市場の人たち
朝食の後。
エレノアが年少の子供たちの前に立つ。
「アルビーは今日からマルク班です」
マルクは頷いた。
ミアがアルビーを見る。
「同じ班だね」
アルビーはミアを見返した。
◇
井戸から水を運び、桶を並べる。
廊下を掃く。
ミアが途中で立ち止まった。
「つかれた」
「あと少しだ」
マルクは桶を受け取り、アルビーは最後の一つに手を伸ばす。
ミアは小さく息を吐いて、二人の後を追った。
◇
第四環第七区の市場は賑やかだった。
荷車が行き交い、商人たちが客を呼び込んでいる。
行く先々で声がかかり、エレノアは慣れた様子で応えていた。
◇
吊るされた肉が揺れている。
店先では大柄な男が客の相手をしていた。
「こんにちは、ガレスさん」
「ああ、エレノア。干し肉ならウサギのがたくさんあるぞ」
「いえ、今日はこの子の紹介に来ました」
ガレスはアルビーを見る。
「……ん?」
「ご存知なんですか?」
「何度か目にした。教会へ辿り着いたなら良かった」
店の中から少年の声が飛んだ。
「父ちゃん、そいつ?」
「教会の新入りだ」
少年は近付いてくる。
「俺はリアム」
「アルビー」
「市場の仕事も手伝ってもらう予定なんです」
エレノアが言った。
「なら、分からないことがあったら聞けよ」
◇
青果店。
雑貨屋。
荷運び人。
エレノアは一人ずつ紹介していく。
「明日から配達を手伝ってもらいます。少しずつ道を覚えてくださいね」
アルビーは通りを見渡した。
店も人も多い。
覚えることは多そうだった。
◇
「ここも覚えてくださいね」
花の鉢植えが並んでいる。
「この前来たばかりじゃない?」
「なくなったんだから仕方ねえだろ」
金色の髪が揺れ、少女が顔を上げる。
「その子?」
リアムが振り返った。
「ああ」
「昨日から孤児院へ来ました」
エレノアが言った。
少女は店先へ出てくる。
「私はリリー」
「アルビー」
「ここは野菜の種なんかも売ってるんだぜ」
「なんでリアムが言うの?」
「いいだろ別に」
エレノアは小さく笑った。
◇
夕方。
孤児院では子供たちの声が響いていた。
エレノアと門をくぐる。
庭ではマルクたちが薪を運んでいた。
マルクがこちらに気付く。
「おかえり」
アルビーは少し間を置いた。
「ただいま」
ミアが駆け寄ってくる。
「どうだった?」
「人が多かった」
「市場はだいたいそうだ」
マルクが言う。
「花屋も行った?」
「ああ」
「リリーいた?」
「いた」
ミアは少し嬉しそうに笑った。
「明日から配達だな」
マルクが言う。
「ベイルが連れていく」
「ベイル?」
「配達組のリーダーだ」
ミアは顔をしかめた。
「ちょっと厳しいよ」
◇
夜。
大部屋には静かな寝息が広がっている。
リアム。
リリー。
市場の人たち。
アルビーは天井を見上げ、孤児院へ戻った時のことを思い返した。
「ただいま」
アルビーは静かに目を閉じた。




