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第85話『設定資料(これ)の説明を求めます』

いつもお読みいただきありがとうございます!前回、現代日本で初覚醒したお上品人格のラトラ。部屋に満ちていた王子の魔力モヤを『絶対零度』でフリーズさせた彼女でしたが、なんと作者の書きかけの資料を見つけてしまい……!?ついに作品のタイトルと設定の真実が、ヒロインにバレる大ピンチです!

私の制止も虚しく、ラトラは優雅な足取りで机に近づくと、そこに置かれていた紙を手にとった。


それは、私が締切のたびに血反吐を吐きながら書き殴っていた、この小説の題名や今後のシナリオが事細かに書かれた

いわゆる『プロット(設定資料)』

だった。


資料を持ち上げたラトラの雰囲気が

ずーっんと重く変わっていくのが肌でわかる。

(ひ、ひえぇぇ……!! 空気が、空気の重さがさっきと全然違う……っ!!)


肉体が赤ん坊(バブ)になっている私は、畳の上で短い手足をガタガタと震わせることしかできなかった。


精神は成人女性のままだが、目の前に

漂う圧倒的な圧に、声にならない悲鳴を心の中で上げる。


ラトラは資料をペラペラと優雅にめくりながら、その美しい唇を開いた。部屋の温度が目に見えて下がっていき、彼女の足元から密かに冷気が漂い始めている。


「二重人格な私が4人の王子に情愛

され、執着がすごすぎて卒業までに1人選べません……これが、この物語なんですわね。それを書いて、どこかへアップしているのが……神様(作者)、貴方なんですのね?」


冷徹で、どこまでも透き通った声がワンルームに響く。ラトラは資料からゆっくりと目を離すと、畳の上でガクガクと

震える私を、氷のような瞳で見下ろした。


(完全にバレたーーーーーー!!! 言い訳の余地が一切ないレベルで全部バレた!!!)


自分たちを毎日毎日、ノイローゼになるほど追いかけ回す4人の王子たちのあの異常な執念深さが、偶然の産物などではなく、すべて目の前の赤ん坊(作者)がアクセス数を稼ぎたいがために仕組んだ

「仕様(設定)」だったという真実に、お上品人格のラトラは完全に気がついてしまったのだ。


「私、常々不思議に思っておりましたの。なぜあの殿方たちは、こちらの都合も考えずにカルト的な熱量で迫ってくるのか。なぜあれほどまでに話が通じないのか……。すべては、貴方がそのように筆を走らせていたからなのですわね?」


ラトラが今までの資料をめくるたびに、指先からパラパラと小さな氷の結晶が

舞い散る。


さっきスマホの暴走を止めた『絶対零度の檻(アブソリュート・フリーズ)』

とは違う、精神的にじわじわと外堀から追い詰めてくるタイプのお上品な恐怖。


(バブゥゥゥーーーッ!!!(ごめんなさいぃぃぃ!! 私のタイプが執着する方

が最高に狂ってて好きなの!』ってただ単私が好きってことは口が裂けても言えないぁぁあい)


私が必死に涙目で首を横に振ると

ラトラは「まぁ」と小さく口元に手を当てた。


「お答えになりたくないと? ですが

こちらには大変興味深いことが書かれておりますの。


私たちがどれだけ必死に逃げ回ろうが

どれだけ頭を悩ませようが、最初から

誰も選ぶことができない運命(ルート)になっておりますのね? 選びたくても、選ばせてもらえない仕様だと。タイトルにも堂々と書いてありますものね」


(バ、バブみのある神をそんな冷たい目で見ないでぇぇぇ!)


ラトラの言う通りだった。この小説の

コンセプトは、王子の執着が凄すぎて

誰も選べないドタバタ劇。つまり、結末の手前まで「誰も選ばない(選べない)」のがメタ的な絶対ルールなのだ。


それを当事者に知られるのは、まさに

作者生命の危機である。


「神様。私たちは貴方のオモチャでは

ありませんのよ? 毎日あの執念深さに付き合わされるこちらの身にもなっていただきたいものですわ。……さて、この通りタイトルにも『選べません』と書かれているということは……」


ラトラはフッと妖艶に微笑むと、資料を机の上に戻し、私の小さな体をそっと

両手で抱き上げた。


(ひえっ!? 殺される!? 打ち切りフリーズさせられるーー!?)


身構える私を、ラトラは優しく座布団の上に座らせると、トコトコとアパートの小さなキッチンへと向かった。


「ちょうど夜食をいただこうと思っておりましたの。野生の私(リリィーナ)の記憶によると、この部屋の冷蔵庫には

『うどん』という麺類と、卵があるはずですわね。神様、貴方もお腹が空いていらっしゃるのでしょう?」


(え……? 怒るのをやめて、夜食を作ってくれるの……?)


予想外の優しい対応に、私はポカンと小さな口を開けた。


さすがお上品人格ラトラ、神への不敬は許さずとも、赤ん坊を飢えさせるような無慈悲な真似はしないらしい。


しかし、キッチンからトントンと小気味よい包丁の音が響く中、ラトラの声が再び優雅に届いた。


「これからどうやってあの4人の王子たちの執着を躱(かわ)していくか……。作者である貴方も一緒に、じっくりと考えていただきますわ。まずは、この

温かいうどんをいただいてから、たっぷり時間をかけてお話し合いをいたしましょう? そして、貴方がいつ私たちの望む『ハッピーエンド』を書き上げてくださるのか。たっぷり時間をかけて

プロットの『修正案』を練り上げますわ」


(……あ、これ、ご飯を食べさせられた後にめちゃくちゃ修正会議で詰められるやつだ)


神様(作者)の胃が、恐怖でキュッと

縮み上がる。スマホの爆発は免れたものの、私のワンルームは今、異世界のどのダンジョンよりも恐ろしい

「お上品な尋問室」へと変貌を遂げていたのだった。


(第85話 おわり)

第85話をお読みいただきありがとうございました!ついにタイトルと設定の真実をすべて知ってしまったラトラ。漂う冷気とお上品な圧の前に、赤ん坊の神様は完全に形無しです。はたして、夜食の後に始まる「プロット修正(対策)会議」はどうなってしまうのか……!?面白いと思ってくださったら、ぜひ評価やブックマークで応援をよろしくお願いします!

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