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モンスターテイマー、伝説の地を守る

 霊峰を下山し、夜。

 ハリス達と同行していたダーニャは、そのまま彼等の拠点である宿部屋に入った。


 別行動をしていたレナ達も、彼らと共に帰還している。

 ポーラに関しては、すでに入浴後でユカタに似た服を着ていた。


 すると、ハリス達が連れ帰ったリンゴも、簡単に敷かれた床の上で目を覚ます。


「あれ、私……」


 瞼を開けると、そこには彼女の顔をのぞき込むアルミラージュの姿もあった。


 有角の兎を抱き、体を持ち上げるリンゴ。

 宿部屋では、正座するハリスへ抱きつくように寄り添うレナ、その対面に背を伸ばして座るダーニャ、それを観察するボーラという、若干奇妙な光景があった。


 不思議そうにリンゴが首をかしげると、レナが口を開く。


「まさかあなたが、お話に聞くハリス様の以前のパートナーでしたとは」


「以前? まあ確かに、それで間違いないですが」


 引っ掛かりつつも肯定するダーニャ。

 するとレナは、ハリスの腕をより強く抱きしめる。


「私が現在の、ハリス様の正式なパートナーです」


「うぇっ!? そ、そうなのか御主人!?」


「……まあな」


 何か誇張しているようなレナの言葉だが、決して間違ったことは言っていないため、ハリスは否定せずにうなずく。

 するとダーニャの瞳も、少し挑戦的な鋭いものになった。


 互いを威嚇、もしくは牽制するように睨み合うレナとダーニャ。

 ハリスは内心、これは面倒臭いことになると理解する。


 その予想は、どんぴしゃりと叶ってしまう。


「せっかくですし、レナ殿にも教えてしんぜようか? 御主人の幼かったころ」


「くっ……! 気になりますが、結構です。私とハリス様には〝未来〟がありますので」


 始まる不毛なデレ惚気合戦。

 それを眺める、まだ話についていけていない寝ぼけ顔のリンゴ。


 少しずつ話が白熱していくたび、当のハリスは自分の事であるにもかかわらず、立ち入ることのできない雰囲気が漂いだす。

 呆れて視線を外す彼……するとそこでは、ポーラが手招きをしていた。


 怪訝な表情をするハリスは、いちどレナ達を見るが、惚気ているわりに彼の行動には気付いていない。


 彼はひっそりと立ち上がり、ポーラのほうへ歩み寄る。

 すると彼女は唯一まともなリンゴに対し、小声で話しかける。


「ちょっと二人で話があるから、レナちゃん達ヨロ」


「はぇ……わかりました」


 ポーラの頼みを請け負ったリンゴは、軽く背伸びをして頬を張り、格闘技の審判のようにレナ達の可愛らしい口論を観戦する。


 その間にハリスを連れ、宿の廊下へと出るポーラ。

 彼女は従業員がいないことを確認し、ホッとして彼へ向く。


「ごめんねー、連れ出しちゃって」


「別に俺は構わないが、どうした?」


「ちょうどいいタイミングだったから、話しておこうと思って」


 そこまで言うと、彼女は軽薄な笑みを潜め、腕を組んで真剣な表情になる。

 密着するような薄手の服で、形がくっきりと浮かぶ胸を、組んだ腕で持ち上げる。


 黙って彼女の話を待つハリスに、言葉が投げかけられる。


「私の仕事……ある危険人物の討伐について」


「一個人の、討伐? 随分と大袈裟だな」


「全然大袈裟じゃないよ」


 すぐに言い返したポーラは、強く唇を噛んで、恐怖と覚悟の入り混じった声で告げる。


「アイツは、勇者号・二十七号所持者は、勇者の……いや、人類の汚点だね」


 鬼気迫るポーラに、ハリスも意識せずに固唾を飲む。

 ときおり数字の入れ替わりのある勇者号であるが、順当にいけば二十七号は、『28』の番号を持つポーラより一つ早い数字になる。


 つまり直近の先達を、彼女は危険視し、討伐する依頼を受けていたのだ。

 ポーラは纏った雰囲気を崩さないまま、ハリスに確かめる。


