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第84話『お部屋の中ではお静かに!』

いつもお読みいただきありがとうございます!前回、なんとか神様(作者)のボロアパートへ滑り込んだリリィーナ。ですが、安心したのも束の間、スマホがショートして画面が真っ暗に!さらに部屋全体に広がる不穏なモヤとノイズ……。実体化を企む王子たちのピンチに、お上品な裏人格「ラトラ」が目覚めます!

勢いよくドアをバタンッと閉め、すぐ

さま鍵とチェーンをかけた。


「はぁ〜っ、やっと家に着いたけど……これからどうしましょう。作者は赤ん坊になってるし、この四角いやつは……

あちっ!」


私は玄関のドアの前にへたり込むと

スマホの熱さに思わず手を引いた。


体育座りの姿勢のまま、これからのことを考えて頭を抱える。頼みの綱だった神(作者)は頼りない赤ん坊の姿。


おまけに、異世界と繋がってしまったこの四角い機械は、今なお異常な熱を持ち続けている。


(待って! 私の部屋でリチウム魔力爆弾が炸裂したら、今月の原稿とプロットもろとも部屋が消し飛ぶーーー!!)


幼児化している作者は、心の中で血の涙を流しながら、短い手足をジタバタさせて畳の上を転がった。


しかし、次の瞬間。私の手の中で

スマホが「パチッ」と小さな火花を上げた。


限界を迎えたリチウムイオンバッテリーが、ついに完全にショートしたのだ。

そのまま、バキバキの画面に映っていた光が、ぷつりと消えた。


「あ, 消えた……? 壊れたのかしら」


私がホッと胸をなでおろしたのも束の間。画面の光が消えたその瞬間、スマホの隙間から禍々しい紫色の『モヤ』の

ようなものがブワッと溢れ出し、一瞬にして部屋全体へと広がり始めた。


ジジジジジジジジジジジッ……!!!!


不快な、空間そのものが削れるような

雑音が部屋の中に響き渡る。ただのスマホのスピーカーからではない。


部屋の壁から、天井から、まるでワンルーム全体が巨大なスピーカーになったかのように、4人の王子たちの声が響き始めたのだ。


『リリィーナ……逃げられると思ったのか……? そこは誰の部屋だ、男の気配がするぞ……!』


『おい野生リリィーナー! 待ってろよ! ここの術(システム)とかいうやつを解いたら、すぐ向かうからな!』


『リリィーナちゃん、僕の言うことが聞けないのかなぁ!?』


『ふむ、この空間の座標データの

『ダウンロード』が終われば、そちらへ……』


(通信だけじゃなくて、部屋ごと異世界と同期して実体降臨のダウンロードが始まってるじゃん! 終わった、私の家賃四万五千円の聖域が異世界のストーカー

どもに蹂躙されるーーー!)


モヤは意志を持つかのように、作者の

液晶ディスプレイや、床に散らばった

同人誌へと侵食を始めようとする。


空間が歪み、王子たちの影がモヤの中に形作られようとした、その時だった。


「――うるさーーーーーーいですわーっ!!!!」


ピキィィィィィンッ!!!


部屋の空気が、一瞬でカチコチに凍りついた。声を上げたのは、へたり込んでいた私だった。


しかし、その声のトーンは、先ほどまで絶望していた粗野な野生リリィーナの

それではなかった。まるでガラスの鐘を鳴らしたかのような、どこまでも透き通った、そして絶対的な威厳に満ちた――超一流の貴族令嬢のそれである。


「な、なうっ!?」


(えっ!? この声ってまさか……!?)作者が驚いて見上げると、私の雰囲気がガラリと変わっていた。


立ち姿は文字通り凛として美しく

背筋は一本の針のように伸びている。

その瞳には、知的で冷徹な、しかし最高級の気品が宿っていた。


私の中に眠る最強の魔法使い――お上品な裏の人格『ラトラ』の、現代日本に

おける完全なる覚醒の瞬間だった。


ラトラとなった私は、部屋を満たす怪しいモヤを冷ややかな目で見回すと

フッと小さくため息をついた。


「まったく、どこのどなたか存じませんが……夜分遅くに、他人の御屋敷

(ワンルーム)で大声を張り上げるなど、紳士の風上にも置けない不作法ですわね」


『な、何だこの声は……!? リリィーナ、もしかしてラトラが――』


空間の向こうで、カルト王子が困惑の声を上げる。だが、ラトラはその言葉を

完全に無視し、すっと右手を空間にかざした。


「お部屋の中では、お静かになさい。

――『絶対零度の檻(アブソリュート・フリーズ)』」


ドンッ!!!ラトラの指先から、現代日本の物理法則を完全に超越した、神々しいまでの純白の魔力が解き放たれた。


その瞬間、部屋を満たしていた禍々しい紫色のモヤも、壁や天井から響いていた王子たちのうるさいストーキングボイスも、すべてが一瞬にしてカチコチの

「氷の塊」へと姿を変えた。


異世界から流れ込んでいた歪んだ魔力

ごと、部屋の空間そのものが絶対零度の氷の中に完全封印されたのだ。当然

王子たちの通信も、『あ、熱っ!?

なんだこの氷魔術は、画面がフリーズして――』


という声を最後に、完全にシャットダウンされた。シーン……と、静まり返るワンルーム。そこにあるのは、お上品に

凍りついたスマホと、それを満足そうに見つめる完璧な令嬢姿の私(ラトラ)

だけだった。


(す、すげえええええ!! 実体化のダウンロードを部屋ごと魔法で物理フリーズさせやがった!! さすがお上品&最強魔法人格ラトラ!!)


作者バブは畳の上で立ち上がり、短い両手で激しく拍手を送った。部屋の消滅と原稿の危機を免れたのだ。神として

これ以上の賛辞はない。


「あら、可愛い赤子(神様)ですこと。お騒がせして申し訳ありませんわ」


ラトラはスカートの裾をつまむような

仕客で、お上品に一礼した。しかし

ストーカーの脅威が去ったのも束の間、ラトラの鋭い視線が、部屋の机の上に置かれた「あるもの」へと向けられた。


そこにあったのは、作者が締切に追われて書き殴っていた、この小説の

『プロット(設定資料集)』である。


「おや……? これは……?」


(あ、待って、それを見たらメタ的な

大ネタバレが――!!)


作者の制止も虚しく、ラトラは優雅な

足取りで机に近づくと、そのプロットを手に取ってじっくりと読み始め、そして美しい眉をピクリと動かした。


「……ふむ。『卒業までに一人を選ぶなんて全員の執着が凄すぎて選べません!』……? 私たちのこの過酷な現状が、すべてタイトル通りの仕様(設定)ですって……?」


ラトラの瞳の奥に、怪しい光が灯る。

自分たちを追いかけ回す4人の王子たちのあの異常な執念深さが、偶然ではなく、すべて目の前の赤ん坊(作者)が

仕組んだ物語の設定だったという真実に、お上品人格のラトラは気がついてしまったのだった。


(第84話 おわり)

第84話をお読みいただきありがとうございました!リリィーナの裏人格、お上品なラトラが現代日本で初覚醒。部屋ごとの通信ハッキングを『絶対零度』で強制フリーズさせました。しかし、部屋を見渡した彼女の目に留まったのは、作者の書きかけのプロット(設定の塊)。自分たちの運命と、王子たちの執着の原因を知ってしまったラトラの行動とは……!?面白いと思ってくださったら、ブックマークや評価での応援をぜひよろしくお願いします!

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