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アルビー  作者: アオハル
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花屋のリリー

「それ、似合ってるね」


朝食の席でミアが言った。


「そうか」


アルビーは自分の上着へ目を向ける。


昨日買った仕事着だった。


ミアは嬉しそうに頷いた。


「新しい服、欲しいか?」


「うん、欲しい」


「どんなのがいいんだ?」


「あのね、リリーが着てる服」


ミアは少し身を乗り出した。


「すごく可愛いんだよ」



共同倉庫へ向かう道。


新しい靴が石畳を踏む。


買ったばかりの仕事着も体に馴染んでいた。


ほんの少しだけ足取りが軽い。


荷を運んでいる作業員とすれ違う。


「おう」


男が手を上げる。


アルビーも小さく手を上げた。


男はそのまま通り過ぎていく。


孤児院組や休憩中に見知った顔は、よく声を掛けてくれるようになっていた。



数日が過ぎた。


新しい靴にも慣れてきていた。


市場へ荷物を運ぶ、時には工房区へ行くこともある。


そんな日々が続いていた。


「アルビー」


ベイルが声を掛けた。


「あとで話がある」



昼休み。作業員はそれぞれ食事を始めていた。


アルビーも腰を下ろす。


そこへベイルがやって来た。


「さっきの話だ」


アルビーは顔を上げる。


「市場のパン屋から配達の依頼が来ている」


「依頼ですか」


ベイルは頷いた。


「エレノアには話してある。優先して構わんそうだ」


共同倉庫は?


「お前に回している仕事は元々他の連中がやっていた仕事だ。パン屋の配達を優先しろ」


ベイルは続ける。


「終わって時間があればこっちへ来い」


「わかりました」


「こんにちは」


近くから声がした。


アルビーが振り向く。


昼食の籠を持った娘が立っていた。


何度か見たことのある顔だった。


「私はハンナ」


娘は軽く頭を下げた。


「アルビーです」


「うん。ベイルさんから聞いてるよ」


ハンナはそう言って笑った。


「明日からなんだけど。しばらく配達を手伝って貰えませんか?」


アルビーは少し考えた。


「わかりました」


ハンナの顔が明るくなる。


「本当?」


アルビーは頷いた。


「よかった」


ベイルが口を開く。


「配達先や時間は向こうで説明する」


「はい」


「明日の朝、一度店へ行け」


「わかりました」


ハンナは頷く。


「朝には準備しておくから」



翌朝、アルビーはパン屋へ向かった。


店の外には香ばしい香りが漂っていた。


「いらっしゃい」


女性の声に迎えられ、中へ入る。


店内には数人の客がいた。


奥のカウンターでは、一人の女性が客の相手をしていた。


アルビーは少し離れた場所で待つ。


やがて客が店を出ていった。


「アルビーです」


「ああ、ハンナから聞いているわ」


女性はそう言って笑った。


その時、奥から足音が聞こえた。


「来た?」


ハンナだった。


アルビーを見ると笑う。


「おはよう」


「おはようございます」


「来てくれてありがとう、ちょっと待ってて」


ハンナは店の奥へ向かって、籠を抱えて戻って来た。


「まずは工房区の配達が二件」


カウンター横へ置いた籠の中を指差した。


「それから花屋」


アルビーは頷く。


どれも知っている場所だった。


「空籠は持って帰ってきて」


「わかりました」


アルビーは籠を持つ。


「じゃあお願い」


「行ってきます」


母親はその背中を見送った。


「信用できそうね」


ハンナは笑った。


「ちゃんとしてたもの」



アルビーは籠を抱えて店を出た。


いつもの木箱とは勝手が違う。


籠が大きく揺れないように歩く。


人とぶつからないよう足元にも気を配った。


工房区の配達を終える。


少し軽くなった籠を抱え、市場へ戻る。


残る包みは小さな一つだった。


市場の通りを歩いていると、やがて花の香りが漂ってきた。


見慣れた店先だった。



客を見送る。


花を抱えた年配の女性は通りの向こうへ消えていった。


「ありがとうございました」


リリーは頭を下げる。


店先から人影がなくなる。


ふと息を吐いたその時、銀色の髪が目に入る。


籠を抱えた少年がこちらへ歩いてくる。


リリーは小さく瞬きをした。


仕事着を着た少年は、前より少しだけ大人びて見えた。



アルビーは籠を少し持ち上げた。


「パン屋の配達で来た」


「え?」


アルビーは首を傾げる。


リリーは小さく首を振って、籠へ視線を落とした。


「ハンナのところだよね?」


アルビーは頷く。


「今日から手伝うことになった」



「中へどうぞ」


そう言って店の中へ入る。


アルビーも後に続いた。


店内には花だけではなく、鉢植えや苗も並んでいた。


見慣れない植物もある。


奥の棚には乾燥させた植物が吊るされていた。


花の香りに混じって、少し違う匂いもする。


「こっち」


リリーは店の奥へ歩く。


「ここに置いて」


アルビーは籠から包みを取り出した。


作業台へ置く。


「ありがとう」


アルビーは頷く。


少しだけ沈黙が落ちた。


リリーは包みへ視線を落とした。


「倉庫でも働いてるんだって」


「ああ」


「忙しいね」


アルビーは少し考えた。


「そうだな」


「パン屋も?」


「頼んでもらえたから」


リリーは少し笑った。


アルビーも少し笑う。


「じゃあ行く」


「うん」


アルビーは空になった籠を持ち直した。


「またな」


「またね」



「おかえり」


アルビーは空になった籠を差し出した。


「終わりました」


「ありがとう」


ハンナは籠を受け取る。


「夕方の配達もお願いできる?」


「わかりました」


ハンナの顔が明るくなる。



共同倉庫へ戻る。


ベイルは帳簿に目を落としていた。


金属のペン先が紙を擦る。


アルビーに気付くと顔を上げた。


「来たか」


「はい、夕方にも配達があります」


ベイルは小さく頷く。


「そうか。間に合うよう上がれ」


アルビーは頷いて、木箱を抱える。



気付けば日が傾き始めていた。


市場を歩く人の流れは少しずつ変わっていった。


店先へ並べた鉢植えを一つずつ店内へ運ぶ。


足を止めた客を迎え入れ、包んだ花を丁寧に渡して見送る。


ふと視界の先を銀色の髪が横切った。


人混みの向こうを足早に歩いていく。


しばらくして見えなくなった。


日がさらに傾く。


市場の店々も少しずつ片付けを始めていた。


箒を動かし、土や葉を集める。


ふと通りを見る。


また銀色の髪が見えた。


通りの向こうへ消えていく背中を、見えなくなるまで目で追った。



「お母さん、おやすみなさい」


「おやすみ、リリー」


自分の部屋へ戻ったリリーは、寝台へ横になった。


今日の出来事を思い返す。


何度か見かけた銀色の髪。


あの時の言葉。


(……頼んでもらえたから)


リリーは小さく呟く。


「頼んでもらえたから……」


少しだけ口元を緩めた後、目を閉じた。

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