魔法少女、因縁の相手と再会する
二日後、一行は予定通りに途中の町へたどり着いた。
出発時には軽装だった四人も、防寒対策で厚着に着替え、代わりにレナの背負うバックパックが小さくなっている。
長い毛皮のコートを纏ったハリスは、町の様子をぐるりと見回す。
「世界樹の町に比べると、広さも規模もかなり大きいな」
「北へ行く人はみんなここで補給していくからね」
ポーラの言う通り、町は圧倒的に商人が多く、冒険者は一握しかいない。
町の様子を理解したハリスは、役割分担を考える。
食材やこれまで以上の防寒装備、消耗品などの旅に必要なアイテムを一丸となって探すのは、時間的にとても非効率的である。
ハリスは必要物資と四人の状況から計算し、指示を出す。
「俺とレナが食材と宿の確保。リンゴとポーラは防寒具と日用品の入手を頼む」
意外な組み合わせに、リンゴたちは互いを見る。
きょとんとしたポーラは、徐にハリスを見て告げる。
「いいの? あたし、まだ馴染んでないと思うんだけど」
「交遊も含めてだ。リンゴをよろしく頼む」
彼の言葉に、ポーラは意思を汲み取って受け入れる。
リンゴへ「よろしくね」と伝えた彼女は、ハリスの隣を通り過ぎながら耳元で囁く。
(レナちゃんと二人きりになりたいなら、そう言えばいいのに)
(何を勘違いしているんだお前は)
(あれ、違った?)
ニヤついたまま、何事かわからず首を傾げるリンゴと共に、町の人混みへ消えていく。
ため息を吐くハリスに、レナは隣で目を細め、拗ねた様子で呟く。
「違うのでございますか?」
「……お前もか」
ジト目で彼がそう言うと、二人も遅れて出発した。
*
四人ぶんの防寒具を抱え、装備屋を後にするポーラ達。
彼女は胸に抱いたコートを見つめ、歌うように呟く。
「良かった~! これ、時期によって値上がりするからさぁ」
「お詳しいのですね」
「まあね、伊達に長いコト旅もしてないし」
「その口ぶりですと、以前に買った防寒具はどちらへ?」
「捨てちゃった。戦闘で消耗してたし、荷物もかさばっちゃうし」
勇者として様々な地域を行き来するポーラらしい理由に、リンゴは納得して頷く。
同時に彼女は、丈夫なコートが消耗してしまう過酷な仕事に、内心でポーラへの評価を改める。
するとポーラは心を読んだように口を開く。
「一人で戦って消耗するなら、利害の一致する仲間を集めたほうが負担も減るからね。北にリンゴちゃん達を誘った理由もそれだよ」
「利害、ですか」
呟きながら、リンゴはチョーカーを触る。
自分たちの目的は、この首輪を外すことである。
それだけでも仲間を振り回し、加えて数日前まで名前も知らなかったポーラも、協力してくれている。
一度は彼女を疑ったリンゴだったが、それに気づき、反省した。
口を噤み、しょんぼりと肩を落とすリンゴ。
彼女の様子を見たポーラは、少し屈んで小さな肩に腕を回す。
「気にしないでよ。困ったときは助け合うのが、冒険者の鉄則だから」
人差し指を立てて教えるポーラに、リンゴは感心する。
その言葉に彼女はポーラに興味を抱き、顔を上げる。
「ポーラさんは一体、どこであれだけの魔術を学ばれたのですか?」
しかし彼女の問いかけに、ポーラは答えず立ち止まる。
視線の先には、装備とは違うカジュアルな服や装飾が揃った雑貨屋があった。
徐に振り向いたポーラは、謝る素振りを見せつつ口を開く。
「ごめん、ちょっと見てきていい?」
「見てくるって、あの、買い出しの途中ですよ?」
「そこをなんとか! すぐ戻るから!」
頼み込むような口調ながら、ポーラの体は店へ引き寄せられ、吸い込まれるように入店する。
唖然と立ち尽くすリンゴ。数十秒して我に返った彼女は、顔を左右に振る。
「し、仕方ない大人ですね……注意しないと!」
頬を膨らませ、店に入ろうとするリンゴ。
だがその時、道の向こうから争うような声が響く。
「突然辞めるとか聞いてねぇぞ、モノ!」
「戦力不足なのは知ってるだろ!? 今までいくら渡してきたと思ってんだ!」
「お金が貯まったら抜けるって、最初に約束したでしょ?」
尋常ではない状況に、リンゴは店を何度か見比べ、最終的に騒ぎの場所へ走っていく。
既に人混みができる中、掻き分けて中心に近づく彼女。
そこいたのは、嫌がるモノの腕を掴むリーダーと、逃げられないように左右を挟む男二人。
かつてのハリスの仲間達であった。
彼等の存在をリンゴは知らないが、今は四人に加え、彼女の良く知る人物の姿もある。
ハリスと同じく彼女をパーティから追放した、男女の冒険者だ
「せっかく仲間になってあげたのに、その態度はなんのつもり!?」
「お前が抜けたら、折角の戦力増強のパーティ合併が水の泡になるんだよ!」
五人のメンバーに責め立てられながら、モノは尚も反抗する。
表情に怒りを宿らせた彼女は、噛みつくように声を漏らす。
「私には、今すぐにでも行かなきゃいけない場所があるの。アンタ等みたいな、道楽で冒険者やってる連中とは違うんだよ……!」
モノの激しい言葉に、般若のような表情をした女冒険者は、思わず手を振り上げる。
だが彼女より早く、リーダーの張り手がモノの頬へ炸裂する。
「調子に乗るなよクソアマ……!」
続けてモノへ迫るリーダーの拳。
凄惨な光景が繰り広げられる中、全てを見ていたリンゴは叫ぶ。
「ま、待ちなさいっ!」
「……あ?」
寸前で拳を止め、制止したリンゴのほうへ顔を向けるリーダー。
ドスの効いた声にびくりと震える彼女だが、頬を赤く腫らして顔を上げるモノの姿に、一度決めた覚悟を強固なものにする。
対する冒険者集団の中でも、リンゴに気付いたかつての仲間が、あざ笑うように告げる。
「どうしたんだ? ハリスとかいう男の仲間になったんじゃないのか?」
「こんなところでどうしたの? また捨てられちゃった? それとも、巨人に踏み潰されちゃった?」
悪意を持って嘲笑う声に、リンゴは動じずに前へ出る。
しかし、二人の話を聞いていたリーダー達も、彼等の言葉に出て来た名前に、口角を上げて便乗する。
「ハッ、なんだお前、ハリスの仲間なのか?」
「こんなガキを連れているとは、落ちぶれたかとんだロリコン野郎だな」
「その首輪は何だ? アイツへの服従の印かなんかか?」
指摘され、首輪に手を触れるリンゴ。
しかしそこで反応はせず、彼女は帽子の下で眉間に皺を寄せる。
拳を握りしめ、可能な限り怒りを殺した彼女は、落ち着きはらった口調で告げる。
「私はどう言われようと構いません。ですが、私の尊敬する人を卑下することは、許しません」
彼女はモノとリーダーの間に割って入り、自分の倍近い体格の彼を見上げる。
そして彼を睨みつつ、語気を強くして続ける。
「そして何より、嫌がっている人を殴るなんて、私は絶対に許しません!」
「許せないなら、何だってンだ!」
声を荒げ、剣を引き抜くリーダー。
同時にリンゴも、懐から杖を抜き、モノを守るため対峙する――!
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