第86話 神様との修正会議は、うどんの香りと共に
いつもお読みいただきありがとうございます!前回、まさかの我が家のワンルーム(畳)にラトラが降臨してしまい、作者生命どころか生命の危機を迎えているバブ神(作者)です。ラトラの手際の良さに恐怖しつつ、美味しい尋問(?)が始まります。本日もどうぞお楽しみください!
ラトラはフッと妖艶に微笑むと
プロット(設定資料)を机の上に戻し
私の小さな体をそっと両手で抱き上げた。
(ひえっ!? 殺される!? 打ち切りフリーズさせられるーー!?)
身構える私を、ラトラは優しく座布団の上に座らせると、トコトコとアパートの小さなキッチンへと向かった。
「ちょうど夜食をいただこうと思っておりましたの。野生の私リリィーナの記憶によると、この部屋の冷蔵庫には
『うどん』という麺類と、卵があるはずですわね。神様、貴方もお腹が空いていらっしゃるのでしょう?」
(え……? 怒るのをやめて、夜食を作ってくれるの……?)
予想外の優しい対応に、私はポカンと
小さな口を開けた。さすがお上品人格ラトラ、神への不敬は許さずとも、赤ん坊を飢えさせるような無慈悲な真真はしないらしい。
それにしても、ラトラはキッチンの
ところでトントンと手際のいい料理を
していて、まるでこの日本で料理をしたことがあるような手際の良さだった。
「ばぶばぶな、ななう(ねぇラトラはさなんでそんなに手際いいの? ここ来てそんなに時間経ってないし物とかやり方とか知らないね?)」
作者のバブ言葉で意味が伝わっているかは謎なだけど……。ラトラは料理をしながら何となく作者が言っていることが
わかっているようだった。
「私元いた世界の人間ですわ、だけど私ラトラの時に少し記憶が違うのが入ってますわ」
(えっ、?わ、私そんな設定してないなんで?)」
背筋にゾクリと冷たいものが走る。
二重人格(お上品&野生)の設定は
確かに私がアクセス数を稼ぐために
血反吐を吐きながら考えたものだ。
しかし、ラトラに『現代日本の記憶』があるなんて設定は、プロットのどこを探しても絶対に書いていない。
ラトラの美しい横顔を見つめながら
私はガタガタと震え出した。これは一体どういうこと? 私が作った小説の世界に、私の知らない「バグ」が起きて
いる……!?
しかし、キッチンからトントンと小気味よい包丁の音が響く中、ラトラの声が
再び優雅に届いた。
「これからどうやってあの4人の王子たちの執着を躱かわしていくか……。
作者である貴方も一緒に、じっくりと考えていただきますわ。まずは、この温かいうどんをいただいてから、たっぷり
時間をかけてお話し合いをいたしましょう? そして、貴方がいつ私たちの望む
『ハッピーエンド』を書き上げてくださるのか。たっぷり時間をかけてプロットの『修正案』を練り上げますわ」
(……あ、これ、ご飯を食べさせられた後にめちゃくちゃ修正会議で詰められるやつだ)
神様(作者)の胃が、恐怖で
キュッと縮み上がる。
スマホの爆発は免れたものの、私の
ワンルームは今、異世界のどのダンジョンよりも恐ろしい「お上品な尋問室」へと変貌を遂げていたのだった。
「お待たせいたしましたわ、神様。お口に合うとよろしいのだけれど」
お上品な微笑みを浮かべたラトラが
ワンルームの小さなちゃぶ台に置いたのは、湯気がふんわりと立ち上る卵とじうどんだった。
出汁のいい香りが、冷え切っていた私の部屋に広がる。いつなら
「うおおお美味そう!」と飛びつくところだが、今の私にはこれが
『死刑囚に与えられる最後の晩餐』に
しか見えない。
なにせ、うどんの表面から立つ湯気すら、ラトラの無言の圧力でピキピキと
凍りついている気がするのだ。
