げる。
「よう、新しい仕事は見つかったか?」
するとリーダーは、充血させた瞳で彼等を睨み、地面を蹴って当たり散らす。
「見つかるわけねーだろ! どっかの用心棒になろうとしたって実力不足とか意味わかんねーこと言われるし、傭兵に申し込んでも返事はこねーしよォ!」
一しきり物に当たった彼は、その勢いで髭男の襟首を掴んで持ち上げる。
さすがにまずいと大男は彼を止めようとするが、髭の男は呟く。
「なあ……ひょっとして俺たちって、そんなに強くないんじゃねーかな?」
「何言ってんだ? ここまで来れたのは俺と、あとお前等の力のお陰で」
「だってよぉ、ハリスが抜けて一気に戦力落ちて、モノがいないと成り立たなくなったんだぜ? 後衛不足じゃ説明もつかないだろ」
虚ろな表情で髭の男は語る。
真実に気づいた彼は、冷静に状況を諦観していた。
だが一方で、リーダーはそれを受け入れず、拳を握って振り上げる。
その光景を見た大男は、声を上げて割って入る。
「待てよリーダー! さすがに暴力はおかしいだろ!」
くだらない喧嘩が始まり、ぐだぐだと現実逃避を繰り返す。
だがそのとき、彼等と全く関係のない市場の中から、悲鳴が響く。
「うわぁ! な、なんだよコイツ等!?」
喧嘩を始めかけた三人が、その声に手を止める。
すると騒ぎはみるみるうちに広がっていき、一帯はパニック状態になった。
逃げまどう人々は、口々に叫ぶ。
「憲兵さん! おかしな人たちが、突然!」
「アイツ等の肌の色、本当に生きた人間だったか!?」
「誰か助けてくれっ! 変なヤツに腕を噛まれた!」
巻き起こる大騒動に、劣悪パーティの面々は顔を合わせ、喧嘩をおさめる。
そうして彼等は各々の武器を握りしめ、野次馬気分で走りだす。
騒動の発端となった市場の中心につくと、彼等はその光景に驚く。
そこでは多くの人々が、血色の悪い人間のような何かに襲われていた。
目の前の光景にたじろぐ男達。
その中でも髭の男は、人を襲う者たちを見て気づく。
「なあ、コイツ等アンデッドじゃねーか?」
「アンデッド……? 見たことないからわからねーけど、そうなのか?」
「話に聞く特徴には似てるぜ? それに最近、この辺りの道でたまに出るって聞いたし」
大男が質問すると、髭の男は丁寧に解説して答える。
すると一体のアンデッドが、彼等の存在に気づいて歩み寄ってくる。
一見すると人間と何も変わらないモンスターに、攻撃をためらう大男。
だがその一方で、リーダーは剣を握りしめて呟く。
「なあ、本当にモンスターなら、別に殺してもいいんじゃね?」
放たれた言葉に、仲間である二人の男はリーダーを見る。
剣を握る彼の脳内は、モンスターを倒すためや人を助けるためではなく〝正当な理由で人を斬れる〟という好奇心が立ち込める。
そうしてリーダーは、自分の意見を正当化させるように、仲間たちへ説得する。
「ほら、みんな助けてっていってるしよ、助けてやらないと」
「そうかもしれないけど、俺たちも逃げたほうがいいと思うが」
「でも人間を斬れるなんて……じゃなくて元冒険者として、治安を守るのは悪いことじゃねーだろ」
必死に言葉を取り繕い、仲間達を巻き込もうとするリーダー。
やがて彼等の胸にも、溜め込んだ鬱憤を晴らしたいという欲望が膨れあがり、武器を握る力も強くなっていく。
その昂ぶりに合わせるように、襲いかかる一体のアンデッド。
瞬間、リーダーは剣を振り上げ、その体を両断した。
「……何だよ。他のモンスターと比べて、ずいぶん脆いじゃねーか」
地面に倒れるアンデッドを見て、吐き捨てるように告げるリーダー。
彼は口元をニタリと歪ませ、二人に呼びかける。
「さあ、冒険者として、街を救おうぜ?」