「あたし等が戦ってたアンデッドって、意図的に量産されたんだよね?」


「最初は俺の予想でしかなかったが、フェンリルの話で確定した」


 何気ないポーラの質問に、さらりと返すハリス。

 しかし少し間を置くと、尋ねられた理由を察し、口には出さずまさかと表情で訴える。


「会ったことのある私ならわかる……あの快楽犯なら、やりかねない」


 この話を初めて聞いたハリスと違い、ポーラはすでに今回の事件の真犯人に、目星をつけているようだった。


 見え始めた黒幕の正体に、無意識に拳を握りしめるハリス。

 彼と向き合うポーラは、真剣かつ二人きりの状況に、もう一つの話題を持ち出そうとする。


「あのさ、レナちゃんって一体何者――」


 言いかけているその時、ハリスに今まで感じたことのない危険信号が、ぞわりと背中を駆け抜けた。

 話そうとしていたポーラも、謎の気配に目を見開く。


 すると同時に、二人の隣にある宿部屋の扉が、勢いよく開かれる。

 激しい音と飛び出してくるダーニャの姿に、ちょうど廊下を通りかかろうとしていた女将が驚いて腰を抜かした。


「か、狩人さん? そんなに慌ててどうしたのです?」


 尋ねる女将だが、ダーニャからの返事はない。

 そのまま走っていく彼女に、女将は注意をしようとするが、それよりも早く彼女は宿を飛び出した。


 それから間もなく、ダーニャに続いてレナとリンゴも部屋を出る。

 ハリスはレナの顔を見ると、尋ねる前に彼女は告げる。


「話していた途中に、突如『氷狼さま』とだけ言って飛び出したのです」


「そうか……レナ、お前は何か感じたか?」


「はい。この村に、強烈な獣の血の匂いが近づいています」


 全員が事態を共有するのに、さほど時間はかからなかった。

 各々の状況を理解する四人は、それぞれに口を開く。


「あたしは装備を整えていくから、三人は先に行って!」


「わかりました! レナさん、ハリスさん!」


「ええ、急ぎましょう」


 答えながらハリスを見るレナ。

 彼は頷いてすぐ、尻餅をついた女将に手を貸し立ち上がらせ、彼女に頼む。


「この旅館に、村の人たちを避難させてくれないか? 何かまずいものが来るかもしれん」


「……狩人さんから話は伺っております」


 すぐにアンデッドの事だと理解した女将は、速足でその場を去る。

 ポーラが着替えに部屋へ飛び込むと、三人は頷き合い、ダーニャを追って外へ急いだ。


 *


 村近くの夜の雪原。吹雪く中で、ダーニャは武器をもって立ちすくむ。

 そこに三人も駆け寄り、彼女が見上げる敵の姿に驚愕する。


「フェンリル……?」


 呟いたハリスの言葉どおり、目の前にいるのは昼間に出会った巨大な銀狼、フェンリルの姿だった。


 目を充血させ、傷口が不気味な|肉腫(肉腫)のようなもので塞がった彼女は、口から涎をだらだらと垂らしながら唸っている。

 周囲に血の匂いが立ち込めさせる怪物は、歯を剥き出しにして咆哮する。


『ゥワウオオオオオオオオオオオォォォゥゥゥゥゥッッッ!』


 言葉を話さず、威嚇の遠吠えを放ち、赤い目で三人を見る。

 呆然と彼女を見るダーニャは、その変わり果てた姿に弱々しい声を漏らす。


「そんな……氷狼さまが、アンデッドに……」


 それを聞いたハリスは、首を振って訂正する。


「いや、フェンリルにはまだ少し意識がある。恐らくはアンデッドの攻撃により、特殊な毒で理性を失い、暴走した状態」


 彼は拳を握りしめ、現在の彼女に仮称をつける。


「いわば『フェンリル・ゾンビ』だ」


 直後フェンリル・ゾンビは大きく跳躍し、鋭い爪でハリス達に襲いかかる――!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] フェンリル完治するといいですね
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