「ば、ばぶぅ……(あ、ありがとうございます、でも胃が痛くて食べられないです……)」
涙目で首を振る私に、ラトラは「あら」と綺麗に首を傾げた。
「召し上がらないのですか? 粗末なワンルームの冷蔵庫にあったものですから、私の世界の宮廷料理には及びませんけれど……野生の私が、この『めんつゆ』という魔法の調味料を大変気に入っておりましてよ。さあ、冷めないうちにどうぞ?」
ラトラが優しく箸を差し出してくる。
その綺麗な指先から、かすかに
『絶対零度』の冷気が漂っているのを私は見逃さなかった。
これ、食べなければ物理的に凍らされるやつだ。私は意を決し、赤ん坊の短い手で必死に箸を握ると、うどんをちゅるちゅると啜った。
……悔しいことに、めちゃくちゃ
美味い。出汁が五臓六腑しみ渡る。
「ふふ、可愛いお口ですわね。しっかり食べて、脳に栄養を行き渡らせてくださいませ? これから……非常に建設的で、非常に有意義な『修正会議』を行うのですから」
ラトラは私の向かい側に優雅に正座すると、先ほどのプロットをパサリと広げた。その瞬間、彼女の瞳がスッと冷徹な『最強魔法使い』のそれに変わる。
「まずは、この先の展開についてですわ。タイトルにある『卒業までに一人を選ぶなんて全員の執着が凄すぎて選べません!』……これを、今すぐ書き直していただきます」
「ば、ばぶっ!?(え、タイトルから変えるの!?)」
驚いてうどんを吹き出しそうになる私に、ラトラは人差し指をチッチッと横に振った。
「選べないのは、あの殿方たちの執着が異常だからですわ。ならば話は簡単。
彼らの『執着設定』を、今すぐ全て解除してくださいませ。そうすれば私は平穏な学園生活を送り、卒業式を笑顔で迎えられますの」
「ばぶ、ばぶブゥーッ!!
(む、無理だよ! そんなことしたら
この小説のアイデンティティが崩壊してアクセス数がゼロになっちゃうよぉぉ!!)」
私が必死に短い手足をバタバタさせて
抗議すると、ラトラは「はぁ」と深くため息をついた。
「アクセス数、ですか。やはり貴方は、ご自身の娯楽と数字のために、私たちをあのストーカー集団のオモチャにしていたのですわね……。神様。私たちは貴方のオモチャではありませんのよ? 毎日あの執念深さに付き合わされるこちらの身にもなっていただきたいものですわ。
毎日毎日、私の『心の声』を拾っては
『なんて可愛いんだ!』と壁を破壊して突っ込んでくる第一王子の恐怖が、貴方に分かりますの?」
ラトラの背後に、ゴゴゴゴとどす黒い
オーラが立ち上る。部屋の窓ガラスが
パキパキと音を立てて凍りつき始めた。
「これ以上、あの頭の狂った殿方たちに付き合わされるのは御免被ります。
もし、設定の書き換えが不満だと言うのでしたら……」
ラトラはフッと妖艶に微笑み、私の
スマホを手に取った。
「この画面にある『投稿を削除する』というボタンを、私が代わりに押して差し上げてもよろしいのですよ?」
「ひえええええええ!!! 打ち切りどころか作品消滅の危機(物理)ーーーーーー!!!」
そんな私の大混乱を余所に、ラトラは
再び不敵に微笑む。
「この『記憶のバグ』についても……。温かいうどんをいただきながら、たっぷり時間をかけてお話し合いをいたしましょう?」
(第86話 おわり)
第86話をお読みいただきありがとうございました!作者のプロットにない謎の記憶……ラトラは一体何者なんでしょうか?(作者も冷や汗が止まりません)。そして、温かいうどんを食べさせた後に笑顔で作品削除をチラつかせてくるお上品な脅迫、怖すぎますね。ラトラの中に混ざっている『違う記憶』の正体について、「もしかして〇〇なのでは!?」という皆さんの予想や、作品への感想をぜひ【ブックマーク】や【評価】、【感想欄】で教えていただけると嬉しいです!