爛々と揺れる瞳が、邪悪に二人を誘い込む。
すると二人も頷いて、辺りにいるアンデッドを狩り始めた。
そこからは地獄だった。
街に放たれた大量のアンデッドに加え、劣悪パーティのような『ならず者』に近い人々が、好き勝手に暴れだす。
憲兵やまともな冒険者も対処に当たるが、暴れる者達は何を思ったのか、自分の獲物を奪うなと言わんばかりに彼等にも攻撃を仕掛ける。
さらにアンデッドに攻撃された者も、ゾンビと化して人々を襲う。
アンデッドを倒していた憲兵も、先程まで普通の人間だったゾンビには手を出せず、攻撃の手を止めてしまう。
「クソ……人々の避難を優先させろ! 戦うのはあとだ!」
苦渋の選択をする憲兵達。
彼等はまともな冒険者と共に、人々を街の避難場所へ誘導し始める。
その間に劣悪パーティを含む悪漢たちは、アンデッドもゾンビも関係なく片っ端から叩き斬り、ある意味で大活躍していく。
やがてそんな中、リーダーは一人の怯える男の前に立つ。
地面に尻餅をついた男の腕には、アンデッドに噛まれた傷跡。
歯型を見て狂喜しながら剣を振り上げるリーダーに、男は制止する。
「待ってくれ、まだ俺は正気だ! 殺さないでくれっ!」
「でももうお前がアンデッド……この場合はゾンビか。それになるのは変わらねぇんだ。残念だったな」
理由を押しつけられ、男に剣が振り下ろされる。
途端に彼の声は止み、リーダーは恍惚な笑みを浮かべる。
いつの間にか人々の避難は終わり、市場を中心とする一帯は、アンデッドとならず者たちだけが残る。
するとその時、手を叩く音と共に、少女の声が響く。
「よくやってくれた! すごいよみんな!」
彼女の声に応じるように、アンデッドの動きが止まる。
リーダーたちが声のする方向である市場の中心を見ると、そこには白い髪の少女が屈託のない笑顔で立っていた。
彼女は男たちに声をかけ、自分の元へ呼び寄せる。
「ガキがこんなところで何の用だ? 殺されてぇのか?」
「うーん、死にたくはないなあ。じゃあ先に自己紹介するね」
少女はそう言うと、懐から金色の勲章を取り出す。
リボンで飾られた『27』の数字が刻まれたそれを見て、劣悪パーティは表情を暗くする。
だがそんな彼らと相反するように、少女は明るい声色で告げる。
「ボクの名前はヴァイス・オズワルド、見てのとおり勇者だ!」
「勇者が俺たちに何の用だ?」
ポーラに植え付けられた偏見により、食って掛かるリーダー。
だがヴァイスは彼に微笑み、優しく答える。
「みんなにはテストをしたんだ。アンデッドを使って、勇気と力のある者を選抜するためにね」
「ってことは、コイツ等を操っているのはお前か?」
「うん! 手を叩けばまた動き出すし、それなりに指示も聞いてくれるんだ!」
頼れる仲間を紹介するように、アンデッドを紹介するヴァイス。
そのまま彼女は、男達を扇動するように語り始める。
「ボクは君たちのような勇敢な戦士を探していた! どうか僕に、力を貸してくれないかな? 報酬はお金でも新しい力でも、望むなら何でもあげる!」
ほがらかに語る彼女の言葉に、男たちはざわめきだす。
特に彼女へ興味を抱いたリーダーは、彼女に尋ねる。
「お前の目的は、一体何なんだ?」
リーダーの質問に、彼を気に入ったように目を輝かせたヴァイスは、胸を張って答える。
「ここから南に何日か歩いた場所に、世界樹の町があるだろう?」
「ああ、俺たちも行ったことがある」
「そうなんだ! 実はボクね――」
ヴァイスはそれから、あまりにも稚拙な理想を語る。
冗談のような彼女の目的に、ならず者たちはまるで、賛同するようにニヤリと笑った。
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