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アルビー  作者: アオハル
1/7

銀色の子供

帝国第四環第七区。


夜明け前の通りは動き始めていた。


石畳を鳴らす車輪。


縄を引く音。


荷を急かす怒声。


天へ向かって伸びる漆黒の塔。


麓から真っ直ぐ伸びる巨大な道は、白く浮かんで見えた。



まだ日も昇りきらない時間。


教会孤児院の扉を叩く音が響いた。


シスター・エレノアが扉を開ける。


そこに、小さな子供が立っていた。


銀色の髪。


その色を薄くしたような目。


汚れた服に、擦り減った靴。


「……どうしましたか?」


「置いていただけるところを探しています」


エレノアは、その目を見返した。


「名前は?」


「アルビー」


「姓は?」


「ない」


「年齢は分かりますか?」


「わからないです」


「入りなさい。寒いでしょう」


エレノアは小さく頷いた。


アルビーは入口で靴を脱ぐと、壁際へ静かに揃えた。


「まず身体を洗いましょう」


湯を使わせてもらうと、アルビーは静かに汚れを落とした。


「お腹は?」


「空いてる」


「それなら大丈夫ですね」


エレノアは少し笑った。



食堂では、年少組が朝食を待っていた。


年少組の少女がアルビーを指差す。


隣にいた年上の少年が声を掛けた。


「ぎんいろ」


「こら、指差さない」


少女は慌てて手を引っ込めた。


朝食のスープから、温かな香りが漂う。


アルビーは器を持ち上げる。


一度息を吹きかけてから、静かに口をつけた。


「お前、腹減ってないの?」


「減ってる」


年上の少年は少し眉を寄せ、しばらく向かい側の銀色を見つめていた。


「名前は?」


「アルビー」


「マルクだ、年少組の世話役をしてる」


マルクは隣の少女へ視線を向ける。


「こっちはミア」


「……ミア」


ミアは小さく手を振った。


「アルビーだ、よろしく」



朝食を終えると、エレノアが部屋を案内した。


大部屋の端。


古い毛布と、小さな棚がある。


「今日からこちらを使ってください。あなたも、これから孤児院の一員です」


「はい、よろしくお願いします」


エレノアは大部屋を見渡した。


アルビーの視線は、寝床と小さな棚へ向いている。


その目は、わずかに細められていた。



昼前。


アルビーは水桶を運び、掃除を手伝っていた。


途中でミアが雑巾を放り出した。


「つかれた」


「そこまでやったら終わりだ」


アルビーは床を指差す。


ミアは少し考えてから、また雑巾を持った。


(……うまくやれそうですね)


エレノアは胸の内でつぶやく。



夕方。


孤児院の窓からは、第四環第七区の荷路が見えた。


倉庫。


工房。


市場。


黒い屋根が並ぶ向こうに、巨大な道が遠く光っている。


通り過ぎる荷馬車。


道に残った轍。


アルビーは窓際に立ち、しばらく外を見ていた。



夜。


子供たちが眠った後、エレノアは木札を一枚増やした。


『アルビー』


推定六〜八歳。七歳として記録。


出身不明。


そこまで刻み、手を止める。


それから、小さく書き足した。


『要観察』


木札を伏せる。


エレノアは静かに息を吐いた。


(言葉遣いは丁寧で、愛想はあまりないけれど、嫌な感じはしないわね。下層で育った子供、という感じでもありませんし……)


(……何かあったのでしょうね)


とはいえ、事情を抱えた子供は珍しくない。


エレノアは灯りを落とした。


(……まずは、慣れてもらわないとですね)



大部屋の端で、アルビーは目を閉じていた。


第四環第七区の夜は騒がしい。


荷車の走る音が響く中、アルビーは屋根の下で深い眠りに落ちた。

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