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魔法少女、鬱憤を晴らす

 理性をなくし、ハリス達に襲いかかるフェンリル・ゾンビ。

 対話不能と即座に割りきった彼は、指先を氷狼に向ける。


「『ステラキャプチャー』」


 出し惜しみなく最大の拘束魔術を使用する。

 しかしゾンビ化しているとはいえ、彼らの目の前にいる大狼は、レナたちドラゴンと同等に扱われる伝説のモンスター。


 長くは持たないとすぐに割り切り、ハリスは指示をだす。


「村へは極力近づけるな! フェンリルを何としてでも止め――」


 言葉を続けていた時、彼の第六感が更なる危機を感じ取る。

 それは初めて雪原でフリーズ・アンデッドと出会った時と、同じ感覚だった。


 直後予感は的中し、雪の中から無数の青い腕が伸びる。

 ハリスとレナ、ダーニャはすぐに逃れるが、リンゴだけはおぞましい花畑のような腕の一つに足を掴まれる。


「リンゴ!」


 とっさに叫び、助けるためにリベイルケインを伸ばすハリス。

 その間に雪中のアンデッドたちは、次々に地上へ姿を現す。


 彼らに阻まれ、異様な速度でキャプチャを破壊したフェンリル・ゾンビは、跳躍して村へ疾駆する。


 一見大ピンチに見える状況だが、最も危ない場面にいるリンゴが、まるで鬱憤を晴らすように叫ぶ。


「『シューティング・ライトレイ』!」


 今までにない詠唱と共に、杖を空へ振り上げるリンゴ。

 巨大な光の弾が夜空に打ち上り、花火のように炸裂する。


 はじけた光弾は流星のように降り注ぎ、広範囲に展開したアンデッドたちを圧し潰していく。


 その間にリンゴは『ライトレイ・メス』で自分を掴むアンデッドを切り裂き、降り注ぐ光の中で呟く。


「アンデッドの弱点は光魔術。相性の勉強は、魔術学園で基礎の基礎です」


 その瞳は、普段大人しい彼女に似合わずギラリと輝く。


「首輪のせいで戦えなかったぶんの、名誉挽回ですっ!」


 光の流星がアンデッドを殲滅する。


 中心に立つリンゴが、ハリスを見て頷く。

 その意図を理解した彼は身を翻し、伸ばしていた鞭の狙う先をフェンリルへ変える。


 リベイルケインを大狼の足に巻きつけ、引きずられる身体を『シンクロ』による肉体強化で踏ん張るハリス。


 更にそこへレナやダーニャたちも加わり、綱引き状態になる。


 ゾンビ化したフェンリルは、既に村の目と鼻の先にある。

 女将の呼びかけで逃げ惑う犬娘たちは、変わり果てたその姿に驚く。


「氷狼さま!?」


「待って! 何か様子がおかしいわ!」


 異変に気づいた犬娘が、駆け寄ろうとする別の娘を呼び止める。

 フェンリルは二人を前に、牙を剥き出しにして咆哮する


『ゥワウオオオオオオォォォォォゥゥゥゥゥッッッ!』


 雄叫びを上げるや否や、フェンリルは左右に跳躍してハリス達を揺さぶったうえで、前方へ駆け出し引き留める彼らを大きく引きずる。


 村へ突入され、歯噛みするハリス。

 鋭い牙が二人の犬娘に向けられたその時、一つの剣が食い止める。


「すっご……一撃めっちゃ重い……!」


 間一髪、準備を終えたポーラがフェンリルを食い止める。

 背後の二人へ彼女が目配せすると、旅館のほうへ逃げていく。


 ポーラの助太刀を受け、ハリスはレナ達へ振りかえり、新たな策を告げる。


「何とかして村から外へ出す! 被害を抑えることをなにより念頭に置くんだ!」


「かしこまりました!」


「はい!」


「承った御主人!」


 三者三様の返事と共に、彼らも村へ走りだす。

 その間にハリスは、普段の戦闘にはない奇妙な状況に違和感を覚える。


(いくらなんでもキャプチャの破壊が早すぎる……それに、リベイルケインが引かれたとき、まるで力が抜けるような感覚がした……!)


