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女勇者、実力を見せつける

 世界樹の町から離れ、草原を歩くハリスたち。

 ポーラは三人の前を歩きながら、彼等を先導しつつ語る。


「このまま北に歩くと亜寒帯地域に入るから、服は少しずつ厚着にしていってね。三日すれば補給できる町につくから!」


 話している間もポーラは美しい草原の景色を見回しており、後に続くハリス達から見た彼女は、はしゃぐ子供のようだ。

 彼女の姿に、首輪を触れたリンゴは、ジトっとした視線を送る。


「本当に、あの人の話に乗って良かったんでしょうか?」


「俺自身、助ける方法が他に思いつかないからな。利害の一致だ」


「むぅ……ハリスさんがそう言うなら信じますけど……」


 訝しむリンゴを宥めるハリス。

 しかし彼もまた、ポーラの行動に、少々引っかかるものがあった。


 リンゴを落ち着かせた彼は、ポーラを指して質問しかえす。


「ところで、アレは何をやっているんだ?」


 二人揃って変わらず歩くポーラを見る。

 すると突如、彼女は両手の親指と人差し指で四角形を作り、片方の小指と薬指に紙を挟んで唱える。


「『シャッター』!」


 眩い光が一瞬だけ放たれ、指で四角く囲った個所の景色が、挟んでいた紙に投影される。

 不思議な魔術をもの珍しそうに見るハリスに、リンゴは説明する。


「撮影魔術といって、光景を瞬時に記録できる、最近開発された光魔術です」


「光魔術ということは、『ライトレイ』と同系統なのか」


「はい。私も使えますが、複雑な割に実用性がわからなくて」


 リンゴは腕を組み、楽しそうなポーラを見つめる。

 彼女の声は本人にも聞こえていたらしく、耳がピクリと反応する。


「フフン、リンゴちゃんはわかってないなぁ。綺麗な景色を切り取って保存できる以外に、実用性なんて必要?」


「確かにそれもいいですが、記憶でも満足するような。思い出補正というものもありますし」


 瞬時に切り返される問いかけに、ポーラはショックを受けたように固まる。


 リンゴの鋭すぎる指摘に、今回も頭を抱えるハリス。

 ため息を吐いた彼が顔を上げたその時、彼はふと周囲を見る。


「……敵対する気配がある」


「どうやら、そのようでございますね」


 いち早く気付き、荷物を下ろして戦闘態勢に入るハリスとレナ。

 次の瞬間、辺りの地面からアンデッドがぬるりと現れ、四人を囲んで呻き声を上げる。


 恐ろしい容姿で少しずつ近寄ってくる彼等に、リンゴは驚いて身を震わせる。


「あ、アンデッド!? 初めて見ました!」


「気を付けろよ。他のモンスターと違って、死を恐れずに攻撃してくるからな」


 忠告と同時に、レナと共にアンデッドの群れへ跳躍しようとするハリス。

 だがその時、彼等の目の前にポーラが立ち、先程までの表情を自信ありげに変えて告げる。


「せっかくだし、ここで私の強さをご照覧頂こうかな」


「しかし、この数だぞ」


「ハリスたちだって、単騎でこれくらい余裕でしょ?」


 ニッと笑ったポーラは、三人へ背を向けて腰の剣に手を掛ける。

 身勝手に見える彼女の行動に、注意しようとするリンゴ。


 だがハリスは、リンゴの前に腕を翳して制止する。


「何故止めるのですか!?」


「戦力の披露というのは建前で、これは彼女なりの気遣いだ」


 ポーラにも聞こえる声で、ハリスは汲み取った彼女の意志を伝える。


 普段であればハリスが中心となり、レナと共に前衛を務めながら、戦況に合わせてリンゴの後衛に指示を出すのがいつもの戦い方である。


 だが今は隷従の首輪により、ハリスがリンゴに指示を出せば、どうなるかわからない。

 指示の中でも融通や柔軟性に欠け、彼女の危険に繋がるかもしれない。


 それを踏まえ、リンゴを守るためにも彼女は単身での戦闘を買って出た。

 ハリスがそう説明すると、ポーラは顔を向けずに答える。


「凄いね、そこまでわかるんだ」


「まあな――リンゴは俺たちが守る。頼んだぞ」


 頷きつつ「了解」と返答するポーラ。

 直後、彼女は地面を蹴り、抜刀しながら前方のアンデッドに迫った。


 白銀のつるぎは、抜き身になると同時に刃へ薄い氷の膜を張る。

 接敵したポーラは、前方の敵を一太刀で薙ぎ倒すと、剣を地面に突き立てる。


「『アイスリンク』!」


 呪文を唱えた瞬間、刃の先から一気に地面が凍る。

 アンデッドの出現した地帯を、瞬く間に彼等の足ごと凍結させたポーラ。


 彼女の妙技に驚いたレナは、自分たちの足元を見てさらに驚愕する。


「ハリス様、これは!」


「ああ、広範囲を一瞬で凍らせておいて、俺たちや自分の足元だけは見事に避けている」


 彼の言葉通り、まるで結界でも張ってあったかのように、ハリス達のいる地面は緑の草が色づいたまま。


 ポーラが地面から刃を抜くと、凍っていた草が砕け散り、一帯はスケートリンクのようになる。

 氷上に足を乗せ、剣を前方にかかげた彼女は、地面を滑走し始める。


 凍った地面を滑りながら、容赦なくアンデッドを切り裂くポーラ。

 周囲の敵をあらかた片付け、氷の中心へ戻って彼女は宣言する。


「あ、氷だけじゃないよ?」


 そのままポーラは剣を頭上高く掲げ、詠唱する。


「『サンダーボルト』!」


 瞬間、刃から放たれた無数の稲妻が、遠く離れたアンデッドたちを貫いた。

 それとほぼ同時に、足元の氷も砕け、茶色い地面が露出する。


 刃を収めたポーラは、ハリス達へ振り帰って胸を張る。


「へへ、強いでしょ。あたし」


 自身の力を示したポーラに、リンゴは少し目を輝かせ、レナも頷く。

 ハリスも満足げな表情をするが、直感的にリベイルケインを取り、彼女に向かって伸ばす。


 驚くポーラの横を通り過ぎる鞭の先端。彼女が振り返ると、そこには斬撃で仕留め損ねたアンデッドが、彼女に襲い掛かろうとする姿があった。

 幸いにも鞭で額を貫かれたアンデッドは、力なく地面に倒れる。


「確かに尋常ならざる強さだが、詰めが甘すぎないか?」


「あはは、よく言われる……」


 腰に手を当てやれやれと首を振るハリスに、申し訳なさそうに頭を掻き、溜め息と共に反省するポーラ。

 エンカウントしたモンスターを撃退し、四人は再び歩き出す。


 ――そんな中でハリスは一人、小さな疑問を内心で呟く。


(アンデッドは本来、魔術などで人工的に作り出されるモンスター……それが何故、草原の真ん中で、こんなにも大量に……?)


 小さな謎を抱えながらも、大きく気に留めることは避け、彼等は北への旅路を進んだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この作品を「面白い!」「もっと続きを読みたい!」と少しでも感じましたら、

広告下の☆☆☆☆☆評価、ブックマークをしていただけますと幸いです。


執筆の励みになりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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