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モンスターテイマー、伝説の地を去り新たな戦いへ

 夜明けとともに、フェンリルは目を覚ます。

 安らかに眠っていた彼女の顔を、ハリス達と村人の全員がのぞき込んでいた。


「氷狼さまがお目覚めになられました!」


 一人が叫ぶと、村人たちは一斉に騒ぎだす。

 犬娘も移住者も関係なく、彼女の生還を望んでいるようである。


 そうしてハリスたちもまた、フェンリルに安堵の表情を向けている。

 銀狼は優しく微笑むと、村人たちへ声をかける。


『まったくうるさいねぇ。客人が静かにしているのに、アンタ達が騒いでどうするんだい?』


 その声に、移住者を中心とした一部の村人が驚く。

 だがそれすらすぐに受け入れ、彼らは大いに喜んだ。


 騒ぐ村人たちに囲まれながら、フェンリルはふと傷のあった腹を見る。


 その傷は完全に塞がってはいなかったが、軽い切り傷程度には修復し、かつての致命傷かどうかという傷からは圧倒的にマシになっていた。


 自身の治癒に驚いていると、ハリスがリンゴの背中を押す。

 一歩前に出たリンゴに、フェンリルは察して驚く。


『まさか、アンタがやったのかい?』


「は、はい……呪いを解いてくださったお礼といいますか……」


『アンタ、凄いね。こんなに丁寧な治癒魔術、私でも初めて見たよ』


 普段少しの嫌味を混ぜる彼女が、全幅で彼女を褒める。

 するとリンゴはいつものように恥ずかしがり、三角帽で自身の目元を隠した。


 リンゴの様子を見て、満足そうに立ち上がろうとするフェンリル。

 しかし彼女は、あまりの自分の重さにガクンと地面へ倒れる。


 フェンリルの様子に心配する村人たち。

 それもそのはず、彼女の魔力は枯渇寸前だったのだ。


『参ったね。これじゃ自分の飯も満足に狩れないじゃないか』


 神妙な面持ちで告げ、溜息をこぼすフェンリル。

 しかしその言葉を聞き、ダーニャがすぐに前へ出る。


「氷狼さまのご飯なら、私にお任せを」


『何言ってるんだい? アンタ、せっかく元の主人と会ったんだろう?』


 不思議そうに尋ねるフェンリル。

 すると彼女の前に、ハリスも一歩前に出る。


 そうして彼は、その場の全員の意見を代弁するように話す。


「フェンリルの体調を見て、この村の全員がアンタの回復を手伝いたいと言いだしてな。ダーニャもその一人だ」


『いいのかい? アンタ、主人なんだろう?』


「俺はどちらかと言えばついて来て欲しいのだがな。強制はしない」


 軽やかな口調で告げられる言葉に、銀狼はもう一度ダーニャを見る。

 彼女は満足げな表情をすると、ハリスから引き継いで語る。


「私は御主人の相棒ですが、この命は氷狼さまに頂いたもの。せめてもの礼は尽くさせていただきたいのです。それに……」


 溜めながら、彼女はレナを見る。


「今の御主人には、私も信頼できる相棒がいらっしゃりますから」


『……フン、そうかい。好きにするといいよ』


 ダーニャの言葉を聞き、目を伏せて腕を枕に眠ろうとするフェンリル。


 しかしそれは狸寝入りで、彼女は片目でちらりとレナを見る。

 そうしてハリスと同じように、レナへ念話で語りかける。


(お前さんも、ずいぶん数奇な運命をたどるねぇ。レナーズベルグ)


(良いだろう? 私の大切なご主人様だ)


(そうかい。じゃあお前さんの旅路が少し明るくなるように、私からも贈り物をしてあげるかね)


 それだけ言って、彼女は半分開けていた目を閉じる。

 次の瞬間、レナの全身に、とてつもない力がみなぎった。


 元の姿に戻りかけたが、彼女は何とかそれを抑える。

 これまで常に枯渇寸前であった魔力が、ほぼ完全に回復したことを知った彼女は、思わずフェンリルへ問う。


(どういうことだ? 貴様の魔力は無くなっていたのではないのか!?)


