劣等パーティ、魔法少女に残酷な現実を突きつけられる
リーダーの剣が、少女の頭上へ振り下ろされる。
短杖を取るリンゴは、攻撃を受け止めるようにそれを構える。
「『ライトレイ・リフレクト』」
唱えた直後、剣の切っ先が杖に触れる。
その瞬間、杖から強烈な光が放たれ、リーダーの攻撃を弾く。
閃光に目が眩みよろめく彼に、リンゴは追撃の詠唱をする。
「『ライトレイ』!」
「うわぁッ!?」
巨大モンスターにも通用する光線が、何千分の一に威力を落とされ、リーダーを後方へ吹き飛ばす。
地面に倒れたリーダーを見て、顔色を変える大男と髭の男。
動揺する彼らをよそに、リンゴは背後のモノに声をかける。
「離れてください!」
「……うん、ありがとう」
長杖をついて立ち上がり、腫れた頬を抑えてモノが逃げていく。
離脱する彼女を追おうとする劣悪パーティの仲間たち。
その導線を阻むように、再びリンゴが前に立つ。
「ここから先は通しません」
「ガキが……舐めんじゃねェ!」
叫んだ大男がバスターソードを抜こうとする。
だがそれよりも早く、かつてリンゴの仲間だった男女が、息を揃えて突撃する。
細剣を振り上げる女冒険者と、短剣を握る彼女の相方。
二人は上下に重なるようにして迫り、剣を真横へと薙ぎ払う。
(この攻撃、お前の大の苦手な飛行魔術でも使わないと、避けられないぞ?)
上に逃げる以外、逃走順路の無い攻撃に、男は勝利を確信する。
……しかしリンゴは、最適解のとおりに、軽く地面を蹴って空中へ舞い上がる。
「な、何で飛べるんだよ!?」
「飛行魔術が使えないって、嘘だったワケ!?」
「嘘なんかではありません」
振るわれた剣を階段のように蹴りながら、二人の頭上に浮かぶリンゴ。
彼女は黒靴を履いたその足で、男の顔面を踏みつける。
「ふぎゃっ!?」
間抜けな声を上げて地面に崩れ落ちる男。
彼らの背後に着地したリンゴは、途中だった言葉を口にする。
「あなた方が無能とはき捨てた私を、ハリスさんは……あの人たちは必要と言ってくれた。だから私も力になりたくて、成長できたんです」
「説教こいてんじゃないわよッ!」
振り向きざまに細剣を引き、リンゴに突き入れる女冒険者。
しかしその切っ先は、彼女の体を手応えなくすり抜ける。
女冒険者が目の前の光景に驚愕していると、頭上からリンゴの声が響く。
「こちらですよ」
見上げると、そこには浮遊したリンゴの姿。
呆気にとられた女冒険者の手へ、彼女は小規模のライトレイを放ち、細剣を弾き落とす。
落ちた剣を、すぐに拾いに行こうとする彼女の前へ、飛行魔術を解除したリンゴが立ち塞がる。
「光魔術で空気中の水分を鏡のように利用した分身です。驚かれましたか?」
「くっ……」
剣を握っていた手を抑え、声を漏らす女冒険者。
すると二人の横から、戦闘に参加していなかった大男たちが歩み寄る。
「すごいなお前……ガキだと馬鹿にしていたが、大した実力だ」
異様に褒めながら歩み寄ってくる二人に、警戒して引き下がるリンゴ。
彼女の様子を見て、手を挙げて武器を持っていないことを示しつつ、作り笑いを浮かべて話す。
「俺たち、深刻なパーティの力不足でな」
「お前も見ただろうが、あの女が辞めちまったせいで、魔術師もいなくなっちまったんだ」
遠回しに、外堀を埋めるようにして、彼等は言葉を選んでいく。
だがリンゴに建前は通用せず、真正面から告げる。
「私を勧誘するおつもりですか?」
「お、話が早いじゃねえか。どうせハリスのパーティなんて薄給だろ? ウチに来たら活躍もできるし、報酬だって……」
「お断りします」
甘い言葉の勧誘を、リンゴは叩き伏せる。
取り付く島もない言葉に、二人は唖然として固まる。
するとリンゴは腕を組み、訝しむ視線を向けて語りだす。
「そもそもあなた方はなぜ、ハリスさんをパーティから追放したのですか? あの魔術師さんがどうして逃げたか、理解していますか?」
「……何が言いたい?」
にこにこと笑いながら、眉間に皺を寄せた大男の言葉に、リンゴは溜息を吐く。
「それはあなた方が、自分たちの実力を理解していなかったからです。話を聞いているだけで察することができるくらいに」
ハリス達にも向けられた指摘のメスが、劣悪パーティの男たちにも向く。
彼等の頭には青筋が浮かび、怒りを蓄積している。
それでもリンゴは、目の前の男たちに、現実を突きつけるように語る。
「自分たちの実力もわからず、戦力であったハリスさんを手放した。人材を雑に扱うあなたたちの姿に、辟易した魔術師さんは離脱した」
「…………」
「少しでも義理があるのなら、魔術師さんは残ってくれたでしょう」
しかしこれが現実です。彼女はそう言って一度締める。
男たちは彼女の言葉に反論することもなく、黙って見つめる。
リンゴは最後の結論として、そんな彼等に言葉を下す。
「強さも人間性も、あなたたちは実力不足だった。それだけです」
全てを締めくくり、リンゴは二人を鋭い視線で見つめる。
対する二人は未だ無言で――ニヤリと口角を邪悪にあげていた。
その様子にリンゴが気付いたとき、彼女の背後には、立ち上がったリーダーの姿があった。
「自分の実力に気付いてねーのは、お前なんじゃないか?」
「な――っ!」
再起した彼の姿に気付き、振り返ろうとするリンゴ。
だがリーダーは、彼女から杖をはたき落とすと、太い腕で羽交い絞めにする。
すると彼女の前に、散々指摘を聞かされた男たちが寄ってくる。
「よくもまあ、舐めた口きいてくれたじゃねーか」
「立場ってのをわからせてやらないとな」
そう言って大男が拳を高く振り上げる。
身体の自由は奪われ、一方的な暴力に、リンゴは苛まれるかに見えた。
しかしその時、彼女はなんとか両手の指で長方形を作り、三人へ向けて叫ぶ、
「『シャッター』!」
投影する紙のない撮影魔術。
途端に辺りには閃光が放たれ、光に目が眩んだ男たちはリンゴを解放し、彼女は三人と距離を置く。
杖はリーダーの足の下にあり、回収することは困難。
彼らと拮抗状態になってしまったが、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「今の私は、自分の実力をよく理解しています――まだまだ甘いと」
余裕を示そうと呟くリンゴに、男たちは各々の武器を向ける。
彼女は丸腰ながら思考を巡らせ、杖を使わない魔術で彼等をどう倒すか考える。
「ボロボロになったテメェを見て、ハリスの野郎が一体どんな顔をするか、楽しみで仕方ねーなぁ!」
下衆な言葉と共に襲い掛かるリンゴ。
――そんな両者の間に、一人の影が姿を現す。
「俺の仲間に、何の用だ?」
リベイルケインで三人の攻撃を止めたハリス。
彼は表情に静かな怒りを浮かべながら、リーダーたちを強く睨みつける。
その時リンゴは、初めて彼が本気で怒る姿を見た。
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