 予感めいた印象を頭に置き、村へ飛び込んだハリス。


 彼は歯を食いしばりフェンリルを止めるポーラに、手を貸そうと懐から召喚符を取り出し、応戦しようとする。

 しかしその瞬間、フェンリルは危険を察知したようにハリスを睨む。


『ワゥッッッ!』


 次の瞬間、握っていた召喚符が三枚、鳴き声に共鳴するように弾け飛ぶ。


 肉体を魔力で巨大化させる『オーガ』と、脚力を上昇させる『ウルフェン』以外の三枚が、粉々になり使用不可能になる。

 幸い強力な二枚は残ったが、消耗を懸念しハリスは使用をやめる。


 だがフェンリルの興味はハリスに移り、今度は彼へ襲いかかる。

 そのとき、銀狼の真横から、まばゆい光が放たれる。


「『ライトレイ』!」


 リンゴの放った光の極太光線が、フェンリルをはね飛ばす。

 地面に倒れるフェンリルに、今度はレナが飛び掛かり、押さえつける。


「何をやっているフェンリル! 目を覚ませ!」


『ワウッ! ガルルルルッッ!』


「言葉すら忘れたか、貴様っ!」


 暴れるフェンリルを押さえつけ、訴えかけるレナ。

 力は拮抗していても、二人の体格差は大きく、今にも振りほどかれそうになっている。


 そこにリンゴは、再び杖を構える。


「もう一発……『ライトレイ』!」


 レナを援護するために放たれる光線。

 当然フェンリルはそれに気づくと、強く睨みつける。


 すると次の瞬間、光線はフェンリルに命中するより早く、空気に解けるように消え去った。


「な……っ、一体、なにを!?」


 驚き立ちすくむリンゴ。

 いっぽうでハリスは、その光景を目の当たりにし、予感が脳裏を過る。


 その瞬間、彼は両手を二丁拳銃のように構え、詠唱する。


「『ステラキャプチャー』」


 ばら撒かれるように放たれる魔法陣。

 広範囲に散らばったそれは、一斉にフェンリルへ迫っていく。


 それを認識したフェンリルは、レナをなんとか振り払い、立ち上がって赤い瞳で睨みつける。


 すると魔法陣は次々にかき消され、霧散していった。


 破壊された召喚符、消滅速度の速いキャプチャ、リベイルケインから力を吸い取られる感覚……全てを加味し、フェンリルの力を彼は割り出す。


「本能的に、魔力による攻撃を外側から操作している。だから魔術は強制的に解除され、リベイルケインから逆に力を吸われたんだ」


「そんなっ! では、魔術は通用しないというコトですか!?」


「いや、認識さえさせなければ通用するようだ」


 彼がそう言った瞬間、フェンリルの背後から魔法陣が迫る。

 気付くことのできなかった大狼は、瞬時に足を拘束され、攻撃を縛られる。


 ばら撒いた魔法陣を、あえて一発だけ隠し、時間差による不意打ちを敢行したのだ。


「一発目のキャプチャと、お前のライトレイで予想できた」


 そう彼は言うが、攻略が難しいことには変わらない。

 どのようにして倒すか……考えながら、ふと視線を外す。


 村と雪原の曖昧な境界線に立ち尽くす、攻撃に参加していないダーニャ。


 危険な状態になりながらも、戦闘に参加できない光景に、フェンリルの存在がこの村にとって、どれだけ大切なものなのかを再認識する。


 フェンリルも村も救う……倒す以上に難しい条件に、難しい条件だと思い込みかけるハリス。

 だがそんな彼に、閃きが走る。


「……光の魔術は、アンデッドには有効だったよな?」


「た、確かにそうですが」


 何気ない確認に、たじろぎながら答えるリンゴ。

 すると彼は、彼女を真剣な眼差しで見つめる。


「ゾンビ化は毒によって理性を失わせる、いわば状態異常だ」


「状態異常……!?」


「光魔術にあったよな? どんな状態異常も浄化できる術が」


 投げかけられる言葉に、リンゴも合点がいく。

 それは『サンクチュアリ』という、広範囲の状態異常を癒す大魔術であった。


 ハリスの言おうとしていることを理解したリンゴは、さきに自分の中にある懸念を告げる。


「あれはかなりの大魔術。私程度の練度では、補助の魔法陣を描く時間と、可能なら毒の抗体が必要です」


 不安げながら、どこかハリスを信じるようにリンゴは告げる。

 対してハリスは、その意思に答えるように告げる。


「時間は稼ぐ。それに抗体を持つものなら、いる・・


「いる……はっ!」


 声を上げて思い出すリンゴ。

 ハリスもまた、補足するように言葉を繋げる。


「アルミラージュは、アンデッドに襲われて生き残ったはずだ」


 強く告げられたハリスの言葉に、リンゴは黙って頷くと、アルミラージュのいる旅館へ走りだす。


 残されたハリス達は、一様にフェンリル・ゾンビを見つめる。

 彼女を止めていた魔法陣の枷が、再び徐々に消えていく。


 レナ、ポーラ、ダーニャの様子を見たハリスは、手を振り上げて宣言する。


「リンゴの魔術が完成するまで、全力で足止めする!」


 そこから彼は、少し目を伏せて言葉を続ける。


「フェンリルを……助けるぞ」



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