(この地に溜め込んでいた予備の魔力だよ。それを使えば確かに私も回復するが……まあたまには、ちやほやされるのも良いと思ってね)


 お茶目に告げるフェンリルの憎い恩返しに、レナは苦笑いする。

 彼女はすると、意趣返しするように語りかける。


(せっかくだ。貴様もこの娘たちと同じ姿になってみないか?)


(それはどういう……まさか、お前さんの変身術かい?)


(ああ。むかし教えて欲しがっていたであろう? 自分でも知らぬ術と)


(……そうだね。魔力の枯渇対策にも、教えてもらおうかね)


 提案を受け入れると、レナは彼女に秘術を伝える。

 術はそのままでは使用できないものだったが、フェンリルの腕からすれば、少し改造しただけで彼女と同じように使いこなせる代物だった。


 念話で感謝を告げ、再び眠ろうとするフェンリル。

 しかしその和やかなムードを、一人眉を顰めたポーラが引き裂く。


「フェンリル、もう少しいい?」


『見りゃわかるだろ、今から眠るところさね……手短に頼むよ』


 面倒くさそうに返答しつつも、フェンリルは申し出を受け入れる。

 するとポーラは、一から順を追って説明する。


「私はポーラ・セージェル。勇者号二十八号を賜った勇者です」


『勇者? ああ、人間の守護者かい。初めて見るね』


「……いえ、初めてではないはず」


 彼女は懐から自分の番号が刻印された勇者号を取りだす。

 フェンリルがそれを見ると、しばし固まり、表情に驚きと怒りを宿す。


 ポーラはそれを感じ取り、頭を下げて告げる。


「恐らく今回の一件、真犯人は私と同じ勇者……『ヴァイス・オズワルド』の仕業だと考えます。フェンリルを襲った者は、白髪の女性でしたか?」


『……そういうコトかい。ああ、そのとおりだよ』


 誠意を見せるポーラにフェンリルは悟り、怒りをおさめて答える。


 一連の事件の黒幕と、唯一顔を合わせ戦った銀狼。

 彼女はポーラの役割を何となく察すると、彼女に忠告する。


『あの女には気をつけたほうがいいよ。アレには大それた野望も、胸に秘めた信念もありゃしない』


「ではフェンリルは、どうしてこのような事件を起こしたと考えますか?」


『アンタもわかってんだろ? あの女は快楽狂、自分の愉楽のためなら、自分の命も惜しまない怪物さ』


 戦いを交えたフェンリルは、ヴァイスという勇者をまるで、同じモンスターを評価するように答える。


『確かに善性で動くには勇者として逸材なんだろうが……悪性を知り、しかもファブニルの力すら手に入れたアレは、もはや生きる災害だよ』


「最後に一つ。ヴァイスがどこに行ったか、知っていたりしますか?」


『わからないけど、見当はつくね』


 声を低くして答えるフェンリルに、耳をそばだてる四人。

 彼女は頭を持ち上げ、日の昇る方向を見ながら告げる。


『ここで力を試したのなら、次は近場の……もっと人の多い場所で試すだろうね』


 答えるフェンリルと、同じ方向を見る四人。

 するとハリスが、誰よりも早く気付き、目を見開く。


「補給地点の街……!」


「それだ!」


 ハッとして四人は気付き、目的地を定める。

 そうと決まれば早く、彼らは村を出る準備を始める。


 するとそんなハリスに、ダーニャが駆け寄り、何かを手渡す。


「お守りとして。御主人の未来がよくありますように」


 彼女が手渡したのは、フェンリル探索の時に配った犬笛だった。

 ハリスにそれをにぎり込ませると、彼女は続けて誓う。


「何かありましたら、私は……私たちはきっと、皆さんにご恩を返しに行く」


「ああ。ありがとう」


 それからすぐ、宿の女将たちの手伝いもあり、出発の準備は完了する。


 ハリス達は決意を固め、最後に村と村人たち、そしてフェンリルに礼をしてから身を翻し、歩きだす。

 村人たちも、そんな彼らの背中に、感謝の声を上げる。


「此度は本当にありがとうございましたっ!」


 その言葉はまるで、これから更なる戦いに飛びこむ彼らへの、激励の声にも聞こえた……。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、


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執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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