モンスターテイマー、氷狼を救う
再び自由を取り戻し、ハリス達へ襲いかかるフェンリル・ゾンビ。
重量任せの攻撃を、ダーニャと共に飛び出したレナが止める。
対するダーニャは、矢じりに鉄ではなく小さな小袋がついた矢で、フェンリルの顔面を狙う。
「喰らえ!」
フェンリルの下に潜り込んで放たれた矢が炸裂する。
瞬間、薄黄色の粉末が大狼の顔面を包む。
とたんにフェンリルは飛び退き、洗うように顔をかく。
ダーニャはそれを見て、緊張した笑みをうかべる。
「氷狼さま、花粉は苦手でしたよね……!」
苦渋の選択を終えたように、すがすがしく答える。
可能なかぎり傷つけない攻撃として、彼女が選んだ最善手であった。
大きく生まれたスキに、四人は各々の行動を思考する。
魔力の類が有効打に使えないと知ったハリスは、『シンクロ』による肉弾戦を選択する。
その横で、ポーラは剣を握って呟く。
「サンクチュアリの魔法陣が必要なんでしょ? なら、あたしはサポートに回るよ」
迷いなく告げる彼女に、ハリスはニヤリと笑う。
「弟子思いの師匠だな」
「バレてた? ……まあね。あんないい子、見捨てられないし」
明るい表情で笑い返し、フェンリル・ゾンビを睨むポーラ。
いっぽうで前に出たレナは、肩を並べるダーニャに告げる。
「勝負をなさいませんか、ダーニャ。どちらがハリス様に」
「御主人に相応しい相棒か、ですか?」
言い終える前に重ねられる言葉に、レナはダーニャを見る。
するとダーニャは、勝ち気にニヤリと口元を歪める。
鋭い犬歯が覗く口元に、レナもフッと笑う。
その時、花粉攻撃の苦しみから逃れたフェンリルが、二人を見て叫ぶ。
『ゥワオオオオオオォォォォォゥゥゥゥウゥゥッッッ!!』
開戦の鐘のように響く雄叫び。
先んじてハリスが飛び出すと、同時に三人も自分たちの役目へ動き出す。
ひとり前線から離れるポーラ。
レナ達は先行したハリスに続き、フェンリルの顔面へ迫る。
突っ込んできた彼らに、フェンリルは本能的に前足を振り上げ、攻撃を仕掛ける。
だが三人は散開し、攻撃を逸らす。
「こっちだ!」
腹下に潜り込んだハリスの陽動に乗り、フェンリルは覗き込む。
隙だらけの頭上には、ダーニャが荒縄を持ち、銀狼の首に巻きつけるように投げる。
「これなら、魔力も使わぬ!」
フェンリルの首を拘束し、地面に着地するダーニャ。
しかし彼女一人では狼のパワーに敵わず、振り回されかける。
そんな彼女を援護するように、斜め後ろから赤い閃光が迫る。
「『バーニングレイ』」
ポーラの放った光線が炸裂する。
威力はリンゴに比べはるかに低いが、縄を握るものをダーニャからレナへ交代するには、十分な隙を作りだした。
競うと言っていたレナは、ダーニャから託された縄を握り告げる。
「先行を取られたか……だが、力であれば!」
先に手柄をとられ、悔しがるように告げたレナは、縄を背負うように担ぐ。
大きく後方に引かれたフェンリルは、仰け反りつつも踏ん張る。
地面に力を籠める前足。そこへハリスは、弾くように回し蹴りを見舞った。
フェンリルの巨体は、縄に引かれて途端に空中へ舞い上がる。
夜空へ半円を描いた狼の身体は、建物の間を縫うようにして、雪の上へ叩きつけられた。
『ガゥッ!?』
自身の体重も乗った攻撃に、苦しむような声を上げるフェンリル。
腹を見せたフェンリルに、ダーニャは超上空へ飛びあがり、空中を蹴って飛びこんでいく。
加速されたボディプレスに、彼女は起き上がって跳躍しようとする。
しかし、迎撃に向かうフェンリルの尾を、間一髪でハリスが掴む。
すると彼は、大狼を地面に縛り付けるように、思いきり引く。
「やらせはしないぞ!」
空中に舞い上がっていたフェンリルの肉体は、地面に引かれる強力な力の前に、成す術なく縛り付けられる。
横倒しに転ぶ彼女が見上げる上空で、月を背にしてダーニャが迫る。
すると彼女の隣に、力を限定解除したレナも翼を広げる。
「「はあああああぁぁぁぁぁッ!」」
迎え撃とうと氷狼が体を上げるも、そこへ突き刺さるように二人の突進攻撃が突き刺さる。
ドゴォッ! という炸裂音と共に、純白の雪が舞い上がる。
咄嗟に合体攻撃をした二人は、その中からハリスの元へ飛び退く。
互いを認めるように、レナとダーニャは見つめ合う。
だがその時、立ち込める砕氷を吹き飛ばし、フェンリル・ゾンビが再び立ちはだかる。
『ガルルルルルッッ!』
「さすがしぶといな……伊達に何千年も生きてはおらぬか」
「もう止まってください、氷狼さまっ!」
苦笑いするレナと対照的に、懇願するダーニャ。
それでも二人の願いは届かず、フェンリルは襲いかかる。
二人を切り裂かんと迫る鋼鉄のような爪。
迫りくる斬撃を――二人の前に出たハリスが軽々と受け止める。
「ハリス様!」
「ご、御主人!」
彼に助けられ、瞳を輝かす二人。
充血した目でこちらを睨むフェンリルに、ハリスは向かい合いながら、彼女達へ告げる。
「よくやった。俺たちの勝ちだ」
ハリスが呟くと、突如雪面が青白く輝きだす。
幻想的な美しい光に、三人と一体は包まれていく。
すると彼らのはるか後方から、リンゴの声が届く。
「魔法陣の作成を手伝ってくださりありがとうございます、ポーラさん」
「いいのいいの、あたしに感謝さえしてくれれば」
「はい……しかし、村全体に描くのはどうなんですか?」
呆れるようにポーラを見るリンゴ。
彼女の言うとおり、青白い光は村全体を包んでおり、旅館に逃げた犬娘たちもその光景を眺めていた。
「村が、光ってる……」
視界に広がる絶景に、純粋な犬娘は瞳をきらめかせる。
当然リンゴも、抱えたアルミラージュと共に、光の中にいる。
彼女は兎を雪の上に下ろすと、袖まくりをして杖を握る。
「まったく。大きすぎて発動するための魔力もバカにならないじゃないですか」
「でも大きいほうが、フェンリルを絶対浄化できるし、いいでしょ?」
「……そうですね」
ポーラの言葉に応えるように笑うと、リンゴは帽子を目深に被り、杖を高く振り上げ叫ぶ。
「――『サンクチュアリ』!」
瞬間、アルミラージュを台風の目にし、光が間欠泉のように地面から噴き上がる。
ハリスやリンゴたちも、光と共に地面から立ち昇る強風に身を煽られる。
そしてフェンリルは、無数の光の粒子に、肉体を貫かれていく。
傷口の肉塊は徐々に消え去り、充血した目も穏やかになる。
彼女は全身を包む心地よい痛覚の中、目を細める。
(初めてだねぇ、こんなに心地良い魔術を浴びたのは)
自我を取り戻し、少し嬉しそうに顎を上げた彼女は、光の中でしばし意識を手放した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
新作の投稿を始めました。
広告の下に作品へ移動できるタイトルを設置しましたので、
そちらもぜひお楽しみください。
この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、
広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。
執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。




